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新人魔法使いオルトリアは人並みの幸福がほしい ~婚約破棄に追放されても知っていたので平気ですよ!~  作者: 日之影ソラ


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7.素敵な一日

 時間が過ぎる。

 あっという間に今日の仕事は終わった。

 戦いが終わった後だから、与えられる仕事も少なかった?

 ううん、違う。

 今日は二人の先輩に、余計な仕事を押し付けられることがなかったからだ。


「お疲れ様です。お先に失礼します」

「ええ」

「お疲れ様」

「はい」


 窓から夕陽のオレンジが差し込んでいる。

 こんなにも早い時間に仕事を終えられたことなんて、今まで一度もなかった。

 先輩たちに反撃するなんて勇気ある選択だったけど。


「悪くなかったかな」


 お陰で初めてを経験できている。

 みんなが当たり前のように得ている定時帰り……こんなにも特別な気持ちになれるんだ。

 

「別に……これくらいは許される、よね?」


 先輩に意地悪しても、二人を残して先に帰宅しても。

 咎められるいわれはない。

 だって二人は、私のことを見殺しにしようとしたんだから。

 真意はわからない。

 どこまで本気で、どこから嘘だったのか。

 私にどうなってほしかったのか。

 痛い目をみて、苦しんでほしかったのかもしれない。

 あるいは本当に……死んでほしかったのかも。

 けれど私は生き残った。

 傷一つ残さず、日常へと帰還した。

 二人が私と顔を合わせづらいのは当然だろう。

 もう二度と会うことはないと思っていた相手が、ケロッとした顔で仕事場にいる。

 ある種の恐怖を感じても不思議じゃない。

 

 ただ、もしも……二人が本気で私を陥れたかったのなら……。


「やっぱり、悲しいかな」


 私は夕日を見つめる。

 嫌われていることはわかっていた。

 挨拶をしても無視されて、余計な仕事を毎日押し付けられて。

 ここまであからさまに拒絶されて気づかないわけない。

 それでも私は今を生き抜くことで精いっぱいだったから、どれだけ嫌なことをしても笑って過ごした。

 辛くても、苦しくても、笑顔を忘れないで。

 お母さんの言葉に従って。

 そうして私は知ったんだ。

 暗闇の中の光を、頑張りを認めてくれた優しさを。


「もう一度……」


 会いたいなぁ。


「何を見ているんだい?」

「夕焼けを……え?」

「なぁ、この間ぶりだね? オルトリア」

「フ、フフ、フレン様!?」


 いつの間にか隣にフレン様が立っていた。

 あまりに突然の再会でドキドキが加速する。

 会いたいという私の願いが通じたのだろうか?

 だとしたら、今日はとてもいい日だ。


「もう仕事は終わったのかな?」

「はい。今日はもう終わりました。フレン様はまだ、お仕事中ですか?」

「いいや、俺は今日非番なんだよ」

「そうだったのですね」


 非番なのに宮廷にいる?

 何か用事でもあったのだろうか。

 何にせよ、彼とこうして再会できた幸運に感謝しよう。


「オルトリアは、この後予定とかあるのかな?」

「いえ、特には。帰る途中でした」

「そうか。ならちょうどいい。少し時間を貰えないか?」

「はい? 時間、ですか?」

「ああ」


 フレン様は夕日を見つめる。

 優しい横顔が、夕日のオレンジに染まって温かさを増す。


「君と少し話がしたいんだ」

「――は、はい! 私も、お話したいと思っていました」

「本当か? 嬉しいよ」


 それはこちらのセリフだ。

 フレン様から話しかけてくれるなんて思っていなかったから。

 

 ああ、今日は本当に、なんて素敵な一日なのだろう。


 私たちは場所を移す。

 宮廷の庭にはテラスがある。

 木々や花に囲まれてお茶やお話をするのに最適な場所だ。

 夜が近づくと明かりがついて、昼間とは違った雰囲気を醸し出す。

 今はちょうど、昼と夜の中間。

 夕日に照らされたテラスで、私とフレン様は向かい合って座る。


「戦いの後だけど調子はどう? どこも悪いところはない?」

「はい。フレン様に守っていただいたおかげです」

「そうか。俺は途中から駆け付けただけで、それまで一人で魔物の相手をしていたのは君だ。改めて大したものだよ」

「あ、ありがとうございます」


 会話が始まって早々に、彼は私の頑張りを褒めてくれた。

 息をするように他人を認めてくれる。

 嘘偽りない賞賛に、心がドキッと震える。


「あの大群を退けたのは……報告では俺の功績ということになっている」

「はい。本当にすごかったです」

「そうじゃないだろう?」

「え?」


 フレン様は優しく微笑みながら言う。


「君も、功労者の一人だ」

「――!」

「俺が到着するまで、魔物を退けていたのは君だ。俺が来てからも、君は一緒に戦ってくれた。あの時も言った言葉だけどもう一度言おう。あれほど背中を頼もしいと思ったのは初めてだったよ」

「フレン様……」


 褒められてばかりで胃もたれしてしまいそうだ。

 こんなにも幸せな気持ちになってもいいのだろうか。

 ジーンと心が熱くなる。

 そんな私に、フレン様は問いかける。


「君はいいのかい? 自分が評価されていないことに、憤りを感じたりしないのかい?」

「……私は、フレン様が来てくださらなかったら、きっと挫けていました」

「本当に?」

「はい」


 身体がじゃない、心が折れそうになっていた。

 一人ぼっちの戦いは孤独だ。

 誰も助けてはくれない。

 それどころか簡単に見捨てられてしまう。

 自分は孤独なのだと思い知らされて、笑顔すらままならなくなった。

 そんな私の前に、フレン様は現れてくれた。


「だから私は、こうして生きていることだけで十分です。フレン様とお話して、褒めていただけた。それだけで……私は幸せ者です!」

「――!」


 嘘じゃない。

 本心だと信じてもらいたくて、私は精一杯の笑顔を見せる。

 私を見て、フレン様は呆れたように笑う。


「君は本当に……強い子だな」

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