489.転移施設へ
それからレギーナには機関の暗号についてをレクチャーしてもらったが、なかなかに複雑そうですぐには覚えられそうにない。暗号は五種類あり、文章で二種類、言葉で二種類、身振り手振りで一種類である。身振り手振りの一種類は戦闘時や指示、簡易な意思伝達などを行うものでそこまで難しいものではなかったのだが、他はレギーナに毎日少しずつ教えてもらうことにした。
「さてと、明日はアイシャが戻ってきますので紹介しますね」
「メイド仲間ですね。楽しみにしています」
「あ、そういえばなのですが、機関の中ではゼフティアの王子の誰が王位につくと教えられていたのですか?」
「いまは状況が変わりましたが、アンドレ王子はなかなか王位を継ぐのは難しいという判断をされておりまして、そうなるとルイ王子かジェレミー王子なのですが、ジェレミー王子は王位を継ぐための勉学などに真面目に向き合っておらず、派閥は大きいですが、難しいのではないかということになっておりました。なお、機関は基本的にブルガテド帝国をどうにかしたいという考えがありまして、ブルガテド帝国の同盟者であるヴィッセル公の孫であるジェレミー王子が王位を継ぐのはよくないと考えているようなところを感じました。なので、肩入れするならルイ王子になるのかと存じます」
「ありがとうございます。なかなか明確にどちらが勝ちそうかというような話にはなっていなかったということですね。ただ、機関としてはブルガテドが得をするような事態は避けたいので、支援をするならルイ王子ということもわかりました。いまはアンドレの出自も分かりましたし、絶対に阻止したいと考えているのかなと思いますね……」
その後、リゼはレギーナとお茶を飲みながら様々な事柄を語り合うことで、初めて会った日ではあるのだが、お互いに色々と知ることが出来たのだった。ケラヴノス帝国についても少しばかり知ることが出来たのでリゼとしてはありがたいといったところだ。
(ケラヴノス帝国って東側にはかなり勢力を伸ばしているのね。それで侵略された人たちが奴隷とか、兵士になって前線で戦わせられる……新しい国を征服すればするほど、戦える人の数が増えることになるし、危険極まりないというか……)
ふとそんなことを考えるが、レギーナにとっても今日は生活や状況が一変し、疲れていると思われるため、寝てもらうことにする。
リゼは寮に転移をするとお風呂に入ってからベッドに寝転んでリアに見せながらリッジファンタジアⅡをプレイしていた。プレイしながら思うことは、いよいよ明日はアイシャが戻ってくるということだ。楽しみなリゼであるが、祖父である辺境伯に会ったことでもう少し滞在したいということであればそうしてもらおうとも考えている。
いつの間にか眠っていたのだが、かなり早くに目が覚めてしまった。起きて準備をすると北方未開地で日課をこなす。神器曰く、衝撃耐性スキルと毒耐性スキルはもうすぐレベルが上がりそうとのことであった。毒耐性スキルが上がるのは良いことだ。致死毒のようなものを摂取するとキュアを詠唱する暇もなく死んでしまうかもしれず、一つの弱点である。そういった弱点を潰していくのは生存に繋がるのだ。
なお、衝撃耐性スキルは吹き飛ばされた際などのダメージを軽減してくれるが、セイントガードと共に使えば、あまりダメージを受けなくなるため、地道に上げている。リゼが日課をこなしているとレゼシアがやってきた。今日はアイシャを迎えるために帝都の転移施設まで出かけるため、封印することにするが、「上級ダンジョンを周回していますか?」と質問をすると「はい。一つお伝えいたしますと、魔法が効かず、物理攻撃も効かないというモンスターがおりました。そういう場合はスキルで倒すしかないですね」と情報を教えてくれる。流石に上級ダンジョンでは様々な厄介なモンスターがいるということを実感しつつも、レゼシアにはお礼を伝えて封印した。
それからレギーナや子供たちのことが気になったので街の方に転移をすると、朝食を取っている。かなり朝早いのだが、フォンゼルが朝食を持ってきてくれていたようだ。彼曰く、ケラヴノスではブルガテドよりも二時間は早く起きるのが通例であるため、予測して料理を運んでくれたそうである。
朝食を取る子供たちを眺めていると、フォンゼルが耳打ちしてきた。
「リゼ様、本日のご同行はいかがいたしますか?」
「今日は大丈夫ですよ。フォンゼルさんにはお願いしたいことがございまして、ランドル商会の孤児院に行って、拠点をこちらに移すということを話してきていただきたいのです。帝都も一見すると平和に見えますが、どこに諜報員がいるか分かりませんし、人質のようなことにされてしまうかもしれません。そういった危険からは遠ざけておきたいなと考えておりますので。できる限りすぐに移転したいです。全く同じ構成、内装の建物は作っておりますので、違和感はないかなと思います。強いて言うとすれば帝都に比べると寒いということなのですが、そこは対策済みです!」
「承知いたしました。それではゲイル殿が戻られるはずですので、お話ししておきます」
そんな話をしながら子供たちを見ていると、昨日に比べると少しばかり表情が明るい。安全だと感じてくれているようだ。子供たちもリゼのことをチラッと見てきていたりするので、「これから楽しいことが沢山ありますよ」と伝えるとコクリと頷いてきている。
孤児院をこちらに移すと、三階が空くため、テナント用に改装するのはありかもしれないと考えていた。二階も荷物おきなどにしか使っていないが、改装するのはありかもしれない。
リゼはメッセージウィンドウで北方未開地に来ることが出来る友人などに新しい街には住民が増えたということを伝えておく。これで仮に遭遇したとしても驚かれないだろう。なお、ゼフティアの貴族令嬢たちは昨日に離宮の付近ですれ違ったので理解済みである。
(北方未開地もリチャードが昔に暮らしていた頃は栄えていたけれど、少しずつ発展させることが出来ると良いよね……!)
後のことはレギーナに任せると寮に戻ってきた。リアと共に朝食にすると、アイシャを迎えに行くために準備を行なうことにした。
するとエルーシアがやってくる。
「失礼いたしました! お着替え中でしたか。退室いたします!」
「あ、いえ、大丈夫よ。どうしたの?」
「本日はアイシャさんのお出迎えに行かれるため、騎士としてご同行させていただけますと幸いです……! ちなみに部屋の外にリアムも来ております」
「そういうことね。問題なしよ。では準備をしたら向かいましょうか」
もしかするとアイシャの両親なども一緒かもしれないため、きちんとした正装をしてみたリゼだ。鏡の前で見てみるが特に問題なさそうである。
リアムにも部屋に入ってもらうと、二人にはレギーナについて話しておいた。新しいメイドであるが、戦闘力に優れているという話をした形だ。
すると、良い時間になってきたため、寮を出ると予約しておいた馬車に乗り込んで出発となる。門を出る際にはカーテンを完全に閉めておく。フォルティアを見てみたいという一定数の人々が門の前にいたりするのだが、このように対応しておけば、バレることはない。馬車は転移施設の近くで止まってもらい、時間が近づくまでは待機だ。映像ウィンドウで転移施設の中を観察することにする。かなりの人々でごった返しているようであった。




