144.戦闘と対応
サイクロプスは左手に持つ盾でエリアスやロイドの攻撃を防ごうと必死だ。
「セイクリッドスフィア」
リゼは冷静に聖属性魔法を詠唱すると、五つの球体が出現する。そして球体は即座にサイクロプスに浄化の輝きを光線のように射出し始めた。
サイクロプスは右手を糸で絡められており自由に動けず、球体の光線を受け続けるしかない。セイクリッドスフィアの光線が当たるたびにつんざくような声をあげている。どのモンスターもこの聖属性魔法の攻撃は嫌がるようだ。しかし、逃げないように調教されているのか、逃げようとはしない。
さらにエリアス、アンドレ、ロイドが突き攻撃や切り裂きを加えていく。
サイクロプスは成すすべがないとはいえ、命令されているアンドレの殺害を忠実に成し遂げようとし、盾で殴りつけに来た。
「ウィンドプロテクション!」
リゼはアンドレに防御魔法を付与し、盾を逸らすことに成功した。サイクロプスは完全にアンドレしか見ておらず、確実に殺しに来ている。
「ソードゲネシス!」
リゼはスキルを発動した。スキルにより紫色の剣が二本出現し、サイクロプスに射出された。剣はモンスターに突き刺さり、消滅する。さらに泥人形が後ろからサイクロプスを突き刺した。
「四連斬り!」
さらにエリアスがスキルで連続攻撃を加えると、ロイドが下から剣で突き上げた。すると、サイクロプスは膝をつき大きな音を立てて倒れるのだった。サイクロプスは中級ダンジョンのモンスターだ。上級魔法であるセイクリッドスフィアの攻撃でかなり体力を持っていかれていたようだ。
戦闘ウィンドウで反応がなくなったことを確認し、すぐに反転してリアの元へ向かうと男たちを銀糸で後ろ手に縛り、寝かせることにした。サイクロプスが踏み潰した男は死んでいた。自分が展開した結界にぶつかって倒れて踏み潰されたため、なんとも言えない気持ちになるが、これがフォンゼルの言っていた修羅場なのだと神妙に考えた。彼は剣を引き抜き意気揚々とアンドレを突き刺しにきていた。戦いとは始まってしまったら殺されるか殺すかなのだ。意図的ではなかったが、結果的にはそうなってしまった。リッジファンタジアの戦闘モードでは主人公であるレイラを使って敵を殲滅したが、どの場面でもきっとこのような修羅場であったのだと頭をよぎった。レイラには酷な仕事をさせてしまったと考える。だが、いまはしんみりしている状況ではない。
さらに泥人形を三体ほど出現させ、周囲の護衛に当たらせる。
「この人たち、アンドレを狙っているようだったけれど、一体誰が……まだ他に仲間がいるかもしれない。リア、どう?」
「私が分かる範囲には居ない」
「そう。とにかくこの人たちをどうにかしないと」
するとアンドレたちが近づいてきた。久々の実戦で疲れた表情をしている。
「リゼ、助かったよ。リゼが居なかったらあのモンスターとこの五人を相手にするのは難しかったはず」
「こういう時のために色々と用意しておいて正解でした」
一安心したリゼは少し考え込む。
(神器を手に入れていなかったら効率的に眠らせることが出来ていなかった。リアが確実に一人を眠らせることが出来たとはいえどうなっていたことか……。それにインフィニティシールドがなければまずい状況になっていたはずよね。とっさに使えるようにダンジョンで練習しておいて正解だったかも)
するとエリアスが男たちを見下ろしながら口を開いた。
「起きる前に騎士たちに引き渡したほうが良いですよね」
「そうですね……泥人形に運んでもらいましょう。アンドレが狙われているので、とにかく安全に送り届けないといけません。護衛しながらいきましょう。泥人形をもっと出してっと」
リゼは追加で泥人形を五体ほど出現させた。これで合計十体だ。泥人形に男たちを抱きかかえてもらい、開始地点に向けてあたりを警戒しながら進むことにする。それなりに森の奥に来ていたようで静かに歩き続けるが、泥人形が周囲を警戒してくれているため、死角はない。少しホッとする。
「それにしてもリゼ嬢。随分と強いんだな。オフェリー嬢では相手にならなかったということがいまならよく分かる」
「あー、ありがとうございます。ロイドさん」
「おいおい、今更他人行儀はやめろよ。ロイドでいいって。やばい状況を乗り越えた仲じゃないか」
「分かりました。ではロイドと呼びますね」
リゼとしては(なぜまた攻略キャラとこのような話をしているのか。はぁ……)と考えながらも、アンドレに話しかける。
「アンドレ、何か狙われる心あたりなどはありますか?」
「ないな……いや、王位継承権問題を考えれば、こういうこともあるのかもしれないね。ブルガテドに恨みがある者とかね。他の派閥の人とか」
「困りますね……こういうイベントですと護衛騎士もつけられないですし。今回の出来事を報告して護衛騎士を必ずつけられるようなイベントにしていただくしかないですよね……」
すると男の一人が目を覚ました。リーダーではなく、リゼたちの背後に居た男だ。何もせずにリアに眠らされたため、状況を理解できていない。
「くっ……俺、いつの間にか怪我をしたのか……? 痛みはないが運んでもらってすまねぇ。あれか腕とか骨折したか。もしかして固定してくれた感じか?」
男は銀糸で目も覆われているため状況を確認できない。仲間に運んでもらっていると思っているようだ。リゼたちがしばらく反応せずに歩き続けるが「おい喉が渇いた。水をくれ」などと言ってきた。しかし、その直後に縛られていることを認識したのか、少しずつ怯えた表情に変わりつつあった。五分ほど歩くと、震えながら声を絞り出してきた。
「なぁ、頼む。俺はまだ一人も殺したことはないんだ。助けてくれ! 俺は仕方なく……」
リゼたちはしばらく男を無視していたが、泣き始めたので質問してみることにした。
「あなたは誰に雇われて王子を殺しに来たのですか? どこから来たのですか?」
「お、お前……さっきの女か。助けてくれ。俺はただ酒場に居て、金儲けがあると誘われてよ。ここには目隠しされてきたんだ。何もし、知らない! ここがどこかも分からない!」
男は懇願をしてきた。質問した内容である雇い主と出身地に対して何一つ良い答えを聞けなかったので、(質問の仕方が悪いのかな)と考えているとロイドが口を開いた。
「あのなぁ。金儲け出来るからと平然と人殺しをやろうと思えるやつの言葉なんて信じられるかよ。で、正確に答えれば腕をへし折らないでおいてやるよ。真面目に答えろ。お前は誰に雇われてどこから来て他に仲間はいるのか?」
しばらく男は黙っていたが、ロイドに手を掴まれて即座に喋りだした。
「ま、待ってくれ。俺は捕虜だろ? 捕虜の虐待はまずいはずだ、話すから、知っていることは話すから、やめてくれ」
「ほら、離したぞ。すぐに喋れ」
「俺を雇ったのはさっき喋っていたリーダー格の男だ。名前は知らない。俺は身寄りのない冒険者で、ゼフティアのアウトラム領の酒場でやつに声をかけられた。それから倉庫のようなところにしばらくいて昨日の夜に目隠しをして気づいたら森の中だった。知る限り五人以外には仲間は居ない……はずだ」
リゼたちは顔を見合わせた。真実かどうかは分からないが、ステータスウィンドウを共有させれば何かしらの情報はつかめるだろう。ゼフティア人なのか、外人なのか、色々と分かるはずだ。ただそれはリゼたちの仕事ではなく、騎士に尋問してもらうしかない。リアがもう一度魔法で眠らせた。
「リゼ、どう思います?」
「分からないですが……でも全部が嘘ではないのかなとは思います。あとは騎士の皆様にお任せですね」
「ところでリゼ。リアさんを紹介してくれないかな? リゼの関係者だよね?」
「ごめんなさい、アンドレ。お伝えしていませんでした。こちらはリアです。ランドル伯爵家で使用人として働いてくれていますが、主にアイシャと同じ立ち位置で私の専属です!」
リアは会釈した。アンドレも挨拶をし、エリアスなども同様に挨拶をするのだった。
リゼはアンドレに詳細は後ほどという意味を込めて意味ありげに見つめたところ、アンドレが何かを察したのか頷いてくる。モンスターテイムの件はエリアスには聞かれても良いが、ロイドにはあまり聞かれたくない話でもある。もっと仲良くなれば話は別であるが、北方未開地については限られた人以外に話すべきではないといまのリゼは考えていた。




