828.ギルドハウスへ
するとルースからすぐにメッセージが来た。
『すまない。僕としたことが、すぐに謝罪する。有頂天になって彼女のことが頭から抜け落ちていた。彼女の友人である君にも失礼なことをしてしまったね。バレていると思うけど、エリアナとの婚約は彼女たちを利用する目的で行ったことだ。そこに誠意も何もなかった。そして、婚約破棄となってもお互いに気持ちはないと考えていたし、これ以上関わるのは彼女にも申し訳ないと考えていたのだが、そうではないと今なら分かる。あくまでも今のは僕視点での当時の考えだ。相手側の気持ちに立って考えられていなかった。エリアナには今の話をすべて打ち明けて謝罪する』
かなりの長文でメッセージが送られてきたが、『せっかくの機会ですので、エリアナとそうですね……言い方はあれですが、腹を割ってお話してみていただければと思います。もう王族と貴族というような関係でもないですし、いまは逆に話しやすいかもしれません』とメッセージする。
それから公都へと出る。公都は戦いの跡が消え去り、迅速に復旧されつつある状態だ。相変わらず人が少なく、のどかな雰囲気であった。
「涼しいところですね」
「ここって標高がかなり高いのです。それが影響しています! 夏は過ごしやすいみたいですよ。冬は寒いみたいです……ただ、レイラも北方未開地に行けばすぐに慣れるかと思います。北方未開地はいつでも結構寒いのです」
「北方未開地……! 氷の壁で囲まれているという人が入ることが出来ず、モンスターが徘徊しているところ、でしょうか!?」
「そうです。ダンジョン転移石でたまたま北方未開地のダンジョンを引いてしまったので入れてしまったのです……。それから色々と開拓したりしていまして、あそこもある意味で入れる人が限られているので安全な地ですね。氷に触れると凍結してしまうので、外からは入れませんし」
レイラは興味深そうに聞いている。そして、ダンジョン転移石のことが気になっているはずであるので、先に説明しておいたリゼだ。彼女は理解したのか喜んでいる。
歩いているとたまに外出している者たちは頭を下げて合図してくれていた。君主が変わったことは認識済みのようだ。
ギルドハウスに行く途中でギルドというものが東方未開地を囲む国にはあり、本部がエリアル神聖帝国にあるということや、エリアル神聖帝国は光の神ルーフを信仰していて、皇帝が変わってから不穏であるということも話しておく。印象を下げたかったわけではないが、レイラの中でのエリアル神聖帝国の印象はだいぶ悪くなったようだ。きな臭いものを感じるらしい。
ギルドハウスにつくとギルド登録をしたらしいアストリアがギルドウィンドウを開いて考え事をしているのが見える。ギルドハウスの奥に置かれている椅子に座っていた。早速、レイラを紹介するために近づくが、受付嬢には頷いておく。受付嬢はお辞儀をしてきた。
「アストリアさん、こんにちは」
「リゼ、こんにちは。いま、ギルドのクエストを見ていたよ。一つ受注しようと思ってるかな?」
「それは良いですね。何か良いクエストはありましたか?」
「うん。東方未開地のここからあまり離れていないところに中級ダンジョンがあるらしいから、行ってみようと思う。魔法のテスト」
アストリアであれば特に問題ないだろうが、念の為、同行を申し出たリゼだ。すると、アストリアは快諾してくれる。
「良かったです。あ、こちらはレイラ・ウィルズさんです。アストリアさんと同じく魔法が好きで、将来的に生活に役立つような魔法を研究していきたいという夢をお持ちです。レガルナス公国で研究をしていただこうと思っておりますので、アストリアさんとも共同研究などが可能かなと思いまして。いかがでしょうか?」
リゼが話すとアストリアがレイラを見た。そして「私はアストリア。宜しくね、レイラ。魔法属性は何かな? ちなみに私には苗字がないよ」と質問する。
「こんにちは、アストリアさん! 改めまして、レイラ・ウィルズと申します。苗字については事情があるのだと思います。ですが、ご自身で良い苗字をつけられるということになりませんか? 素敵な苗字をつけましょう! 私は闇属性魔法です!」
レイラの話を聞いてアストリアはリゼを見てきたので「苗字の登録は出来ると思います」と伝えておいた。国の管理者のみが使えるウィンドウがあり、そこで登録も出来るはずだ。アストリアが登録したいのであれば当然登録するつもりである。
「レイラの意見に従ってみようと思う。苗字を自分でつけるなんて考えたこともなかったから斬新。レイラの物の見方、興味深いね」
リゼも同意だ。思わず拍手をしそうになってしまっていたのだが、心の中でだけにしておいた。三至宝を今のうちに手に入れた方が良いという意見の時もそうであったが、レイラはきちんと自分の考えを長考出来る加護もないのに整理してすぐに話せてすごいと感じている。流石に主人公であるとも感じるのだった。
「それにしても闇属性魔法、それは素敵だね。これから一緒に魔法の研究を宜しく。私は光属性魔法と風属性魔法が使えるから、魔法の混ざり合いについても検証できそうだね。複数人で魔法を同時に詠唱してうまくぶつけると一つの魔法になって相手に向かうのではないかという仮説を立てていて、もちろん相性があるから反目したりすることもあると思うけど、試してみたいとは考えてるよ。詠唱タイミングをずらして詠唱した場合、後から発動した魔法の効果を最初に発動した魔法が受けやすいということは分かってるんだよね」
アストリアの話を聞いて、以前はよくやっていた魔法の使い方を思い浮かべるリゼだ。スノースピアを発動してからすぐにエアースピアを発動するのである。突風の影響を受けて飛距離が格段に伸びるのでアストリアの言う通り、後から発動した魔法の効果を受けやすいというところに同意である。
「面白そうです! 角度なども重要になるかもしれませんね。これから、宜しくお願いします!」
魔法が大好きな者同士で仲良く出来そうで安堵したリゼだ。リゼも魔法が好きなので会話の内容は気になるのだが、自身よりも恐らく魔法が好きな二人の邪魔はしないでおこうと考えるのだった。




