76.『扉』について
不穏な話を終わらせるためにも、リゼは鞄からサンドイッチを入れた箱を取り出した。
「あ、そういえばこれ、作ってきたのでどうぞ」
「おや、これは……!」
「一応、サンドイッチですね……昨日から料理を始めてみまして」
「おお! わざわざ作ってくれたとは嬉しい。本当に多才だよね、リゼは。美味しそうだし、めちゃくちゃ嬉しい。手作りなんて気持ちがこもっていて嬉しすぎる……」
アンドレはリゼが渡したサンドイッチを見つめながら嬉しそうにしている。すぐに食べるのが勿体ないと感じているのかしばらく眺めていた。
「まさかこんなに喜んでいただけるとは思っていませんでした。でもまだ簡単なものしか作れなくて……今後勉強していこうかなと」
「すごく嬉しい。昨日からということは手料理を振る舞うのは家族以外では私が始めてだったり?」
「そうですね。ダンジョンの時のお礼もしたかったので」
「最高だよ。早速食べてみようかな」
サンドイッチを一瞬で食べ終えたアンドレは目をつぶった。
「…………どうですか?」
「美味しい! この感動は忘れないよ。できれば婚約、結婚して定期的に手料理を食べたいな。その場合、私もリゼのために料理をするつもり」
「……美味しかったようでよかったです。簡単そうに見えて実は料理って奥深いのですよ。なので、毎日作ってくれているシェフには感謝しないと……と思いました」
リゼは危険な発言に対しては反応を避けつつ、昨日から感じていたシェフへの感謝についてをアンドレに伝える。なお、反応しない方が良いこともある。
「……そうだね。今度作るところを見学しても良いかな?」
「もちろんです。一緒に作ってみますか?」
「それは楽しそうだね。リゼには私の得意料理を振る舞ってあげたいな」
「それはとても楽しみです!」
アンドレはライバルが沢山いると知って少しショックを受けたが、ヘルマンの言葉を思い出して頑張っていくことを心の中で決意する。俄然、やる気が湧いてきたようだ。
リゼはひとまず婚約に関連する話はスルーすることにして事なきを得た。
そして気になることを質問する。
「そういえば、王宮の生活にはもう慣れましたか? テレーゼさんはもう完全にお元気ですか?」
「慣れたといえば慣れたかな? ただ、離宮よりは色々と細かいルールがあって大変ではあるね。むしろ離宮ではある程度の年齢になってからは自由すぎたよ。幼少期などは大変だったけどね。母はおかげさまで元気になったよ。ジェレミーの母、いまの王妃ともうまくやっているみたい。あの二人は父上から正妻として迎え入れられなかった経緯や過去があるから、通じ合うところがあるのかもしれない」
「やっぱりしばらくは大変ですよね。でもテレーゼさんが元気になられて本当によかったです」
それからしばらくアンドレと歓談したところで、気になっていることを聞いてみることにする。
「一つ質問しても良いでしょうか?」
「ん、なにかな?」
「『扉』と聞いて何か連想されるものってありますか?」
神官よりこっそりと聞かされた神託について、何かピンとくるものがないか確認だ。リゼとしては色々と考えたが、未だによく分からないでいた。
神託の内容は『五年後、全ての扉が開かれるだろう』であるが、扉とは何だろうかと言ったところだ。
「きっとあそこにあるような扉ではないその他のものということだよね。少し考えてみても良いかな」
「はい……!」
アンドレは目をつぶりしばらく考え込んだ。彼としては、自分の描いた絵の絵画についての解釈を聞いた際に、リゼが真面目に考えてくれたため、きちんと考えたいと思っていた。
リゼはあまり邪魔しないように静かに紅茶を飲んでいた。数分後、アンドレが目を開けた。
「思うに……あくまでも私の考えだけどね」
「はい。お聞きしたいです」
「日常と非日常を分ける、ある意味での境界線のようなものを想像するかな。例えば小説の物語などにおいて、ほら、別世界へ行ったりするよね。子供の頃に読まなかった? 穴から落ちたら別世界にいくお話とか、窓から妖精が迎えに来て窓の向こうは別世界になっているとかさ。そういう境界線もある意味で別世界への入口、つまり扉かなって」
「読みましたね。なるほど、境界線……ですか」
まったく思いもしなかったことなので正直なところ、リゼとしては非常にありがたかった。
「うん。他にも色々と考えてみたけど、なかなか考えつかなかったかな。現実と非現実である何かの境界線と考えるなら教会にある啓示石板もその一種かもしれないよね。それと、可能性というか、何かを選択するというのも扉と言っても良いかもしれないね。明日への扉、未来への扉みたいな感じだね。選択って何かを選ぶことだからね、突き進んでも良いし、スルーしても良いから。開けても開けなくても良い扉みたいなものかなって」
「ありがとうございます!! 私だけでは思いつきもしなかったので、助かりました……!」
「きっと何か重要なことなんだよね? いつでも相談して欲しい」
「はい!」
アンドレの言う通り、扉とは現実と非現実をつなげる何かなのかもしれないとリゼは思った。啓示石板以外にも何かあるのかもしれないし、それが何なのかを考えるにはまず自分たちの現実の定義を明確にしておこうと考えた。それに、何かを選択することを扉と言うことも出来るのかもしれない。まずはアンドレの案について深く考えてみることにした。
「あ、そういえばウィンドウシステムで便利な機能がありまして。メッセージのやり取りを出来るようにしておきましょう」
「メッセージって?」
「あ~、なんと言いますか……手紙のようなことがウィンドウシステムで出来るようになると言いますか」
「そうか。ではお願いしようかな」
リゼはアンドレとメッセージウィンドウでメッセージのやり取りを行えるようにしておいた。ミカルから授かったウィンドウシステムの一つであるが、有効活用出来ていなかったので、少しずつ使っていこうと考えていた。アイシャや親、エリアスとは交換済だ。
そして屋敷に戻ることにし、馬車に乗り込んだ。
(アンドレが元気そうでよかった。それに縁談の話は大公様がお話ししてくれたみたいで一安心。アンドレとも普通に話せたし、あまり気にしすぎない方が良いものね。それに質問も真剣に考えてくれて嬉しかった。さて、家に戻ったらアイシャと魔法や剣術の練習をしないと。スキルの確認もしたいし。それには無属性魔法について説明しておく必要があるかも)
リゼは帰りの馬車で無属性魔法についてをアイシャに説明した。念のため、普通には会得出来るものではないということも補足しておいたが、アイシャは一通り興奮した後、「お嬢様はルーク様から名を与えられるくらいですから、特殊すぎる魔法を使えるようになったとしても、もう驚きませんよ……!」と例の神託と結びつけて納得したようだ。
出来ればインフィニティシールドを何回攻撃したら結界が壊れるのかという検証をしてみたいと考えており、これでアイシャと二人で協力して剣で叩けると考えるのだった。
(それにしてもポイント、私の計算が正しければ、一度魔法を詠唱したら二万ポイントが入るようになっている気がする。あとたまに何もしていないのに一気に増えたりするのよね。何がトリガーになっているのかは分かっていないのだけれど。毎日、百回は最低でも魔法の詠唱か剣の素振りをしているから、一日で二百万ポイント回復するということ。前回は一回で千ポイント、一日で十万ポイントだったから雲泥の差ね)
すると、視界の右下にとある文字が表示された。
『メッセージを受信しました。開きますか?』
脳内で(開いて)と念じたところ、メッセージウィンドウが開いた。
『リゼ、使い方はあっているかな。今日はありがとう。サンドイッチ、とても美味しかったよ。それに、会いに来てくれて嬉しかったし、気になっていることを聞いてくれてそれも嬉しかった。また会えるのを楽しみにしている』
どうやらサンドイッチはかなり喜んでくれたようだ。料理を勧めてくれたアイシャに感謝した。
『こちらこそありがとうございました。今度、模擬戦しましょうね』
返信を終えると、リゼは家に到着するなり、服を着替えてアイシャと合流する。
スキルや魔法の確認をするようだ。




