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第二十一話 常夜の魔女と邑の子供達


大姐(おねえちゃん)!」


 嬉しそうに弾んだ声。


 振り向けば栗色の頭が視界に入った。その大きなクリクリの目をキラキラ輝かせトタトタと走ってくる可愛い姑娘(むすめ)――


「朱朱ちゃん!」


 朱明が飛び込んで来たのだ。その勢い凄く蘭華は全身で受け止めた。お陰でほっぽり出された翠蓮は不満顔だ。


「どうしたの?」

「あのね、あのね」


 抱き止めた朱明を地に降ろし屈んで目を合わせると、朱明は後ろ手にモジモジとはにかむ。


「これ、ちゃんと飲めたの!」


 手を前に突き出せば、朱明が持っていたのは蘭華が渡した薬包紙。折り方が独特だから間違いない。


「そう、偉いわ朱朱ちゃん」

「えへへへ」


 栗色の頭を撫でれば朱明は嬉しそうに破顔した。それがとても可愛くて蘭華は思わず微笑んだ。


「くっ、またしても強力な恋敵(ライバル)が!」


 とても微笑ましい光景に対して翠蓮は嫉妬の炎を燃え上がらせた。


「ただでさえ刀夜様っていう反則級の大丈夫(おとこまえ)が現れたってのに、何よこの超反則級は!」


 しかも、相手は敵と知りながら翠蓮も頭撫で撫でしたくなる超絶可愛い小さな女の子。蘭華も即堕ちしてデレデレなのが丸分かりである。


「それでね、それでね、もう痛くないの!」

「ふふふ、お薬には痛み止めも含んでいるのよ。でもね、痣はまだ残ってるから薬はきちんと飲んでね」

「はーい」


 朱明と接して蘭華が朗らかに笑うと翠蓮は諦めとも安堵ともつかない溜め息を漏らした。


「だけど……まあいっか」


 彼女としては蘭華が笑顔になってくれるのは喜ばしい。それが自分の力でないのが何とも複雑な気分だったが。


「朱朱から離れろ!」


 そんな和やかな空気を少年の声が打ち破った。見れば朱明より少し歳上っぽい少年が口を引き結び顔を怒らせ睨んでいた。


何進(かしん)!」

「うへ〜」


 その乱入者に翠蓮の眉根が寄り、朱明は嫌そうに顔を歪めた。蘭華だけは目をぱちくりさせて小首を傾げた。


「誰?」

「何進っていう(まち)のガキ大将」


 なるほど何進の後ろには子分らしき小さな男の子が数人従っている。恐らく悪戯仲間なんだろう。


「朱明に気があっていつもちょっかい掛けてるの」

「むぅ、何進、乱暴だからキライ!」


 どうやら好きな女の子が蘭華と仲良くしているのが許せないらしい。だが、当の本人からはあまり良く思われていないようだ。嫌いとはっきり告げられ何進は狼狽えた。


「ち、ちげぇし、誰がそんなブス!」


 好きな子に嫌われ面子を潰されたと、慌てて暴言を吐く辺り何進はまだまだ子供である。


「お、俺は……そうだ、悪いヤツを追い払いに来たんだ!」


 そして、子供は平気で他者を傷つけてしまう……


 何進は蘭華へ顔を向けてビシッと指を差した。


「魔女は(まち)から出ていけ!」

「何進、あんた!」


 その暴言に翠蓮が顔を険しくして怒鳴り声を上げた。


「な、何だよ」

「蘭華さんは尊敬すべき導士で魔女なんかじゃないわ!」

「ふん、大人達が話してんの聞いて知ってるんだからな」


 翠蓮に睨まれ少しおっかなびっくりながら何進は胸を逸らした。


「そいつは森に住んでる悪い魔女で妖魔(あやかし)を使ってみんなに迷惑かけてるって」

「そんな訳ないでしょ!」


 翠蓮はキッと周囲を鋭く睨むと遠巻きに見ていた邑人達がさっと目を逸らしていく。こいつらは子供達に何を吹き込んでいるのかと。


「あんた達、恥を知りなさい!」


 翠蓮はもう我慢の限界だった。


「蘭華さんは今まで施療院で患者を癒してくれた。この周辺の結界だって管理してくれている。妖魔(あやかし)を退治してくれたにだって一度や二度じゃない」

「翠蓮、落ち着いて」

「嫌よ!」


 拳を振って怒り喚く翠蓮を蘭華が宥めようとしたが、翠蓮は首を振って拒否した。その拍子に(みどり)の瞳からきらりと光が零れる。


「蘭華さんはいつだって(まち)の為に尽くしてくれた。それも殆ど対価も無しによ! あんた達はそれだけ恩を受けていながら蘭華さんを虐げ、あまつさえありもしない罪まででっち上げた」


 蘭華への迫害に対し日頃から翠蓮は鬱憤の溜まっていた。そこへ今回の妖魔(あやかし)騒動である。無実の蘭華に罪を擦り付けられ翠蓮はぶち切れた。


「この恩知らず共!」

「良く言った小娘!」


 足下の白猫が突如声を発した。刹那、ぐわっと大きくなり白く大きな塊が出現した。


「我ももはや我慢ならん!」


 それは、芍薬の本性――白虎だった。


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