797.調査へ
それからリゼはというとリアとレノアをレガルナスの城に呼んだ。早急にお願いしたいことがある。リアたちにしか出来ないことだ。
「リア、レノア、二人には重要な任務を行っていただきたいと考えています。危険な任務です。いけますか?」
二人は頷いてきた。リゼは説明を行う。
「ありがとうございます、今から一時間後にゼフティア王都付近に転移をしますので、二人は姿を消した状態で王都に侵入してください。そして、城の中にある地下牢、ルイ王子の部屋、先代の王妃様がいる別棟、カステナ公爵の邸宅を探っていただきたいです。二人はルイ王子を見たことがありますよね。本名はルースさんというのですが、どこかしらに捕らえられているはずです。見つけていただきたいです。今、ルイ王子として振る舞っている方はルースさんではないので気をつけてください。あと、聖遺物などで侵入を検知するような仕掛けがあるかもしれませんので注意してください。何かあったら念話をお願いします。リアのことは緊急事態になったら封印しますが、レノアは実体を解除してやり過ごしてください。質問はありますか?」
素早くお願いしたいことを伝えた。それから王都の地図も作って二人に渡すが、レノアが手を挙げる。
「城の中が三箇所、カステナ公爵の邸宅と二つに分けられるのでそれぞれが担当した方が宜しいでしょうか? ルースを見つけた場合の対処方法についてはいかがいたしましょうか?」
「レノア、ありがとうございます。そうですね、聖遺物が仕掛けられている可能性があるのはどちらかというとカステナ公爵の邸宅だと考えていますので、レノアがそちらを担当してください。精霊は秘匿された存在で流石に検知は難しいと思いますが、モンスターについては検知されてしまうかもしれないのでリアは城を担当ということでお願いします。仮に見つけた場合は状況を素早く報告いただき、近くで待機をお願いします。もし、ルースさんが殺されてしまうような流れになっている場合は救出をお願いしたいですが……王都の外まで逃げ切ることは出来ないと思いますので地図にアルベール商会の拠点を記しておきました。まずはそこに逃げてください。とはいえ、救出自体は夜に実施したいので、本当に危なかったらでお願いします。なお、カステナ公爵の邸宅の場所は分かっていますが、屋敷の内部構造は分かっていません。城についても同様です。少し時間がかかるかと思いますが、慎重に探りましょう。私は宝物庫付近にある部屋に城の見取り図があるようなので、それを探してみます。作戦開始から五時間をタイムリミットとしましょう」
レノアは理解したのか恭しく礼をしてきた。リゼは城の見取り図を探しに城に侵入するつもりであり、リアも城担当、レノアがカステナ公爵邸担当ということになる。屋敷や城の構造をあらかじめ把握できているわけではないので、手間ではあるがゆっくりと見ていくしかない。なお、リゼとしてはリアが担当する三箇所やカステナ公爵邸が怪しいと考えていて、ルースが囚われている場所ではないかと予想している。見つけることができればあとは夜に救出するだけだが、難しければ見取り図を参考にあたりをつけるしかない。
「ちなみに私はヘルを使って姿を消して侵入します。私は見取り図の他に転移を不可としている大きめの転移石がどこに置かれているのか、警備状況について確認してみようと考えています。適宜、念話にてコミュニケーションを取りましょう……。そして、集合してここに戻り、作戦を話し合い、ブルガテド帝国に移動して共同作戦について話し合ってから行動を起こします。今日は長丁場になります……」
それからリゼは姿を変える聖遺物を身に着けつつ、フォンゼルやアレクシス、コーネリアスに状況を共有する。そうこうしていると一時間ほど経過したのでリアたちと共に王都の外側に広がっている森付近に転移した。この場所は王都を囲む城壁から一キロほど離れているところだ。森を抜けると平原エリアがあり、王都の城壁に到達できる。
「姿を消して、ギリギリまでゲートで百メートルずつ転移していきましょう」
リアとレノアが姿を消してリゼに触れてくるので、リゼはヘルをアイテムボックスより取り出すと、ゲートで転移を繰り返して城壁付近までやってきた。門は閉じられており、門の前や上に見張りがいるようで、ゼフティアの騎士ではなくケラヴノス帝国の騎士のようだ。平原側を厳重に警戒している。
(この状態だと……侵入方法が難しいけれど……とはいえ、なんとかする方法はあると思うのよね)
幸いなことに城壁は十メートル程度の高さだ。地面に向けてエアースピアを詠唱すれば、今の体重であれば城壁の上に勢いをつけて飛び乗れそうである。門の付近でそのようなことをすれば風が巻き起こることでバレてしまうかもしれないので、門があるところからかなり離れたところまでやってくると、魔法を詠唱して城壁の上に着地した。なお、リアは小さな羽があって飛べるので問題なく城壁の上に到達しており、レノアはリゼと共に着地した形だ。見張りはだいぶ離れたところにいる。城壁の上から王都側を見ると工場などが沢山あるエリアのようで、特に混乱もなく人々が働いていた。一般的な平民たちからすると国のトップが変わっても対して影響がないということなのかもしれない。城壁の上をしばらく進むと見張り用の騎士が使う階段があったのでそこから王都に入る。転移は禁止されていてもこういった形で侵入は出来てしまうのだ。
それから二十分ほど歩くと王都の中央通りまでやってきた。この中央通りは多少くねっているものの、城に到達できる道だ。リゼはレノアに『あちらの方面に向かうと一番手前の大きな屋敷がありまして、そこがカステナ公爵邸です。気をつけてくださいね』と念話する。レノアは貴族の邸宅があるエリアの方にすぐに向かってくれた。リゼはリアと共に城を目指すことにする。
リゼはウィンドウェアーを詠唱すると素早く動けるようにしてリアには猫の姿に変わってもらいしがみついてもらった。そして、城へと急ぐ。なお、想像以上にケラヴノス帝国の騎士たちが王都内の警備にあたっているようである。これは深夜の作戦も大変そうだ。




