100.事業と加護の効果
リゼは恥ずかしくなってしまったが、コーネリアは刺激を受けたようだ。
「すごいです。私もやってみたくなりました。家であまりやることもないので、試してみます」
コーネリアは乗り気だ。一人でお茶会をしているくらいなので、お茶会に対する熱意はかなりのものなのだろう。
「リゼの良いところは何でも挑戦してみるところよね。私も魔法だけではなくて色々と勉強してみようかしらね」
「本当にすごいですよね……私もリゼさんを見習って何か趣味を見つけようかと!」
ローラとアデールも考えさせられることがあったようだ。
ここでリゼは(そういえば)と思いだして少し席を外すと、銀糸の糸を木の棒に巻き付けているため、それを持ってきた。
「これは皆さんに聞いてみたいのですが、この糸を使って生地を作ろうかなって思っています。丈夫なので活用できる場面はそこそこあるかなと。どうかな~と思いまして」
「えっ! ちょっと、触っても良いですか?」
アデールが興奮気味に席を立ったため、渡すことにした。しばらく触ったり何やらとチェックしているようだが、満足したのかリゼに返してきた。
「これは上質な糸ですね。もしかしたら絹よりも上質かもしれません。是非、試作品としてリゼさん用の衣服を私の家で作らせていただけませんか!?」
「あっ、はい。そう言っていただけるのでしたら是非……どのみち私にはこの糸を布にすることも服を仕立てることも出来ないですし、あてもないので助かります」
「リゼ、もし良いものだったらアデールの家の商会で販売するのも良いかもしれないわね?」
「そうですね……。もしそういった事業を出来るのであればお願いしたいです」
(ポイント回復のためにエレスを稼げるならそういうのもありかも。アルベール商会のことはあとでアデールにメッセージしておきましょう。提携してくれると助かるのだけれど……!)
アデールは「絶対に売れますよ!」と太鼓判を押し、興奮気味である。ひとまず糸は沢山出してあるので全てアデールに渡して、試作品の確認後に三人の領地と王都で試しに販売してみることになった。
その後、お茶会はつつがなく完了した。お茶会を愛している様子のコーネリアが良いお茶会だったと嬉しそうに言ってくれたため、それなりによいおもてなしが出来たのかもしれない。
そして練習場に移動して魔法の練習方法について話し合い、三人は帰路についたのだった。三人とも魔法の練習はしてみるそうだ。
なお、最後に王宮主催の建国記念パーティーが狩猟大会の一週間前にあることが知らされた。そろそろ招待状が届くだろうとのことだ。
三人を見送ると猫の姿をしたリアが近くに来ていた。
『どうしたの?』
『あの三人、それなりに強くなる可能性ある。特にコーネリアは潜在能力が高い』
まったくリゼとして予測していなかった話題であるため、驚いてしまった。
「どういうこと? リアは隠れた能力が分かるの?」
驚くリゼをよそに人間へと姿を変えた。そして中庭に向かうとお茶会で利用していた椅子に座ったのでリゼも座ることにした。リゼは歩きながら叡智の神アリオンからもらった加護の効果に『非表示のステータス値を表示可能』というものがあった。しかし、未だに表示方法をよく理解できないでいる。関連した話だろうかと予想を立ててみた。
「人にはそれぞれ潜在能力というものがある。例えばレベルは人それぞれに上限が決まっている。大抵はレベル二十が頭打ち。低い人だとレベル五とかの人もいる」
「なるほど……レベル二十ということは中級ダンジョンのボスモンスターと同じということね」
「そう。大抵の人はやる気さえあれば、上限まであげればギリギリ中級ダンジョンのボスとは戦える。ちなみにご主人様は上限がない。とても不思議。だから最初に話しかけられた時、恐怖してたけど、勘付かれないように強がってみた」
「そんな気持ちだったのね……一応、レベル上限というものはルーク様の加護でなくなっているのよね」
非表示のステータスとはレベル上限のことなのだろうか。であれば、相手の強さを推し量る上では一つの指標になるかもしれないが、あまり役には立たないかなとも内心で考えた。
「話を戻すとあの三人はローラがレベル二十五、アデールがレベル二十二、コーネリアがレベル三十二だった。ちなみにアイシャはレベル二十九。フォンゼルはレベル四十五まであがるから異様」
「みんな高いのね。フォンゼルさんはなんとなく一つ上のランクの強さがある気がしていたから納得かも。普通は見えないステータスって他にはあるの? 加護で見えるようになっているはずなのだけれど、確認方法が分からなくて」
ダメ元で聞いてみる。何をしても確認することが出来なかったからだ。
「沢山ある。見ることが出来るのはレベル十一以上の知能があるモンスターと特殊スキルの保持者である人間。あとはご主人様みたいに特殊な加護の持ち主だけ」
そういうことかとリゼは理解した。まだレベル十一に達していないため、見ることが出来ないのだ。ただ、いずれは見ることが出来るようになりそうなので、ひとまずは安心した。
「それにしても、リアは色々と詳しいのね。そうだ、戦った時のインフィニティシールドはどう感じたの?」
「知らない魔法だった。だから焦った」
「そう。つまり無属性魔法は分からないのね。氷属性とかはメリサンドも知っていたし、知能があるモンスターは私たちが知らないことも知っているということね。ちなみにリアはレアモンスターだと自負しているみたいだけれど、どれくらいの確率で遭遇できるの?」
「とても貴重。神に愛されていないと遭遇など不可能。聖女とか。倒さなかったのは良い考え」
あまり聞きたくないワードが飛び出た気がするがそこはスルーすることにする。
色々と運が良いため、非表示のステータスに幸運という項目があったら最大値に近いかもしれない。
この日は日課をこなして眠ることにした。
翌日、キュリー夫人の授業を受けていたリゼは質問をすることにする。
「あの、キュリー先生、北方未開地ですが、以前に針葉樹林に覆われた危険地帯とお話されていましたよね。何が危険なのかお聞きしても良いでしょうか?」
「正確な情報は私も知識として有していないのです。信ぴょう性にかけますが、人が住んでおらず、モンスターが徘徊しているという話は聞いたことがあります。氷の壁で囲まれているので上陸はできないのですが、壁の向こうにモンスターの大群が見えたようです。それも昔の噂なので、今現在どうなっているのかは分かりません。モンスターがいるということは地震や地盤沈下でダンジョンが露出してモンスターが出てきているのでしょう」
「ありがとうございます! とても参考になりました。あともう一つ質問です。ステータスウィンドウで見ることが出来ない要素ってあるのでしょうか?」
もしかしたらキュリー夫人は何か知っているかもしれないので聞いておくことにした。
北方未開地については氷の壁で囲まれているということで調査が必要だと考えた。この世界については将来的に何か起こるはずなので、良く分からない事象については解明しておく必要があるためだ。
「あなたも気になりますか、リゼさん。私も気になっているのです。そういう要素がないと説明がつかない事柄があるためです。例えば、同じ魔法攻撃を受けても耐えられたり耐えられない人がいたりします。魔法属性に対する耐性のようなものが人それぞれにあるかもしれません。運なども人それぞれ異なりますよね。それに魔法も同じ習熟度の複数人が同じ魔法を詠唱しても威力が異なっていたりします。腕力も人それぞれですし、そういう固有の能力はあるのではないかと思いますね。見えませんが」
「やはりそうですよね。同意見です」
非表示のステータスについて想像がついていなかったが、キュリー夫人が具体的な例をあげてくれたため、少しだけイメージがついた。