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8.たとえ強がりでも

 フレン様は強いと言ってくれる。

 けれど違う。

 私自身が一番わかっている。

 笑顔を作るのも、元気なように見せるのも、全部強がりだ。

 そうしていないと壊れてしまう。

 笑顔でいないと、涙が溢れてきてしまう。

 誰かと関わらないと、独りぼっちなことを自覚してしまう。

 たとえ相手が、私のことを嫌いでも。

 嫌われているということは、認知してもらっているということだから。


「オルトリア、君はどうして……そんな風に笑っていられるんだ?」

「……え?」


 その質問は唐突に、優しい笑顔を見せてくれていたフレン様は、少し悲しそうだった。

 私は困惑する。

 もしかして、私の笑顔で不快にさせてしまったのではないかと。


「も、申し訳ありません」

「違うよ。君の笑顔を否定したわけじゃない。むしろ、俺は君の笑顔を気に入っているよ」


 彼は肯定するようにニコリと微笑む。

 心の動揺が少しだけ落ち着く。

 

「俺が知りたいのは……そうだね。君は自分がどう思われているか、どこまで知っているんだい?」

「それは……」

「一緒に働く先輩たちは、君のことを快く思っていないだろう?」

「――!」


 私は驚く。

 どうしてフレン様がそんなことを知っているのか。

 これまで大した接点もなく、話したことすらなかった私のことを。

 

「ど、どうしてそんなこと……」

「言っただろう? 君には注目していたんだよ。少し前からね」


 私を助けてくれた時、同じようなことを口にした。

 知らない間に、私はフレン様に見られていたのかもしれない。

 別に嫌な気分じゃない。

 むしろ光栄だけど、少し恥ずかしい。

 ここで働く私は、フレン様にどう映っていたのだろうか。

 私の動揺を横に、彼は真面目な顔をして語り出す。


「今回の件、君があの場にいたことだけど。いろいろと不可解な点が多かった」

「――! それは……」

「俺のほうで調べさせてもらったよ。あれはミスなんかじゃない。君の先輩たちが企てた作為的なものだった」

「作為……的……」


 やっぱりそうだったんだ。

 私はフレン様の言葉に納得してしまった。

 頭に浮かんだのは二人の先輩の顔だ。

 今日はいつもと違ってしおらしかった二人が……。


「驚かないんだね」

「え?」

「普通はもっと動揺する。それにショックを受けるはずだ。ともに働く同僚に、君は殺されかけたも同然なんだよ?」

「そう……ですね。けど……」


 最初からわかっていたことだ。

 平民の癖に出しゃばり過ぎだとか、気に入らないと影で言われ続けていた。

 まさか死んでもいいとまで思われているとは……信じられなかったけど。

 私は何もない平民で、彼女たちは貴族だから。

 彼女たちにとって私は目障りで、行く道で邪魔に転がる石ころみたいなものだったのかもしれない。

 邪魔だから小石を蹴飛ばす。

 その程度の感覚で、私を死地に招き入れたのかも……。


「本当に、君は凄いな」

「フレン様?」

「全てわかっていた。そんな顔をしている」

「……」


 その通りだから、無言の肯定を示す。


「それだけじゃない。婚約者に別れを告げられたのも、ブシーロ家から追放されたのも、つい最近のことじゃないか」

「……よく、ご存じですね」

「有名だからね。少し調べただけでわかったよ」

「そう、ですか……」

 

 哀れな娘だと思われているのかな。

 仕方のないことだけど……少し、嫌だなぁ。

 私は俯く。


「それなのに、君はいつも笑っていた」

「え?」


 思わず顔を上げる。

 目と目が合う。

 彼の瞳はまっすぐ私を見つめて逸らさない。

 そんな彼の瞳に私も吸い込まれるように釘付けになる。


「辛かったはずだ。苦しかったはずだ。だけど君はいつだって、太陽のように輝かしく笑っていたね?」

「太陽……そんな風に、見えますか?」

「ああ、俺にはそう見えた。太陽のように眩しくて、温かかったよ」


 褒められている気がした。

 いいや、きっと褒めてもらっている。

 太陽のような笑顔なんて、これ以上ない褒め言葉だ。

 嬉しさで心が温かくなる。

 私は胸に手を当てて、その温かさを実感する。


「正直、俺には理解できなかったよ。辛く苦しい状況なのは明らかなのに笑っていられる。しかも君は、本当に楽しそうに笑ってしまうんだ。苦しければ顔をしかめればいいし、悲しければ泣けばいい。それすらできないほど追い込まれているなら、逃げたっていいんだ」

「フレン様?」


 彼は心配そうに私を見つめていた。

 けれどすぐにニコリと笑みを浮かべ、優しい声色で語り掛けてくれる。


「君はそうしなかった。いつだって笑ってみせた。だからこそ、そんな君に興味を持った。話してみたいと思ったんだよ」


 私が笑顔を絶やさないのは、お母さんと約束したからだ。

 辛く苦しい時も笑っていよう。

 辛いのに笑うことで何が変わるのだろう?

 その行為に意味はあるのだろうか?

 自分でも少し疑問は感じていた。

 けれどようやく、意味があったのだと知った。

 少なくとも今、フレン様が私の笑顔を通して興味を持ってくれている。

 たったそれだけのことで、強がりな笑顔には、意味があったんだ。

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