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23話 マリーのわがままファッション

「ようよう、新キャラよう。あっしらのクランに入れないって、ハグたんに喧嘩売ってんのかこのヤロー」

「マサムネさんの何がそこまで駆り立てているんですか……」


 宥めようとするハグたんだったが、それに構わずマリーは首を傾げる。


「はぁ? よく知りもしない人のクランに無警戒で入れるわけないでしょ」

「うむ、良識的なモラリティだ。だからこそハグたんの友達にマリー1人だけを採用した」


 そうクロは納得していたように言った。


 友達募集中とハグたんが答えた昨日、ゴールドや貢ぎ物を用意するほど食い気味にクランに入りたがっていた不審なプレイヤー達とは異なり、マリーは逆にクラン加入にだけは否定的だったがため、下心のなさに感心したクロが合格を判定したのだ。


 それに、もっと交流した親しくなればクランに加入すると仄めかしている意味合いもあるのかもしれない。

 まさにハグたんの新たな友達、ひいてはコミュニケーション能力を高める良い経験の相手になるだろう。



「というかクラン以前にねぇ、まずあんた達のその恰好、どうにかなんなかったの?」


 唐突に3人の着ている装備を品定めするような目つきとなり、最初に物申した相手はクロ。


「まずあんた、クロノさんかしら。喉仏を隠すリボン、体のラインを隠すコルセット、血管が浮き出てるゴツい手を隠すグローブ。全体的に男っぽい部分は概ね隠せてるわ、女装にしては及第点ね」

「我、いつまでそのレッテルを貼られていればよいのだ……」


 マリーの視線では自分のことをどう捉えてるのか、それによって褒めてるのか貶してるのかが変わる。ややこしい経緯を後で話しておこうとクロは心の中で嘆いていた。


「次にマサムネ……あんた雑巾でも着てるわけ? そんないかにも間に合わせみたいなちゃらんぽらんコーデ、これならスクール水着でも着てる方が大分マシね」

「うるせーし! おニューの刀に全財産つっこんだんだからしょうがねーし!」


 中々に容赦のないダメ出しに、ただでさえ虫の居所の悪いマサムネはますます腹を立たせる。

 マリーもあくまで衣服だけ品定めしてるので、流麗な曲線美をもつ高価な刀への評価はついぞ無かった。


「最後に、ハグたんって呼ばせてもらうわ。というかそんなパジャマみたいな恰好で優勝の壇上に立てたなんて信じらんない!」

「私はパジャマですすみません!」


 まだまだゲームに疎いハグたんは、初期装備のまま一度も換装しないでここまで来れてしまっていたある意味誇りある事実を恥じた。

 どうやらマリーというプレイヤー、まず形から入りたがる趣向のようだ。


 それでもマリーはハグたんに対してだけは笑顔を形作り。


「怒鳴って悪かったわ、ハグたんを責めたいわけじゃないの。それもこれも、あんたらが引率していながらオシャレの情操教育を怠ったせいよ!」

「あんだごら! この人造人間17秒が! 新キャラのくせに生意気だドチクショー!」

「喧嘩腰やめろマサムネ!」


 ハグたんの友達になれても、マサムネとの友達になるには至難の業となりそうだ。


 じゃじゃ馬の手綱を握るクロがどうにか融和をはかってこの場は収束。


 マサムネに煩わしさを覚えたマリーは膝を曲げてハグたんと視線を合わせる。


「そうねハグたん、この世に女の子として生まれたなら、おめかししてみたくなることってあったかしら?」

「ええと……あまり……」

「ふふん♪ 口では嘘つけても、このあたしのコーディネートに目が興味津々ね」


 心根を読み取ったマリーは、だんだんと上機嫌となる。


「このあたし、マリーお姉さんがいいところを紹介してあげるわ。このあたしみたいに生まれ変わりたければついて来なさい」


 振り向きながら先導し、悩んだハグたんはややあってついて行くと決める。


 マサムネとクロも、前2人の打ち解け合いに水をさすのは悪いと思ったようで、離れたところから後に続くのであった。



○○○



「こ、これが……私?」


 目を開けたハグたんは、店内の姿見に映る自分の格好の変わりように声もなくなっている。


 マリーとお揃いの、ハグたんが興味津々となっていた可愛さと上品さ満載のロリィタファッションに実際に身を包んでいたからだ。


「姉妹コーデは完了っと。やっぱり素体が良いと着せ替え甲斐があるわね」

「姉妹!? わひゃあ……」


 距離の詰め方にハグたんは困惑はしたが、自分の行動は全てにおいて正しいとでもいうようなマリーの自信に満ちた内面を表しているだろう。


 マリーの紹介したこのファンシーな呉服屋は、デザイン性重視の防具や衣服だけを充実させたラインナップである上に試着が自由である。

 着るというよりウィンドウから装備を切り替えるだけで着替えられるのだが、装備を一つずつ順に着せ替えるのがマリーのこだわりだ。


「そしてこれが最後の仕上げよ。ひと手間の魔法をかけるだけで、ほぉら大変身!」

「ふっ、ふえええっ?」


 最早ハグたん専属コーディネーターと化していたマリーは、ハグたんの長い前髪を左右にかき分けて開く。

 これで恰好だけではない、まるでハグたん自身も華奢で気品あるお人形の仲間入りだ。


「バッチリ素敵に決まったわねハグたん。どうかしら? 女の子の遊びっていうのは」

「最高ですっ! 私、こんな豪華でフリフリな服なんて着たことなかったので!」

「ふふん、そんなに嬉しがってくれるなら、きっとハグたんに着られる甘ロリ衣装も喜んでいるわ」


 手足を動かしたり跳ねてみたり、ドレスアップした本当の自分であるか確かめるようにはしゃぐ興奮度に、マリーはハグたんのことをまるで自分をよく慕う妹分のように鼻を高くした。


「次いいかしら? このゲームでハグたんだけが似合う衣装があるの」

「はっはい! 是非着させて下さい!」


 あの極度の人見知りのハグたんが、出会って数刻程度の相手に完全に懐いた。心の鍵の開き方を学んでいた。


 そうして併せられた次の衣装もまた、ハグたんの心は騒音を立ててタップダンスさせるほど。


「ひゃわぁ……これも、かっっかわいいです!」

「そ! 夢見始めな女の子の憧れ、アリスモチーフのコーデよ! 靴の先までこのあたしが直々に見繕ってきたわ」


 水色のエプロンドレスに縞のソックス、目元にはダイヤやクローバーのタトゥーを貼ってほんの少しの個性と大人っぽさを付け加えたアクセント。果てにはうさ耳リボンにブロンドカラーの長髪のウィッグまで装着したが故、生まれ変わったのも過言ではない別人っぷりと変身した。


「不思議の国のヒロインになった自分、存分に楽しみなさいね。こういうのって大きくなるほど似合わなくなるものなの」

「そんな……きっとマリーさんが着てもかわいいと思います、はい」

「あら、小さいのに褒め上手ね。だけども、ここはやっぱりハグたんこそが仮想世界一似合っていると断言するわ」

「そ、そうですかぁ、えへへへへ。私、こんなに生まれ変わっちゃって、どうしよう……」


 ハグたんは昇天するほど感極まるには気に召している。


 ということは、ここで実際に昇天するのがハグたんという人物とその冗談を現実にするカムイ。


来い、神威(カムイン・カムイ)〜」

「あぁえぇ?」


 この奇行には、否、この意図せず誕生した絶望的ファッションセンスには流石のマリーも難色を示す。


 ただでさえ奇抜なカムイだったのが、まんまるい爆弾の頭にリボンとウィッグがそのまま乗っかった強烈な顔となってしまったからだ。

 これでは不思議の国の摩訶不思議である。


「まあ……これはこれで個性的なんじゃないかしら」

「口では嘘つけても目が泳いでますよ!?」


 精神的な意味で冷や水を浴びせられたおかげで、自爆する意思は未遂のうちに封印された。


「あとはこれをお買い上げして、新生ハグたんのオシャレコレクションに加えるだけよ! 値段は……やっぱり結構張るのね、けど優勝賞金たんまり貰ってるんでしょう?」

「ううんと……や、やっぱり返してきます。こんなの目立ちすぎて、出歩けませんから……」


 やはりハグたん特有の不安を感じやすい性格はそう簡単に直せない。

 見かねたマリーは膝をおろし、ハグたんと同じ高さから目を合わせる。


「ハグたん、ここは学校でも葬式場でもない、CCOっていう自由なゲームの中なの。かっこいいのでもかわいいのでも、ハグたん自身の着たいものを着たもの勝ちなんだから」

「ですけど……」


 反論したがってるハグたんだったが、パニエの詰め込まれたドレスをふわっと浮かび上がらせるよう一回転しながら立ち上がり。


「いいこと? オシャレの基本は我慢強さじゃない、“我の強さ”。好きだと直感したお洋服をあれこれ着ていくほど、自分のことも自然と好きになって自信も身についていくのよ」

「我の強さ……うぅ、私にはこれっぽっちも……」

「ほら、しゃきっとなさい! このあたしが友達になったんだから、ハグたんの開花したモデル級の魅力は約束するわ!」

「マリーさん……でっでは私、マリーさんが着せてくれたこのドレス一式、すぐに買ってきます!」


 まるで友達であり姉代わりでもあり生涯の師に出会えたかのようなハグたんは、少し救われたような心持ちとなり、興奮冷めやまない足取りで自分から会計へとはしゃぎながら向かった。


 これまで無人販売所でしか会計したことがないハグたんからすれば大躍進だろう。

 形から入れど、形だけではない。お洒落は人自身を変えられる。


 だが、その一連の流れを個人的に快く思わない者もいた。


「へんっだ。ハグたんのやつめ、シャララしたオベベにデレレしちゃって」

「ははぁん、貴様、さては嫉妬しているな?」


 マサムネの極めて珍しい感情表現には、クロも思わず悪友面となりその感情の名を指摘したほど。


「嫉妬じゃないやい! ゼッタイだい! 服なんて防御力があればすっ裸でもいいんだやい」

「なんか矛盾してないか」


 そう騒がしくなりつつも、店内の少し離れたところからハグたんの様子を引き続き見守る2人であった。


 マリーはひとまず悪人ではなかったどころか、人柄の良さとハグたんへの理解度の高さをまざまざ見せつけられたせいで、そこにマサムネはジェラシーを感じているのかいないのか。


 ただクロは、装備の性能としての見解もマサムネとは異なり肯定的だ。


「考えてもみよ、一撃食らっただけで最期なハグたんのステータスだ。だったらいっそ好きなものを着させる方が、ハグたんのためというものだろう」

「言われてみたらそうかも? っていやいや、だからこそなるべく一撃死しなないようにするフルアーマーなパラディン的装備こそがさぁ〜」

「ふうん、クロノの方がよく分かってるじゃない」


 議論が白熱してきたところで、会計中のハグたんに代わってマリーが2人の前に立っていた。


「女の子最大のモチベーションこそコーディネート。身だしなみすらおざなりなあんたには難しい話だったかしら?」

「服なんて動きやすけりゃいいもん! クーちゃんが宇宙いちキマっていれば、ウチも自動的に宇宙で2番目にきゃわたんだもん!」

「それもそうね。あんたには裸だとしても何も言うこと無かったわ」

「あぁん!? ウチこいつキライ!」


 マリーの皮肉を読み解いたマサムネはますます不興を買う。

 というより彼女、美意識はもちろんそれを度外視した上であれ不誠実で不真面目なプレイヤーに毒を吐きがち。

 そうした不遜さと表裏一体な言動こそが、鼻持ちならない目上や同輩を嫌悪するマサムネと反りが合わない最大の理由だ。


「全く、あんな着こなしの欠片もない原始人と友達だったなんて、ハグたんに同情しちゃうわ。もしCCOが家庭用ゲームだったら、あの子、今頃コントローラーも握れなるほどゲームから離れてるはずよ」

「マリー、我らも見直すべき忠告ではあるが、あまり言い過ぎるな」

「あらごめんあそばせ。このあたし、強く言い出せない弱気な人の味方なの」


 どこまでもオブラートに包まないマリーの物言いは、マサムネとだけでなくクロとも溝を深くさせていた。

 流石にクロは冷静沈着で達観した対応はあるが、マサムネと連帯責任でもこれだけ扱き下ろされれば良い気分とはならない。



 そんな一抹のわだかまりを残しながらも、戻ってきたハグたんはアリスとなりながらホクホク顔で呉服屋を後にした。


「マサムネさん、クロさん。ふへへ、どうですか、私かわいいですか?」

「やっべすっげかわい〜! よきよきの尊みで推せる〜! 口にエビフライ突っ込みたくなる〜?」

「見違えるほど垢抜けたではないか! つくづく惜しむらくは、壇上に登る昨日の時点で見違えさせたかったが……」

「ま、当然の褒め言葉よね。イメチェンこそが人を惹きつけるんだもの」


 共通してハグたんの友達である今のところは、心配には及ばなさそうだ。

 次回、マリーさんの来い、神威

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