789.真実
リゼは机に目を落として話をしていたが、ふと目線をあげるとルイは固まっているようである。しかし、それから長い沈黙が続いたが、「……その人物なら知っているよ。ルース、だね?」と聞き返してくるのだった。予想外であったがルースとは知り合いのようだ。
ルイの確認にリゼは頷いた。ルイがルースのことを知っているということは、彼はもしかするとルイの数少ない仲間の一人なのかもしれない。ルースの居場所を確認できれば、現実世界でも会える可能性が高まる。よって、メレディスのためにも口を開こうとするとルイが先に声をあげた。
「ランドル伯爵令嬢、これだけは教えてもらいたい。ルースのことをどこで知った? 他に何を知っているのだろうか……?」
当然ではあるが気になるようである。ルースから事情をどれくらい聞いているかは分からないが、アデリーナの想いを受け継いだのはメレディスではなくルースだけだ。よって、どこから情報を得たのか気になるのはある意味で当然なのかもしれない。メレディスなどの関係者からは知り得ることが出来ない情報を握っているように見えているだろう。だが、メモリーという無属性魔法を使ったなどということは話せないため、伝えられないということを話さなければならない。
「ルースさんはご無事なのでしょうか? お元気にされていらっしゃいますか? 申し訳ありませんが、複雑な事情がありますので知った経緯についてはお伝えできません……」
「彼は無事だよ。心配しているのかな? なぜそこまでルースを気にかけてくれるのか分からないが……。ただ、彼は困難な状況に見舞われている。他に追加で質問はあるかな? 可能であれば孤児院の生き残りに関する話を是非してもらいたいが……」
質問に答えてくれれば名前を教えるということにしていたので、質問がまだあるか考える。なお、ルースの居場所はやはり知っていそうではあった。無事であることを知っていると明言しているからだ。この夢を見たのも何かの意味があると考えていたが、ルースの真相に迫れるかどうかというチャンスを与えられたのかもしれない。主にジェレミーのおかげで良い方向で話が進んだので感謝しかないリゼだ。
「ありがとうございます。ルースさん以外のお名前をお伝えできますのでご安心ください。では質問ですが、ルイ王子殿下はルースさんからどのような話を聞いておりますか? ルイ王子殿下はルースさんとどういうご関係でしょうか?」
少しだけ探りを入れてみた。ルースがルイのことを警戒して情報を制限している可能性があるし、ルイからの返答次第でルースが彼をどこまで信用しているのかを図ることが出来る。また、まだルイがルースの完全に味方かどうかは判別ができないため、関係性を確認してみた。
「ルースにこだわるね。そこを話すにはやはり君がどこで彼のことを知ったのかということを教えてもらいたい。ルースも無闇矢鱈に情報を開示したくないと考えているようだからね。ただ、そうだな、譲歩できる範囲で……言える範囲で話すとすれば、ある程度のことは聞いているよ。彼のルーツのことだったり、彼の探し人だったりね。僕はルースの味方だよ、完全にね」
なかなか正確な答えは教えてくれなかったが、ルイはルースのことを考えているからこそ、あえて言わないという雰囲気がある。とはいえ、ルーツのことや探している人物についてまでルイに話しているのであれば、かなりの秘密を話していることになるだろう。もしかするとルイもメレディス探しを手伝っているのかもしれない。これまでの質疑応答で少なくともルイがルースやメレディスに危害を加える立場にいないということは把握できたのでリゼも譲歩することにした。
「……ルイ王子殿下、分かりました。ルイ王子殿下が王都の孤児院の関係者を探しているのはルースさんの妹さんを探すため、それから巻き込まれた方々を機関から救い出すため、ですよね? お互いに探り合っても話が進みませんのでお話します。私はルースさんの双子の妹のメレディスさんの見た光景を……特殊な現象によって垣間見ることになったのです。その特殊な現象によって、アデリーナさんというルースさんとメレディスさんのお母様が機関に追われ、ケラヴノス帝国からゼフティアに逃れてきて、その後にお子様たちがどうなったのかというところを知っているのです。恐らくメレディスさんが今何をしているのかというところも推測できます」
仕方がないため、アデリーナやメレディスの情報を話してみたリゼだ。ルイはというと大きく溜息をついてくる。表情を見るとホッと一安心しているようだ。背もたれに背を預け、目をつぶっていた。そして、目頭を押さえて固まってしまうが、少しして口を開いてくる。
「なるほど……ありがとう、ランドル伯爵令嬢。本当にありがとう……。だが、そうか……。生きていたのか、メレディスは…………。それは良かった。今まで何の情報も得られなかったし、もう無理かと考えてしまっていたところだった。君の推測は正しい。僕が探しているのはメレディスだったり、その他の人たちのことだ。ルースはアデリーナという母の記憶と想い、所持品を受け継いでいる。そして、ある時、その記憶や想いなどを七歳の時点で完全に思い出し、メレディスを探し始めたんだ。苦労しても何一つ分からなかった……だから君には感謝しかない。是非、教えてほしい……メレディスはどこにいるのだろうか?」
今までの張り詰めた雰囲気はなく、まっすぐと少し穏やかな表情でリゼを見据えながらメレディスの居場所を聞いてきた。
「メレディスさんは機関の中でダンジョン攻略担当となっているはずです。ケラヴノス帝国にあるタワー型ダンジョンを攻略しているのかと。ただ、それ以外の任務についている可能性もあるので所在を確かめるのは難しいかと……。また、メレディスさんは聖女で機関の幹部ですので手荒い歓迎を受けるかもしれません。さらにアデリーナさんやルースさんのことを何一つ知らない状態です。説得は苦戦するかもしれませんが、協力できることは協力させていただきます。ただ、説得にはルースさんが不可欠です。ルイ王子殿下、ルースさんはどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「ランドル伯爵令嬢、ルースは……君の目の前にいるよ」
リゼが「えっ……」と声にならない声を漏らした瞬間に目が覚めてしまうのだった。




