11.ヴァルハラ
フレン・レイバーン直属特殊分隊、通称ヴァルハラ。
彼が選んだ最も信頼できる者たちだけで構成された分隊は、王国最高戦力の一角に数えられている。
敵国をたった一人で相手にできるフレン様が率いる分隊だ。
その時点ですでに、この国における最終兵器であることは揺るがない。
私は自分のことで精一杯で知らなかったけど、ヴァルハラの存在は有名らしい。
騎士団、宮廷で働く者なら誰でも知っていて、憧れを抱く。
そんな集団の一員に、私はこれからなるんだ。
フレン様が扉を開ける。
私が心の準備をするよりも早く、友人の家を訪ねる様に。
「ようこそオルトリア! ここが君の、新しいホームだ」
「オルトリアです! これからよろしくお願いします!」
中には三つの人影があった。
顔をしっかり見るより先に、私は大きな声であいさつをして頭を下げた。
何事も最初が肝心だ。
どんな人たちにも最初に会ったら挨拶から始めよう。
思いっきり笑顔を見せて、堂々と。
私は頭を下げたまま反応を待つ。
すると部屋にいた一人の男性が最初に応えてくれた。
「おうおう、元気がいい奴じゃねーか」
「本当だね~ 礼儀正しくていい子そうで何よりだよ~」
私はゆっくり顔を上げる。
挨拶に反応してくれた二人の男性は、それぞれ穏やかな表情で私のことを見ていた。
「よろしくな! 新入り! オレはライオネスってんだ」
「僕はユーリだよ。よろしくね?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
最初に反応してくれたのはライオネスさんだった。
見た目はごつごつして筋肉質な大男。
ちょっぴりいかつい顔付きだけど、笑った表情は子供っぽくもあって何だか落ち着く。
少し荒っぽそうな口調だけど、悪い人じゃないのは一目でわかった。
その隣にいるもう一人、ユーリさんは独特な雰囲気をしている。
ニコニコ笑っていて、髪が女性の私よりも長い。
長い髪を後ろで結び、瞳を半分閉じているような細目だ。
肌も女性のように白くて、どこか妖艶で。
ライオネスさんと対照的に細い身体をしているのに、なぜか異様な感覚がある。
怒らせたら怖そうだな、というのが第一印象だ。
そして……。
あと一人、ソファーに座った女の子がいる。
彼女は本を読んでいた。
「あの……」
「おいサクラ! お前もちゃんと挨拶しろよ」
「……」
「無視かよ!」
ライオネスさんの声にも気づかないふりをして、彼女は黙々と本のページをめくる。
すると私の隣でフレン様が、やれやれと首を振り、仕方ないなとぼそっと口にして彼女に言う。
「サクラ、挨拶するんだ」
「……わかった」
彼女はぱたんと読んでいた本を閉じる。
フレン様の言葉にはしっかり反応するらしい。
本を閉じた彼女はゆっくり立ち上がり、私のほうへ視線を向ける。
「サクラ・レイバーンです。よろしくお願いします」
「は、はい! よろしく……ん? レイバーン?」
私はフレン様に視線を向ける。
彼はニコリと微笑み、サクラを見ながら私の疑問に応える。
「そう。サクラは俺の妹なんだ」
「妹さんだったんですね。道理で……」
私は改めてサクラを見る。
桜という綺麗な木の花に似た鮮やかなピンクの髪。
髪色は全然違うけど、纏う雰囲気はどことなくフレン様に似ていた。
ぱっと見でしかないけれど、身長も私より低いし、もしかすると私より年下の女の子かもしれない。
もちろん年下でも先輩は先輩だ。
先輩には礼儀正しくしないといけない。
宮廷で働いて嫌というほど学んだ。
「よろしくお願いします! サクラさん!」
「……うん、よろしく」
なんだか彼女には歓迎されていないような気がするけど……。
なぜかライオネスさんが呆れている。
「ったく、相変わらずフレンの言うことしか聞かねー奴だな」
「仕方ないよ~ サクラちゃんはフレン君が大好きだからね~」
「うるさいですよ。それ以上しゃべったら武器と鎧全部錆びさせてあげますから」
「絶対やめろ!」
どうやら男性二人に対しても対応がきついみたいだ。
二人よりサクラのほうが先輩なのだろうか?
それともフレン様の妹だから?
話した感じは親し気で、そういう上下関係が色濃いようには見えないけど。
「うわ、怒らせちゃったかな」
「てめぇが余計なこと言うからだぞ」
「えぇ~ 僕のせい?」
「お前たち……好き勝手にしゃべりすぎだぞ。オルトリアが困ってるだろ?」
「え、あ、えっと」
フレン様の一声で、三人とも会話を止めて私のほうを見る。
別に困っていたわけじゃないけど、確かに置いてけぼりになっている気分だった。
ライオネスさんが自分の頭に手を触れながら言う。
「おう、悪いな。別にのけ者にしてたわけじゃないんだぜ?」
「ごめんね~ でも驚いたな~ フレン君が新人を連れてきたのって初めてじゃない?」
「だな。オレたち以外はもういらねーのかと思ってたぜ」
「そういうわけじゃない。優秀な人材がいたら声をかけるようにはしてる」
三人が会話をする。
どうやらここにいる人たちは、ヴァルハラの結成時からのメンバーらしい。
上下関係が見えないのは、全員が同じ時期に分隊入りしたから?
それにしては独特……というより、友人みたいな距離感だなと思った。
宮廷は上下関係がハッキリしているけど、騎士団はもっとラフなのだろうか。
個人的には騎士団のほうが厳しそうだったのだけど。
「なるほどな~ ってことは、オルトリアは相当腕が立つってことか?」
「ああ、俺が認めた魔法使いだ」
「へぇ~ どれだけ凄いのか興味あるな~」
「そういうと思ったよ。だから、今から見せてもらおう。そういうわけだから、頼んでもいいかな? オルトリア」
「――え?」
何をですか?
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!






