XX話 【真竜】最速討伐記録更新
某極振りが完結したなら、私が代わりを書くしか無いでしょう!
都内某所、Comein・Camui・Online開発部オフィス。
そこのモニターで上映されているものは、まさにその開発部が1から手がけたVRMMO・仮想現実空間内。
【七大シン竜】の一角として畏れられているレイドボス・真竜と、それに果敢に挑むパーティの戦闘光景だ。
『ヒャッハー! いなせいなせ! 人間様のしぶとさを見せつけてやれぃ!』
『こっち、まだもうちょっとだけ耐えられるよ!』
『負担は我々が喜んで受け入れろ。それが大人の仕事だ!』
『前列交代! 中衛組、前に出ろ!』
最前列正面に立って捌く男性プレイヤー。、
バリアを貼って攻撃に備える女性プレイヤー。
激励する言葉で場をとりもつ中性的なプレイヤー。
何か弾け飛んでいるようなエンブレムの施された旗を振るう司令塔のプレイヤー。その他十数人。
パーティ制限20人のこのレイドバトル。挑戦者たる彼らはそれぞれトップランカーとして名を馳せる選りすぐりの上級者揃い。
見上げるほどの巨軀で二足で立つドラゴンからの灼熱のブレスや尻尾の全方位薙ぎ払いも、その殆どのプレイヤーが意思統一し華麗に捌いていた。
そんなパーティ全員で一つの生物になっているかのような連携は、開発者側さえ目を離せなくなって感嘆させるほど。
「おお……あの強敵相手に誰も躓かずに立ち回っているなんて、想定以上に安定しているほどですね」
映像を観ている男性社員は言葉こそ褒めているようではあるが、顎に手を置いて顔を顰めていた。
隣に座る同期の社員の表情もまた同様だ。
「そうだ、あまりにも安定しすぎている。このペースのダメージでは、最速討伐はおろか制限時間内にさえ間に合うかどうか、ってところだぞ」
「あっ、それもそうなのか……」
そうとも、この映像はただの攻略動画ではなく、【真竜】の最速討伐を更新したパーティのはずなのだ。
しかし一向に反撃もしないこの戦法はまるで、今戦っているプレイヤー全員のステータスが防御力に偏っているかのようであり、ただ壊滅から足掻いているだけに過ぎないようにも見えてしまう。
「一体どうなっているんだ、まさかアーカイブそのものに不備でもあったのか」
「ハッハッ、君達も掲示板で話題持ちきりのそのバトルを見物していたのかね。殊勝殊勝」
「主任! いらしてたのですね」
そこに現れたのは、小学生に比肩する身長の低さによりスーツが萌え袖となっている女性が、回転椅子に乗ったまま床を蹴って移動。
「チミ達の疑問は正しい。この私でさえ、一度この目で結末を見るまでは終始困惑するほどだったからな」
「全くですよ……いや主任、もう確認済みでしたか」
「ハッハ」
得意げに笑い、パーマかかった髪をかきあげながら背もたれに寄りかかる主任。
「先にネタバレをするとだな、このパーティの花型たるアタッカーはたった1人。いま大立ち回りを演じている19人など、単なる時間稼ぎだそうだ」
「なっ!? 1人だけって、それじゃあバランスがおかしいじゃないですか!」
最速討伐なのだから攻撃的なパーティ編成だと予想していた社員は、真逆の事実に驚愕を禁じ得ない。
事実これまで最速記録を保持していたパーティは、凡そ半数以上がアタッカーで構成されていた。薄氷の上を渡る戦運びに終始し、再現性が困難な勝ち方をしていたのだ。
「どうかね、前代未聞ともいえる布陣だと思わないかな」
「いいえ尚更です。最速討伐だなんて到底出来るわけがない!」
「おかしいというのは攻撃役以外の人数という意味かね? むしろその子の方こそ、バランスブレイカーを演出しているのが私の見解だよ」
そう主任は画面の前に「ほれ、あそこを見てみたまえ」と、注目すべき人物へと指をさす。
その位置は司令塔のほんの一歩後ろ、司令塔の旗の影に隠れているようにして目立たない少女が一人。
『みんな大丈夫なんでしょうか……』
援護なりもせず、存在感を隠してじっと佇んでいるだけであり、伝説を塗り替える戦いとはいかにも無縁そうな風貌。
キャラメイクで性別や身長、年齢は偽れない。異質なパーティに紛れた真の異質さながらで、いっそ場違い感が漂っているこの小さく頼りなさそうな小学生前後のプレイヤーこそが、主任が一目置いたその人である。
「さあこれからだぞ諸君……フフフッ、ここからがエースアタッカーにしてリーダーにしてCCO史上最年少トップランカーちゃんの見せ場となるからな!」
そう来たるべきクライマックスをウズウズしながら待ち望んでいた。
このドラゴン攻略のカギこそ、腹部に埋め込まれている赤い宝石、そこへの攻撃はダメージが2倍になるという泣き所。
普段はその強靭な皮膚によって覆い隠されているのだが、戦闘開始してから一分おきに僅かな時間だけ露出する。
『50秒目……そろそろか』
その短いチャンスに全てを賭ける算段だ。
時間の計測も兼任している司令塔のプレイヤーは、この時を待ってましたと言わんばかりにパーティ全体に新たな指示を下す。
『プランB移行! お前ら、すぐに用意しろ!』
脇目も振らずドラゴンと競り合っていたプレイヤー達が一斉に振り向く。
鍵となるその少女へ、海より深い信頼と期待を込めた眼差しを送っていた。
『心の準備は出来てるな、ハグたん』
『は、はいっ!』
大声ばかりだった先程までとは打って変わって優しく言い聞かせる口調で。
PNで呼ばれたキーパーソンの少女“ハグたん”は、力強く頷くと片足をさげていつでも最高速で走れるような体勢に移行。
今この時、主役と脇役が逆転する。
『いいかハグたん、心配性な自分自身なんて忘れろ。俺達を気にせずつっ走るんだぞ』
『分かりました。では……突撃します!』
必死に、一心不乱に、ドラゴンめがけてその足で真正面から走り出したのだ。
司令塔はすぐに旗を掲げ直して、切り替わった作戦の新たな指示を下しに行く。
『ハグたんは動き出したぞ! お前ら道を開けろ! ハグたんへ片っ端からバフを送れ!』
『承知した! ハグたんに繋ぐぞ!』
『そうこなくちゃな! お膳立ては大人達に任せろってんだ!』
『ヒャッハー! 俺の命を使ってくれ!』
ハグたんの左右からは、現在の攻撃力やHPの最大値を増加させる強化魔法がアーチを描いて放たれる。
それらの祝福を一身に浴びながら隊列を抜け、されどハグたんはまだまだ走り続ける。
ただし敵も黙って見てはいない。この直後、ドラゴンの誇る右手の爪をハグたんへ振り下ろす。
『敵来てるぞ! 掠っただけでも負けだ! ハグたんには絶対に指一本触れさせるな!』
『おうさ! やらいでか!』
ハグたんに直撃するはずだったその爪は、割り込んできた筋骨隆々の老人が大盾を駆使して威力を滑らせ、衝撃を地面に受け流す。
だが続けざまに、ドラゴンは左の爪もハグたんに向けて振り下ろしていた。
『次も来てるぞ! おいこのクソボケ! 馬鹿じゃねえならハグたんを死守してみやがれ!』
『うっせーこのドスケベまんじゅうガニが! あんな手足の生えてるニシキヘビの分際なんざ楽勝でスースーパパイヤ人に改造できるから覚悟しろや!』
ハグたんよりも頭一つ分高い少女。頭に血が昇りすぎてるのか正気でない語彙を発揮しつつも俊足で追いつき、二刀流の日本刀を交差して攻撃を防ぎ止める。
ところが、口ぶりに反して力の差は火を見るよりも明らかだ。
『うぎぎ、ちゅぶれりゅぅぅ。あっしの人生アッパレパラダイスにされるぅ……』
『あわわっ、もうちょっとだけ耐えられますか!』
『あぁん!? ハグたんいいから先! 構わず走る!』
立ち止まりそうだったハグたんを真面目に叱咤できても、長くは食い止められない。もう足ではなく片膝で立たねばならないほど押しこまれている。
だがそれでも、ハグたんが攻撃に移るまでドラゴンの注意を死んでも引きつけられれば十分だ。
『よし、首尾はパーフェクトだな。さあハグたん!』
2人のプレイヤーが体や命を張ったおかげでドラゴンは四つ足で立つ体勢となっている。これで腹部の弱点まで、攻撃が届きやすい。
『あとはありったけをぶちかますだけだ!』
『一歩でも早く走り抜け!』
『あと少しだ、がんばれ!』
『信じてるぞ! ハグたん!』
『お前さんの青春はこっからだよ!』
『つき進めええええっ!』
『勝てよ、嬢ちゃん』
パーティの皆が作戦の成功を確信した途端、ハグたんに対する声援がどっと湧き始める。
その中には、親子ほど、祖父と孫ほどハグたんと年齢が離れたプレイヤーだっているはずだ。
それでもハグたん一人に対してここまで手厚くサポートをしていたのは、ハグたんが若輩者だからか、否、ハグたんが見かけ通り貧弱だからか、否。
このパーティは皆が皆、対等だ。
彼ら大きな友達は、その小さな背中に大きな想いを託しているからだ。
Comein・Camui・Onlineで活動する数多のパーティが越えられなかった真竜最速討伐記録の壁を大幅に塗り替える瞬間を――。
『いける、いけるぞこれは!』
『いけ!』
『ハグたん!』
『やっちまえ!』
『いけっ!』
『いけえっ!』
『いけえええっ!』
苦楽や哀歓を共にしたハグたん一人に希望を預けているから。明日には喉が使えなくなるレベルの大音声でハグたんの背中を押せる。
「い、いっけええええっ!!」
画面越しに伝わるあまりの熱量に、観戦している社員達まで手に汗握り、つられて応援を始めたほどだ。
『私の能力に、弱点なんてない!!』
無論、少女もその大きな期待に応えるべく、体勢を低くしドラゴンの核へ向かって滑り込む。
決着をつけるため、そして能力の発動のため、ハグたんのその頭部全体を明滅させながら。
『爆じけて負ざれ・爆鬼羅刹!』
能力の発動を音声認識で宣言した瞬間、視ている者から観ている者まで見えている世界が急変する。
「……は? まさかここで故障ですか!?」
音割れするほどの爆音が響いたかと思えば、突如として映像が全面真っ白に染まったのだ。
社員は冷や汗をかいてしまったが、しかし一切の誇張もなく事実として赤裸々に映し出していることが発覚。
そう、ハグたんを起点に凄まじい爆音と大地を消し炭にする爆炎が巻き起こり、あまりの爆破で白い煙が画面を覆い尽くしたまで。
しかもこの世界を破壊でもしかねない大爆発一つで、およそ何万トンもあろうドラゴンの巨体が、遥か上空へと打ち上げられたほどなのだ。
ハグたんが発動したこの能力の中身こそ、最大HPと残りHPを全て消費した分だけ攻撃範囲を拡大させ、またSTR200毎につき更にダメージが倍加してゆく最終奥義。
「STR極振りのビルドに偽りなし……覚悟がキマりすぎだろう」
どこで情報を拾っていたのか、主任はハグたんのその極端なステータス構成を把握して何故か悔しがっていた。
ハグたんの素のSTRに加え、仲間達からバフとして受け取って組み合わさったそのダメージ倍率は、およそ30000%はくだらないほど。
「あっあの子!? 自分を犠牲にしたせいで……かわいそうに」
「自己犠牲ではない、“生き様”と呼びたまえ」
立ち昇る硝煙が晴れ始めると同時に、とうとうハグたんがクレーターの中心で力尽きて倒れ伏す様子が煙の隙間から覗けていた。
ドラゴンもまたHPがピッタリ0となり、その巨体は豪快にひっくり返りながら自由落下。大地を鳴動させながら倒れ伏し、白いポリゴンとなってゆっくりと消滅した。
『タイムは!?』
HP0で動けなくなってもなお、ハグたんは焦るように仲間に確認を促す。
このレイドバトルはタイムアタックであることは意識の内から冷静に外していない。文句無しに真竜を撃破しようと、喜びを表すのはまだだ。
急かす声を聞いた司令塔が、すぐにストップウォッチを目に入れ。
『1分01秒01……すげぇ、最速討伐記録更新だぞ!』
『や、やったんですね!』
ずっと緊張して神妙な表情であったハグたんが、ようやく頬をほころばし年相応さを垣間見せる。
彼女達のパーティは、至上命題を達成したのだ。ただの勝利ではなく、このレイドボスに挑んだ全てのパーティをひっくるめて最速、これまで首位を保っていたパーティの記録3分弱が蜃気楼と化す新記録。
この朗報を聞いて、レイドバトルを戦い抜いたパーティ達は込み上げる感情の堰がはち切れた。
『やったあああ! ハグたんのおかげで、俺達がトップに立ったんだああ!』
『めでてぇ! てぇてぇ!』
『あんな臆病なハグたんが、よく頑張れたなぁ』
『神ってる。いや、カムイってるというべきだな!』
偉業達成の立役者であるハグたんに、19人の年長者達は喜びを露わに一斉に駆け寄った。
小さなヒーローの肩を組み、手を握り、しかし相手は子供なのであまり触りすぎないように自制し、それでも暑苦しさを覚えるほどにハグたんを誉めちぎる。
どこまでも篤い絆で結ばれていなければ、年齢の垣根をこえて遠慮無用の感動を共有できないだろう。
『へへっ、えへへっ、友達のみなさんがサポートしてくれたおかげですってぇ』
もみくちゃにされながらも、ハグたんは満更でもなく受けいれていた。
誰一人欠けてしまえば成せなかった新記録だから。謙遜ではなく、20人全員で繋げた勝利なのだ。
MMOというゲームジャンルに主人公はあってはならないが、この時だけは、彼らのエースアタッカーにしてリーダーにしてCCO史上最年少トップランカーたるハグたんこそがスポットライトを浴びる主役だろう。
「凄い……こんな無茶苦茶な戦法で、しかも真竜のHPをその一撃だけで削りきるだなんて」
額に滲む汗を拭いながら、社員も感嘆の声を禁じ得ない。もう一方の社員はそうでもなさそうな様子だったが。
「ドラマチックなのはいいが……バランス調整間違えたかなぁ。ダメージインフレには気を配ったはずなんだけども……」
「いや、どこも狂いはないぞ」
分かりきっていたかのように主任は即座に否定する。
「力とは即ち対価である。このパーティ殆どが主役の座を降りるステータスビルドを対価にし、またその子も、STRに極振りした上に自分の命さえ対価にしてでも真竜を倒さんとした。有り余る覚悟だよ」
そこには主任なりの持論があり、結果に否定などしない。
「カッハッハ! まさか男装執事喫茶よりも愉快でスッキリできるものがこんなブラックな職場にもあるなんて、いやぁハグたんのファンになってしまいそうだよ!」
「そのコンカフェの件、ほんともう勘弁して下さいよ……」
「勘弁するとも。今は、あのハグたんという謎めいた子の背景について、今宵語り合い愛でたい気分なのでなぁ!」
プレイヤーに対して公平で公正を旨とする主任でさえ、ものの見事にハグたんの虜にされていた。
「まあ、それくらいなら……」
歯切れが悪いが、消極的なYESを唱えた。
何故ならば彼も、ハグたんについての興味をそそられたことは主任と一致しているからだ。
幼さに反した周到かつ大胆な戦運び、トップランカーの大人達を『友達』として不満無く卸す特別製、そんな未知の魅力には誰だって好奇心が鷲掴みにされずにはいられない。
ところが、このハグたんという少女、何を隠そう他のプレイヤーと同じように順当に努力し順当に報われただけのごく一般的なプレイヤーに過ぎない。
公式掲示板で主に胡散臭い考察として囁かれている人生2周目の転生者だとか、ましてや飛び級で大学進学した天才少女などでは決してない。
なにか他人より優れているところを挙げるとするならば、社員達が思わず影響されたように頑張る姿を思わず応援したくなるような、所謂カリスマ性とは似て非なる小さい子供特有の魅力といったところか。
『みなさん、こんな私に付いてくれてありがとうございます! 私、このゲーム続けられて本当に良かったですっ!』
頂点に立ったハグたんは、これまで冒険してきたCCO世界の思い出を脳裏に呼び起こす。
そこに一生モノの記憶として一番星より輝いているのは、どんな順風満帆なサクセスストーリーがあったのだろうか――。
本日あと6話投稿します




