202.ダンジョン攻略に向けて
その日はリチャードたちと合流して屋敷に戻るとリゼは眠りについた。状況を整理したためか、良い睡眠をとることができるのだった。
そして朝になり、朝食をとりつつ、誰とダンジョン攻略をするか考える。中級ダンジョンであるし、よほどのことがない限りは三人いれば攻略できるだろう。よって、フォンゼルや護衛騎士のアレクシスなどには来てもらわなくても問題ないと判断する。何かあれば転移魔法であるゲートを使って逃げられるだろうからだ。
(どうしようかな。三人いれば良いのだけれど、アイシャやリアはきっと行きたいよね。リチャードは行かないかな? アイシャとリアだといつも通り戦えば勝てるのは分かっているし、一緒に行ったことがない人を誘おうかな……えっと、一緒に行ったことがないのはローラ、コーネリア、アデール、エリアナ、ジェレミーね。ジェレミーにしようかな!?)
リゼはジェレミーにメッセージを送ることにした。まだヴィッセル公国へと旅立っていないはずだ。
『ジェレミー、先日お会いしたばかりですけれど、ダンジョン攻略をする予定なので、一緒に行きませんか? ブルガテド帝国の私の領地にあるダンジョンで行き来も自由なのでどうかなと思いまして』
ジェレミーにメッセージを送ったリゼはお茶にしようかと考えた。いつもジェレミーはメッセージの返信が遅いため、お茶をして少しゆっくりしたあたりで返信が来るだろうと考えたからだ。
しかし、予想外に即座に返信が来た。
『おお、それは嬉しいなぁ。近々、公国に旅立つわけだけど、その前に良い思い出になるね。いつ行く?』
リゼとしては即座に行きたいため、『今日とか明日でいかがでしょうか?』と返信をしてみた。リゼもわりとブルガテド帝国への旅立ちが迫っているため、バタバタとしないうちに攻略だけは済ませておきたい気持ちが強い。
少し時間がかかるかと思いきや、またすぐに返信があった。
『なら今日にしようか~。母上に伝えておくよ。で、どういう感じで行くのかな?』
『ありがとうございます! そうですね、私がジェレミーを迎えに行って、そのまま転移する感じでどうでしょうか? 帰りも王宮まで送ります』
『迎えに来てもらうのは忍びないけど、その方が効率的だし、そうさせてもらおうかな。母上に伝えたらまたメッセージを送るから少しゆっくりしておいて』
『わかりました!』
段取りも決まったところでアイシャを呼んだ。アイシャはすぐに駆けつけてきた。
リアはソファに居たが立ち上がってリゼの周りにやってきた。
「アイシャ、リア。今日いきなりなのだけれど、北方未開地のダンジョン攻略をしようと思うの。リアが間引き作戦でモンスターを減らしてくれていたあのダンジョンね。メンバーは私、アイシャ、リアとジェレミーとします。ジェレミーは北方未開地が初めてだから簡単に案内してからの挑戦になるかな。フォンゼルさんたちには待機しておいていただきましょう」
リゼが今日の予定を話すと、アイシャたちは頷いてきた。剣などの準備があるためアイシャは早々に部屋を後にした。リアはリゼの部屋に飾っている剣を取ると、「準備完了」と言ってきた。
「少しお茶でもしてゆっくりしましょうか」
リゼはリアとお茶を少し楽しんだところで、ふと両親たちに伝えておこうと思い立ち、部屋を後にした。そして、ランドル侯爵の執務室に到着をすると、ノックをして部屋に入った。しかし、ランドル侯爵はおらず、母である侯爵夫人の部屋へと向かうのだった。
ノックをして部屋に入る。
「あら、どうしたの、リゼ」
「お母様、北方未開地でダンジョン攻略をして来ようと思います。メンバーは私、アイシャ、リア、ジェレミーの四人で、ランクは中級ダンジョンです」
リゼは情報を伝えた。侯爵夫人は「そうなのね」と返事をしつつも、質問をしてくる。
「あなたのことだからもうあまり心配はしてないけれど、フォンゼルさんたちは同行しないの? あと、アレクシスさんなど」
「そうですね。今回のメンバーでしたらもう立ち回り方も慣れているので、良いかなと。何かあればすぐに離脱して逃げます!」
「分かったわ。お父様にはお伝えしておくから気を付けていくのよ」
「はい!」
侯爵夫人の部屋を後にすると(もうあまり心配されなくなってきたかも!)と実感しつつ、フォンゼルたちのところに向かうとダンジョン攻略についてを伝えておいた。
フォンゼルは了承してくれたものの、北方未開地の離宮で待機はしていたいとのことだったのでそうしてもらうことにするのだった。
それから部屋に戻って、準備を整えているとジェレミーから連絡があった。
『リゼ、母上が是非行ってこいって。近衛騎士はつけなくてよいということにもしておいたけど、母上がリゼと話したいということだったから、お願いしても良いかな。一言くらいらしいけど』
『わかりました。では、ジェレミーを迎えに行って、私の家に転移して、その後に北方未開地に転移する流れでお願いします。どこに行けばよいでしょうか?』
落ち合う場所を決めていなかったため、質問する。
『確か魔法でどこにでも転移できるんだよね? なら、建国記念のパーティーで控室として使われた部屋でよいかな。確かほら、エリアナとかオフェリーとかと一緒だったという部屋。十五分後に来てくれるかな』
『わかりました! では、十五分後に向かいますね』
ジェレミーには転移魔法であるゲートの話を先日の壮行会の時に雑談でしていたため、理解が早くて助かった。それから十五分後、アイシャたちには練習場で待機してもらうこととして、王宮の部屋に転移した。すると、ちょうどジェレミーや王妃が部屋に入ってくるところだった。
「リゼ、今日はよろしくね~」
「こちらこそです。ローレさん、お久しぶりです!」
リゼは王妃に挨拶をした。公の場所でなければ名前で呼んで欲しいといわれていたため、名前で呼ぶことにした。
「今日はジェレミーのことを宜しく頼むわね。あなたがいれば安全だと思うけれど、何かあったら逃げるのよ。リゼ、あなたの顔を見たくなっていたから癒されたわ。こうして定期的に会いたいわね。帝国騎士学院に行ってしまうのは分かっているけれど、おそらく私の通行許可は下りるでしょうし、会いに行くわね」
「ローレさん、メッセージをいただければ転移でお会いしに来れますのでいつでもご連絡いただけると嬉しいです。私もローレさんにお会いできて嬉しいです。あれから双剣の練習を色々と頑張っています。ローレさんの剣さばきを思い出しつつですね……!」
最近のリゼは日課としての剣術の練習は立ち回りを洗練させるための練習と、双剣を使った練習と、双剣を相手にした時を想定した練習などを積み重ねていた。
「嬉しいわね。基本的な立ち回り方はいつでも教えられるので、言ってちょうだいね。こっそり二人で訓練しましょうね」
「母上、僕も混ぜてほしいんだけどなぁ」
「あなたはヴィッセル公国の学園にいるのだし、難しいわよ。あっちで頑張りなさいね」
ジェレミーは溜息をついた。王妃はリゼを抱きしめると「ジェレミーの不在についてはうまく話しておくからゆっくり楽しんでいらっしゃい」と言い残すと部屋を後にするのだった。
リゼは王妃に相当気に入られてしまったようだ。
「さて、行こうか?」
「ですね!」
ジェレミーと共にランドル侯爵邸の練習場へと転移した。すでにアイシャ、リア、フォンゼルが待機しており、北方未開地へと転移するのだった。




