16話 マサムネの試練
少々おつらい展開となります
「やほやほ! クーちゃん見てるぅ? あっしのドチャクソシビれる勝利でうれションするためのオムツ装備、忘れてないね?」
そうクロへ執拗なほど嫌がらせるような発言と共にカムイを出したマサムネと。
「けっ、カムイ使いなんかに負けないぜ」
カムイを持たないNPCの男性が鉄製の剣を手にバトルフィールドに入場する。
選手同士が戦うこのバトルフィールドの地は、平坦で円形であり砂色という無骨なデザイン。
なのだがその1つのフィールドで8組同時に試合となるため、チョークで書かれたような白い円が8つ。
そこが仕切りとなり選手だけが自由に動ける範囲となるため、つまりは審判でさえ試合中は円の外でジャッジするので邪魔にはならない。
「あやつのやる気ならば負けはせぬだろうが、何故だ……胸騒ぎがするな」
一人だと厨二病ぶるクロの発言なので誰かに聞かれても流されそうだが、それでも本人は確かに予感していた。
マサムネの試合は1回戦というだけあって、観客席にはクロ1人だけといういささか寂しい状態であった。
それでも試合は始まろうとしている。
NPC審判の男性は2人の間に立ち、平手を下げる。
「それではこれより、マサムネ選手対ニンハン選手の試合を開始します。両者位置につきまして……」
その後の号令と共にこの手が上がれば、試合開始のはずだった。
「試合……」
「ん? のわわわっ!?」
気合を入れる寸前だったマサムネ。
ところが開始の号が響く前に、刀で攻撃を受け止めた衝突音が響いたのだ。
「開始!」
「ゴーじゃないよちょっと! こいつフライングしてんだけど!」
当然マサムネは審判に猛抗議。
試合開始の声の前に攻撃することはルール違反ということは事前に周知されている。
しかし、審判はまるでそこに誰もいないかのように反応がない。取り合ってもくれない。
代わって前に出たのが対戦相手の選手。
「おいおいトーナメントは初めてかい? そっちの反応が鈍っちかったって話だろう」
「へんっ! そういうことにしたげる」
ひとまずはルールを司る審判の裁定に逆らわないことにしたマサムネは鬱憤を力に変え、カムイを一旦納刀し居合の構えで突撃。
「ダッハッハ! 悪いけどここまでだぜぃモブキャラくん! ウチが頂点に立つための踏み台となるのだー!」
「来い、鍔迫り合いで受けて立つ!」
対する相手も、剣を意気揚々と掲げて迎え撃つ構え、そのはずだった。
「……なぁんちゃって。食らえ!」
「うぎゃ! えっ、はぁ!?」
相手のその手に装備した武器、ではなく口から噴いて飛ばしたであろう、含み針。
眉間に命中したマサムネは、ダメージ以上に驚きを隠せない。
「レフェリーレフェリー! ねえこいつ見たでしょ! 剣じゃない武器使ってんですけど、ほらこれ!」
マサムネが非難したのは、武器の持ち込みは1つだけのルールについてだ。
それを違反した動かぬ証拠として含み針を指で摘んでの抗議だったものの、それでも審判はどういうわけか応答しない。
険しい表情のまま、マサムネから目を逸らしたまま、審判は一切の返事をしない。
口を開いたのはやはり対戦相手の選手。
「濡れ衣はよせよカムイ使い。風に運ばれた針がたまたまここまで飛んできたのが災難なのは分かるがな」
「もういいもん。どうせウチが一撃で勝っちゃえばいいってことでしょ! 【剣刀の祈り】!」
開き直ったマサムネの発動したアーツは攻撃ではなく、その下準備。
その効果こそ、カムイの攻撃力と剣速を短時間上昇させる自己強化型アーツ。
これと攻撃用アーツを組み合わせ、効果時間内で引導を渡すつもりだった。
しかし、NPCの対戦相手はそれへの対策は織り込み済み。
「おーい審判さーん。このカムイ使い、なんか反則してませんかぁ?」
口元に置いた両手を拡声器のように形作りながら、突如指摘する。
「ほにょ? まさかウチが反則してるわけが……」
「試合一時中断! これよりマサムネ選手への身体チェックに入ります」
これまで不自然に沈黙を保っていた審判が、いきなりマサムネへと動き出した。
「ちょっと待ってよ」
体に触れようとする審判の手を嫌そうに避けながら、マサムネは不服を唱える。
確かにマサムネに反則行為は無い。
誤解されたのならば素直に身体チェックに応じれば、必ずや潔白を証明できるだろう。
ただしマサムネが抱いていた懸念はそこではない。
こうしている間にも、自己強化型アーツの効果終了までの時間が刻々と進んでいるからである。
「ねえ頼むから、さっさと再開してってば……ねえ聞いてる! ウチ反則してないんだからさ!」
それがマサムネの焦燥や苛立ちに繋がり、肩に掴みかからんとする勢いのまま怒声を噴火させる。
「胸騒ぎはこれか……いや、違うっ!」
業を煮やす一つ手前のその流れは、観客席のクロにさえ猛烈な悪寒を過ぎらせた。
「よせっ! マサムネッ!」
「大体なんでウチばっかり! まずどう考えても反則ばっかりのこいつを先に調べろ! このゴミカス! クビになって死ねや無能審判が!!」
「マサムネ選手にテクニカルファウル1点!」
判定は、冷や水をかけられたかのようにマサムネの熱が無理矢理に鎮火された。
テクニカルファウルは、計2回宣言されてしまえばその選手は強制退場となる。
審判への暴言も主な原因の1つ。まだ1度目なので退場ではないが、精神的なダメージは計り知れない。
「ブヒャヒャ! 無様だなカムイ使い! そいつはお前が犯したファウルだぜ」
「そいつは……って、やっぱりテメーなんか仕組んでんだろ!!」
マサムネは、相手の発言一つから確信へと至った。
このNPCと審判が裏で結託していると、そう勘ぐらずにはいられない。
もっとも、根拠があっても証拠がなければただの妄言だ。
「無効無効! こんなの無効試合!」
「みっともなく騒いじゃって、またファウルされても知らないぜ? さあ、楽しいバトルの続きとしようじゃないか」
「……うるさい」
反則はないと認められた。だが効果時間は過ぎてしまった。
それでもマサムネは、この陰謀蠢く悪辣な試合へ挑まなくてはならない。
マサムネは審判がなにかしてると指摘したものの、このNPC審判には長年このトーナメントの審判を公平に務めたという、身元のしれた設定をもつ。
故に賄賂も通用しない。他にも洗脳をはじめとしたどんな能力の影響下に置かれようとも、試合直前に洗いざらい明るみになるよう身体検査をされるので中立的立場を厳守できる。
だが、それ以外の方法ならばどうだ。
そう、この対戦相手のNPCと仲間が、試合前に審判の一人娘を人質にとり、自分に有利になるよう誤審を強要させていたとするならば。
だからマサムネは、実質的に審判まで敵に回るという苦境に立たされていたのだ。
カムイを持たないNPCは、その分だけありとあらゆる手段で力不足を補う。
不正に手を染めてでも補ってくる者さえ現れる。
とはいえだ。
これは胸糞悪さ極まる強制敗北イベントなどでは断じてない。
むしろ、ここから展開次第で強制勝利へと巻き返せることだって可能であり、それが折良くこの試合の裏で進行中なのだから。
次回へ続く




