500.広場での戦い
少し進むと広場にだいぶ近くなってきたのだが、ローデンス辺境伯領の騎士やケラヴノス帝国の騎士がまばらに倒れている。戦闘ウィンドウで見ると反応はない。残念ながら亡くなってしまうと反応がなくなるのだ。ここは広場に向かい更にその先には城があるというポイントであるため、激しい戦いがあったようである。魔法による戦いもあったのか、家が崩れたり燃えたりもしていた。地面も本来は綺麗な石畳であったのだろうが、えぐれて土が見えていたり、ひび割れたりしている。
そんな状況を深刻に受け止めながら進んでいくと先の方からは怒鳴り声などが響き渡ってきていた。うまいことヴィズルが城の方で問題を起こしてくれたようだ。いよいよ広場が目前となってきたので建物の影よりそっと顔を出して広場を見ると十人ほど残して他の騎士は城の方へと向かっていくところだ。走っていく姿が見える。走っていく先にある城の周りは水が貯められていて跳ね橋があった。このあたりのローデンス辺境伯領の騎士のことをあらかた殲滅したため、転移石の護衛は十人でも十分だという判断なのだろう。リゼはエルーシアと頷きあう。それからアイシャの父親にも頷きつつ作戦を伝える。
「お二人は一人ずつお願いします。あとはお任せください。私がまず敵を誘導しつつ、ある程度無力化します。お二人は数秒後に出てきていただければと」
「分かりました、リゼ様」
「お任せを」
リゼは剣を構えながら建物の影から飛び出ると、騎士たちに向かって距離を詰めに行く。騎士たちはというとリゼが近づいてくるのに気付いたようであるが鼻で笑っていた。無謀な者に映っているようだ。
「おいおい、親でも殺されて復讐でもしようということかな」
「真剣に走ってくるぞ。おい、遊んでやれ」
「隊長、了解です!」
比較的若い騎士がリゼに向かってくる。
「ウィンドウェアー」
スピードを上げるとすぐに騎士と二メートルのところまで距離を詰めた。騎士は止まることなく盾を前面に持ち突進してくる。そのままぶつかろうという魂胆のようだ。リゼはギリギリのところでかわすと素早く「ルミナス・イグニス」とスキルを発動して剣を三度振った。すると白い斬撃が背中に命中し、バタリと倒れる騎士だ。残り九人の方を向くと先程までの小馬鹿にしたような雰囲気はなく剣や盾を持ち直していた。
特に躊躇することなく、すぐに距離を詰めに行く。そして十メートルのところまで接近すると急停止して「エアースピア!」と魔法を詠唱した。風属性魔法をお見舞いすると、盾で何とか防ごうと踏ん張った騎士たちであったのだが、リゼはマナの数が増えていることにより、魔法の威力が上がっている。そのため、立っていられずに後方へと吹き飛ばされた。
一番近くに転がっていた騎士をアイスフェイントで失神させると、さらに近くの一人にフォーススリープをお見舞いして眠らせる。残り七人だ。アイスレイを詠唱しようかとも思ったが、氷属性魔法をあまりみられたくないということもあり、別の方法で攻撃することにする。
「コール。重要な証人なので命は奪わないようにうまく戦ってください。あちらの遠くに飛ばされた人たちをお願いします」
影は頷くとすぐに駆け抜けていく。騎士たちは「くっそ」と言いながら立ち上がるが、リゼはすでに手をむけている。
「グラビティ」
神器によって闇属性魔法を発動し、上から重力で押さえつけて体勢を崩させると「影斬り」とスキルを発動した。すると影から剣が出現して切り付けられ、一人が倒れた。すると後から飛び出てきたエルーシアたちが騎士に接近していく。アイシャの父親は騎士が落とした槍を投げつけつつ、さらに素早く剣で切り裂いた。エルーシアは冷静に「ライトスラッシュ」と騎士の足を狙い、貫いている。ふとその後ろの方をみると影が二人を倒してくれたようなので、残りは二人だ。騎士たちはリゼのことをリーダーと判断したのか槍を投げつけてきた。この騎士たちは槍と盾を装備していて剣を腰に下げているようである。リゼは冷静に結界で防ぐと「ソードゲネシス」とスキルを発動し、剣を射出する。さらに「ウィンドカッター」と詠唱した。二本の剣が一人の騎士に突き刺さり後ろに倒れる。さらに風の刃に切り裂かれた騎士は大きく後ろに転がった。エルーシアがライトスラッシュで足を貫いた騎士については何とか立ち上がろうとしていたので「ナイトブレイド」とスキルを発動する。
すると黒い剣が騎士の横に出現し、切り裂き、なすすべもなく倒れるのだった。これで制圧だ。かなりの致命傷を与えた騎士もいるため、冷静に全員を眠らせてからアクアバインドで拘束するとキュアで回復しておいた。
エルーシアやアイシャの父親と頷き合うと、泥人形を出現させて一箇所に固めてもらう。泥人形たちはすぐに開始してくれた。そして、ふと広場の中央に目を向けると少し大きめな転移石が置かれているようだ。リゼは何かの証拠になるかもしれないので破壊をせずにアイテムボックスへと収納する。
(神器さん、他に転移石はウェルトへイムやこの領地内にはありませんか?)
すると神器は『持ち込まれたこのサイズの転移石はこの一つのみです、通常サイズは城にいる指揮官が一つ持っております。他にも持っている者が二名ほどおりましたが、すでに脱出したようです』と教えてくれた。これでひとまずは大量に転移してくることは防げるだろうし、一安心だ。
(よし、これで増援は来ないはず。ルミアたちがトンネルを壊してもらえば完璧よね。あとは残った人たちを地道に倒していけば……!)
メッセージウィンドウを開いた。ルミアからは逐一連絡が来ているが、もうすぐ森に着きそうとのことであったので『ウェルトヘイムの広場を制圧しました』とメッセージしておくリゼだ。するとタイムリーにレゼシアより『敵の指揮官を討ち取りました。命までは奪っていません。これにより敵は混乱、サルド要塞からのグレンコ帝国側の騎士が攻撃をし、状況は優勢です』と連絡がある。続けて『アイシャと会話しました。おそらくこちらはもう問題ありませんがいかがいたしますか?』と聞いてきた。
リゼは映像ウィンドウで確認するが、レゼシアは念話しながらもフォトンレイで上空から光線を放ち、地面から闇の手を出現させて騎士を抑え込み、光る玉を操作して騎士を貫いているようだ。手にはレゼシアの専用武器である天浄剣エルサイドを持っていた。ケラヴノス帝国の騎士たちはまだ若い者たちが多いのか、経験豊富な指揮官がやられてしまうと浮足立っているようだ。しかも、レゼシアのようなイレギュラーな存在が一切の容赦なく攻撃を仕掛けているため、すでに武器を投げ捨てて降伏している者や地面に伏せて頭を抱えこんでいる者などもいる。ふとリゼはレゼシアについては結界などがなければ高い攻撃性をおさえることが出来なかったということを思い出した。
もはや騎士たちの戦意は大幅に失われていることが分かるのと、ローデンス辺境伯領の騎士がサルド要塞の門から外に出て戦い始めており、数もそれなりにいるようだ。これであればこの要塞の攻防戦は制したといっても過言はないだろう。
(ありがとうございます。それではウェルトへイムに来てもらいたいので、封印します。あ、アイシャにはウェルトへイムにいくと伝えてください。その後に封印と召喚をします。離れていても封印できるのは便利ですね)
レゼシアは『承知いたしました、ご主人様』と連絡がある。テイムしたモンスターとはパスがつながっているため、距離が離れていても封印と召喚が可能だ。




