吹雪家とクリスマス
雪吹きすさぶ都会に住むある少年の御話。
その子は、2か月くらい前から突然、何を見せても感動はおろか、瞬きのリズムを変えることも無かった。彼は、親がいくら愛情をかけて買い揃えたものにも、興味すら覚えない。
少年のすーすー眠る声を聴き、扉を閉めた両親はやれ果て困ってしまった。
「ねぇあなた。明日は吹雪が産まれて十二回目のクリスマスよ。何をあげたら喜ぶかしら」
「……ゲームも漫画もケーキも、ひとしきり揃えたろう。他に何をあげたら良いというんだ」
「だって……吹雪の喜ぶ顔が観たくって」
「それは俺も同じさ。何か心に障碍があるのかもしれない……病院に連れて行ってみるか」
それを聴いた母親は苦い顔をした。
「私がちゃんと産んであげられなかったから」
「違う。そういうことを言いたかったわけじゃないんだ。俺は吹雪のことを考えて……」
「……ごめんなさい」
「俺こそ、変なこと言って悪かった」
結局。その日を後味悪く過ごした二人であった。
次の日。
吹雪という少年は、黙々と母親の作ったアツアツのグラタンを食べていた。それを見て母親は、
「ね、吹雪。美味しい?」
とか、
「美味しい人手を挙げてー!」
とか、言ってみたりはするものの、吹雪は一切言葉を発さずに学校へと行ってしまった。ガッカリとしている母親に、父親は、
「反抗期なのかもしれない。真正面からぶつかってくるまで、そっとしておこう」
と言って会社へと行ってしまった。
残された母親は、心底寂しそうな顔で後片付けをしていた。
(何がいけないのかしら。何が……)
夕方になって吹雪の母親は買い物に出掛けた。プレゼントは豪華にしてあげたい。友達が出来るように、流行りの物やカッコいい服など……。
(望めば何だって買えるのに)
と、華やかなケーキの並んだショーケースを観ながら口を尖らす母親であった。
(もしかしたら本当に障碍が……?)
不安がった吹雪の母親が、学校に電話をする。担任の先生は、
「え。吹雪君は表情豊かで面白い子ですよ」
と言う。
そんなバカな、と母親。
「クラスでいじめはありませんか?」
「学校側が隠蔽しようとしているんじゃないですか?」
「ええ、どうなんです、先生!」
と、担任の先生に詰め寄る。周囲の人の目線などお構いなしである。怒れば怒るほど熱くなる。疲れ果てた吹雪の母親は、証拠集めのために息子の部屋に入った。
きちっと整頓されていた部屋だった。しかし、学習机の上には、見慣れない手縫いのクマのぬいぐるみが1体置いてある。その横には、手紙らしきものが。
「……ハートのシール……これってまさか……」
――がちゃり
「ゎ」
小さく発せられた吹雪の声に感動しつつも、「この手紙は何?」と問い詰める母親。吹雪はくるっと後ろを向いてしまった。すかさず回り込んで彼の表情を覗き込んだ母親が見たものは――
「顔真っ赤じゃない! 熱でもあるの?」
吹雪の見たことのない焦燥にも近い表情だった。
「……」
ついに、吹雪は白状した。
◇◇
「――――はっはっは! 好きな子に“家の中では無口な方が好き”って言われたのか~!」
父親が外まで聴こえるような大きな声で言うものだから、吹雪は、あわあわしながら父親のワインの瓶のコルクを詰める。
「父さん、飲み過ぎ!」
真っ白く立派なクリスマスケーキに、大きなローストチキン。その他付け合わせ(てんこ盛り)が並ぶ豪華な食卓の中で、一人肩身狭そうにしている吹雪が居た。
吹雪の父親は、
「たくさん食べて筋肉つけろよー! モテるぞぉ!」
そう言って、おいしそうにワインを飲んだ。母親も、
「心配した分だけ食べてもらうからね! お残し禁止!」
そう言って、吹雪にどんどん料理を取り分けていくのであった。
「こんなに食べられないよ……」
◇◇
これは後日談だが、告白は成功したらしい。理由は「筋肉をつけ始めてカッコいい」からだとか。乙女心とはなんて無責任で、なんて瞬間的な感情なのであろうか……。
おしまい
Merry Christmas!