110.魔法帝国の結末
それから続きを読み進めることにする。
実際にニーズヘッグと戦っている間は日記を書く余裕などはなかったようで、戦いが終わったあとの話が綴られていた。
『これは事後報告である。ニーズヘッグは恐ろしき黒い竜であった。尾が蛇であり城のような大きさがあった。羽には大量のジェネラルスケルトンたちが乗って登場したため、奴らが地面に降り立ったところから壮大な戦いになった。一部の残った近衛騎士は皆、殺されてしまった。陛下は怪我をされ離宮へと避難していただいた。皇子と共に死ぬと仰られていたが、皇子には考えがあり、陛下を離宮へと逃したのだ。私の泥人形部隊はそれなりに活躍したが、ニーズヘッグのブレスを受け続け、次第に劣勢となり、我々は本城の地下へと追い込まれた。ニーズヘッグは帝都の街を蹂躙し、暴れていた。私の雷属性魔法やこの本に記録した魔法で奴の羽に穴を開け、尾を切り落とすことには成功したが、倒し切ることは出来なかった。皇子の強力な魔法でダメージを与えて飛翔することができなくなるところまで追い詰めたというのに。私は玉砕覚悟でもう一度打って出るつもりだ。ジェネラルスケルトンは残り少ないし、あともう少しなのだ。十体の泥人形を出現させ、何とか奴の意識を分散させて魔法で攻撃するのだ。だが、皇子は何かを察したのか私を地下トンネルへと突き飛ばすと『父上をよろしく』と言い残して扉を閉めてしまった。その瞬間に彼は編み出した魔法を二つ発動すると自身と帝都を氷付けにしたのだった。その魔法でジェネラルスケルトンやニーズヘッグは凍結した。私は扉を破壊しようとしたが氷で固められていて不可能であり、仕方がないため、天井に穴を開けて外に脱出した。氷は強固で壊すこともできないくらい硬かった。幾度となく雷属性魔法で攻撃したが受け付けなかったのだ。仕方がなく私は皇子やニーズヘッグをその場に残し、皇帝陛下の元へと急いだ。離宮とは地下のトンネルで繋がっているため、再度地下に降りて歩くこと二時間、離宮に到着した。陛下の部屋へと到着すると、彼は椅子に座りながら静かに事切れていた。怪我が深手だったようだ。私は陛下を埋葬し、皇子の元へと戻ると、彼は相変わらず目を瞑り凍結されていた。そしてニーズヘッグは微動だにせず生命活動を停止しているようであった。彼は神の試練に打ち勝ったのだ。なぜニーズヘッグが死んだと言い切れるかって? この本の二つ目の機能は事実を正確に述べるということである。この本が教えてくれた機能だ。ニーズヘッグは死んだのかと質問したところ、完全に生命活動が停止したと文字が現れた。この本はおそらくルーク様がくださった神器の一つであるため、きっと奴を倒したことに間違いないだろう』
本にはあと少し文字が記載されているが何が起こったのかリゼはある程度理解できた。
ニーズヘッグのお守りを交換画面で交換して、それが役に立ったリゼとしては何とも言えない気持ちになった。実際にメリサンドを倒した際に受けるダメージを軽減させてくれたため、命が助かった可能性がある。だが、試練として降臨させられなければ、もしかしたら悪い存在ではないかもしれないし、リゼは首を振って気持ちを切り替えると、続きを読むことにする。
『皇子の魔法でこの大陸は外部と隔離されてしまった。戦いは終わったが誰も戻ってこれないのだろう。外に出ることも出来ない。皇子は二つの魔法を詠唱していたようなので、そのうちの一つだろう。おそらくニーズヘッグを倒しきれなかった時に、母親である皇后陛下、姉と妹である皇女殿下たちに被害が向かわないようにこのようなことをされたのだろうと考える。もはやこの日記が学問で使われることなどはないだろう。誰も読むことなど出来ないのだから。ただ仮にこの本を見つけた者がいたらお願いしたい。我ながら哀れであるが禁書庫の状態を見に来たら立つことが出来なくなってしまった。よって最後の言葉として書いておく。皇子に伝えてほしい。自慢の弟子だと』
その後は文字にならない線が書かれており、おそらく力尽きたのであろう。
氷付けになっている皇子に伝えるくらいのことは出来る。リゼは伝えようと思うのであった。本には紙切れが一つ挟まれていた。こちらもルーン文字で書かれている。どうやら皇子が大賢者にあてた手紙らしい。
『師匠へ。言葉にするのは恥ずかしいからこの手紙はこっそりポケットに入れさせてもらいました。九年間、いつもありがとう。父上からも色々と学びましたが、でも僕のお手本はいつもあなたでした。武器の練習もしたけど、魔法の研究に努めたのは結局、師匠が僕の目指すべき人だったからだと思います。国の後継者として大変な毎日でしたが、あなたと笑い、時には喧嘩し、それでもすぐに仲直りする、そんな日々が楽しかったので乗り切れました。あなたには生きていてほしいと思っているので僕は最悪の場合、二つの魔法を使おうと思っています。一つ目は大陸を囲む氷の壁を作る魔法。僕だけの力では到底不可能だからこれには聖遺物の力を借りるつもりです。全てが解決したら父上に解いてもらってほしい。内側から氷属性を持つ者が触れたら消滅するので。そうすればみんなも戻ってこれるはずです。二つ目は僕と目標を凍らせる魔法です。僕のマナが枯渇されない限りは凍結され続けるはず。きっとニーズヘッグもひとたまりもないと思いますが、これも恥ずかしながら聖遺物の力を借りるつもりです。いずれマナが枯渇して解けるだろうからそうしたら埋葬してくれるとありがたいです。あなたは僕にとって友であり、兄でもあり、父でもありました。家族だと思っています。いままでありがとう』
ここで手紙は終わっていた。
様々な真実を知ったリゼは帝国が悲しい末路を辿ったと分かった。北方未開地を囲む壁はいまだに残っているため、中から氷の壁を解除する氷属性の持ち主がおらず、誰も戻ってくることは出来なかっただろう。皇帝が生きていたらなんとかなったのかもしれない。逃げた人々の中には氷属性魔法を扱える者もいたはずであるが、子供に遺伝しなければ途絶えることになる。実際に現在では誰も氷属性の存在を知らないため、今に至るまでの間に途絶えることになったのだろう。
リゼは本を手に持ち呟いた。
「メッドドール」
するとひとりでにページがめくられ、魔法陣が描かれたページを開かれた。そして、二体の泥の人形が姿を現したのだった。大人くらいのサイズがあり、鎧のようなものを身にまとっている姿をしていた。武器を持っている。これが泥人形と大賢者が呼んでいたものかと考えた。
「あの、私の言葉を理解できますか?」
人形たちは頷いた。
「リア? いまからすぐに戻ってくるから未開地に行かない?」
「分かった」
リゼはリアと泥人形と共に転移石で転移した。今回はスペアで塔の上に転移だ。
塔から降りるとあたりは物音一つせず、暗闇に満ちているが戦闘ウィンドウで見る限り何もいなさそうだ。リゼは連続して泥人形を出し、合計で五十体ほど出現させた。
「皆さん、ここに離宮である城があります。長い年月のせいでだいぶ埋まってしまっていまして、掘り起こしてほしいのです。土はそうですね……ここから五百メートル南下したあたりに運んでほしいです。もしモンスターがいたらみんなで協力して倒してください!」
泥人形たちはすぐさま作業に取り掛かった。
まずはこの離宮を拠点とし、その後に皇子やニーズヘッグが戦ったであろう城へと向かうのが良いと判断した結果だ。
リゼはリアと共に部屋に戻ると、明日に備えて眠りにつくことにする。
『リゼ、夜分遅くに申し訳ない。明日は朝の九時にそちらに行くね』
『わかりました、ラウル様。明日は宜しくお願いします』
ラウルからのメッセージに即座に返信すると眠りにつくのであった。
翌朝、早々に起きるとラウルが訪ねてきたため、知り得た事実をアイシャたち含めて話して聞かせた。
「そんなことがあったのか。その試練の神託、氷属性魔法が歴史として伝わっていないのはなぜだろうか。それに雷属性魔法というものもあったのか……」
「逃げた人たちが大陸に辿り着く前に何かあったですとか、かもしれません……無事に東方の地に落ち延びていれば少なくとも神託の件などは人伝に伝わるはずなので」
「そうだね。試練の神を信仰している国はないから、ニーズヘッグに関する神託がゼフティアやブルガテド含めて伝わっていないのは仕方ないことかもしれない。それに昔は啓示石板がなかったのかもしれないな……」
試練の神を他の国が信仰していて、啓示石板さえあれば、全ての関連する教会に神託がくだされるため、気づけたのかもしれない。しかし、どこも信仰しておらず、啓示石板がなければそのような神託があったとは知る由もなかったのだろう。




