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595.帝都にて

 その後、話などをしていると十八時近くになった。そろそろ帝都に繰り出す頃合いだろう。いよいよ、来賓対応も終盤に差し掛かってきていることになる。

 リゼたちは馬車に乗り込むと学院を出発した。どこに行くのかはルイにお任せである。学院の門を出たところで「どこに向かうと思う?」と質問をしてきたので、少しばかり考えることにした。


(恐らくは一昨日と昨日は行かなかったところのはず。となると、どこかな? 夕食にちょうど良い時間になるし、レストランとかかもしれない。あとは帝都で行くところとなるとやっぱり有名なのは……劇場とか、かも?)


 リゼは(この質問って何か裏があるわけではなく、普通に当ててしまっても良いのかな……? レストランはほぼ確実に行く気がしているけれど……)と少し不安になるが、ここは深読みせずに素直に「レストランか劇場かと思いますね……」と答えてみる。するとルイは「おお!」と拍手をしてきた。


「その通り。君なら分かるかと思ったよ。一時間ほど観劇をして、レストランに向かう予定だ。ブルガテドの劇はなかなか良いらしいからね」

「楽しみですね……!」


 どうやら質問に意図はなかったようだ。観劇はかなり久々であるので楽しみになってきた。ゼフティアで見た以来であり、ブルガテドでは見たことがない。きっとゼフティアとはまた違った作品であるはずだ。


 程なくして劇場に到着すると厳戒態勢が敷かれていた。ブルガテドの近衛騎士が沢山おり、劇場に入る者たちのステータスウィンドウや装備ウィンドウをチェックしている。

 さらに劇場の周りも警戒されており、とにかく数が多い。これではならず者はもちろんのこと、例え機関の者でさえ近づくことが難しい状況となっていた。


『神器さん、劇場内にルイに害をなそうとする人たちはいないですよね?』

『ご安心ください。いません』


 だいぶ警戒しているようであるが、劇場のスタッフなどに紛れる形ですでに侵入されていないかどうかが気になったが安全のようだ。

 劇場に入ると、一般的な席ではなく、三階にある皇室用の隔離された席へと案内された。ゼフティアでジェレミーと観劇した際にも同じような席で見たことを思い出す。舞台をよく見渡せるが、下の階層からはこちらを見ることが出来ない構造になっている。


「君は観劇の経験はあるよね? どういう作品だと思う?」

「そうですね。ブルガテド帝国ということもあるので、戦記系かなとも思います。ミリア大帝国関連かアレリードとの闘争を描いているのではないかと勝手に予想しています」

「そうか。僕も演目を知らなくてね。だが、ミリア大帝国に関する話かなとは僕も思うかな」


 そんな話をしつつ、劇が始まるまでに飲み物などをもらって飲んでいると、やがて鐘がなった。どうやら始まりのようだ。


 内容はミリア大帝国からの独立当時を描いた人気作品である。分離独立後にまだまだ情勢が安定しない中、ゼフティアを見限った聖女がブルガテドに来てから、一気に国は安定へと向かう。聖女はゼフティアの聖女を管理しようとする方針や領土拡大方針に愛想を尽かし、夜に城を脱出したのだ。なお、ぜフティア側は聖女の目撃情報などからブルガテドが潜伏先と睨み、書簡を送って戻るように要請したが返答がなかったため、かつてミリア大帝国時代には敵国であったケラヴノス帝国にブルガテドの共同討伐を打診するが、全面的な協力は得られず、単独で攻め入ることにした。現在のヘルマンが治めている領地で大規模な戦闘に突入するが、ブルガテドは混乱期の最中にグレンコ帝国と同盟を結んでおり、ゼフティア軍を返り討ちにする。


(ゼフティア側では聖女がいなくなってからは行方知れずということになっていたはずだけれど、ブルガテド側ではまた違った見解をしているのね。それにしても予想した通り、ブルガテドがミリア大帝国から独立して真の安定に向かうまでを描いた作品ということね)


 リゼはそんなことを思うが、ルイをチラッと見ると真剣に見ていた。分離独立後に幾度かの戦争を経験しているゼフティアは戦争慣れしており、最初は攻勢であったが、聖女が出てきてからはその力に圧倒され、散り散りとなって撤退していく。聖女は昔、ゼフティア独立のために尽力したため、かつての味方の聖女と戦うことになってしまったようだ。聖女はゼフティアを撤退させた後に、聖属性魔法の力を石にためて教会に渡した。その聖女の杖が今にも伝わるという説明があり、最後に『聖女フォルティア様によって、聖女の杖はかつての力を取り戻しました。フォルティア様がそのお力で聖なる力を石にこめてくださったのです』と追加で説明があり、幕を閉じた。


 観劇に来た民衆たちは声を上げ、貴族たちは拍手をしている。ブルガテドではこの劇がかなり人気らしく、聖女の人気も高いらしい。かなり待たされてしまうものの、聖女の杖により薬では確実に治らない病気を治してもらえたりするからだ。

 現在はランドル商会でポーションやキュアポーションなどが手に入る為、聖女の杖を使った治癒行為を神官が行うことはほとんどなくなったようである。


 拍手をしていたルイが「フォルティアが人気の意味が分かったね」と話しかけてきたが、このように観劇に来た人々に自分の話がされているとは思っていなかったリゼは小声で「そうですね……」と答えるしかなかった。


 この劇の盛り上がりを見た限り、ゼフティアとは友好的な関係にやっとなったものの、長年敵国であったこともあり、未だに民衆からするとゼフティアには複雑な印象を抱いているかもしれない。ゼフティア軍が撤退するようなシーンではかなりの盛り上がりを見せていた。


「今まではこうして敵国だったかもしれないが、僕たちの世代で変わっていくと良いよね」

「あ、そうですね!」


 観劇の内容からして、ゼフティアの見せ場はなかったので微妙な空気になりかけたが、ルイが明るい話をしてきたので、同意しておくリゼだ。確かにその通りであるため、心の底から同意した。


 その後、特に問題が起きることはなく馬車に乗り込むとレストランへと向かう。劇場から五分程度のところで、馬車を降りるとレストランに入った。想像していたのは皇族御用達のような高級なレストランであったのだが、庶民派なレストランである。テーブルは五つほどで、こじんまりとしていた。他の客は平民だけのようだ。


 早速だが、ウェイターがやってきて挨拶をしてくる。


「ご来店、ありがとうございます。非常に光栄であります。当店はコースが一種類となっておりますが、アルコールはお選びいただけます。こちらがメニューとなっております」


 ルイがメニューを受け取って渡してきた。メニューを確認していると、「君は何を飲む?」と聞いてきたので、少し考える。一応、お披露目会を終えていれば、お酒は飲むことが可能だ。

 リゼは(といっても一口くらいしか飲んだことがないし、この後に日課の続きをしないといけないから普通にジュースにしましょうか)と考えて答えることにした。


「では、こちらのグレープジュースでお願いします。実はこの後、運動をする予定なので、ジュースにしようかなと」

「そうか。では僕はこのワインを頼もうかな」


 ウェイターは礼をすると厨房に伝えにいった。


「ルイ王子殿下、こういった店の情報をどこで仕入れられたのですか?」


 なかなかこういうタイプの店を選んでくるとは思っていなかったので経緯が気になっている。そのため質問してみたのだ。

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