止まりませんの
「これが、私。.......見飽きたものね」
なんて素敵!なんて言うと思って?期待した眼差しを向けてくる侍女に、立場を弁えろと促し……まぁ弁えるべき身分は私なのだけど
どこへ向かえば良いのかの問に「お部屋でお待ちください」としか述べないので、とりあえず部屋を出る
「お待ちください!!」
「出口出口〜ドレスは後日送り返しますわね〜」
庭に繋がる扉に手をかけた時、違和感を覚え体が強ばった
何かおかしな匂いがする
この先は城の中心、所謂中庭。この庭園を囲むように城は建設されている。その庭園から……これは
「料理?」
次の瞬間バァァァンッッ!!と開け放たれた光景に目を疑った
中央に謎のステージ、所狭しと並ぶ料理を囲む王族貴族、絢爛豪華な飾り、まるで私を嫁に迎え入れんばかりのおもてなしだ
溢れんばかりの笑顔が鼻につく
ハリボテか?
現実逃避虚しく、王が口にした一言は
「婚約おめでとう、キックスにテネブラ嬢」
「婚約」
冗談がすぎませんこと
「恐れ多くも発言の許可を」
「おうおう、もうそんなかしこまる必要は無いのだぞ」
「許可を」
「よいよい、申せ」
「帰宅許可を頂きたく」
「だめじゃ」
よくもそんなにこやかに
「畏れ多くも陛下、私は身分を捨て一介の冒険者へ落ちた身の上。今一度殿下と婚約することは叶わぬことと」
「身分など昨今の貴殿の活躍でいくらでも授けてやれるじゃろ」
話が通じないらしい。それに、以前から私に対して敵対心を剥き出しにして来た貴族の顔が軒並み見えない。キックス殿下さえこの場に居ないとなると......
「陛下包み隠さず当事者である私に教えていただけませんか」
「良い」
「キックスの恋人マルサはどこへ」
やけにマルサの話を避けると思っていたが、まさか消されたのか。確かに浮気をしたとあっては外聞は悪いだろう。浮気相手を捨て元サヤに戻ったことにしてしまえばまだマシという考えは理解しがたいが察してしまう
「彼女はこの国を裏切り、あろうことかキックスを襲ったのだ。キックスはまだその傷を癒すため療養に出ておるが、裏切り者は山に捨て置いてやったわ。今ごろ魔物にでも食われて」
なるほど、それはいけませんね
「大変ですわ!命からがら逃げ仰せていた場合何を企むかわかったものでは!」
皆様驚いた顔をして下さいましたが、私は止まりませんわよ
「今すぐ確認を、生きている場合捕えて処刑せねばなりません。みなさんお忙しいでしょう?私自ら調べて参りますわ!!足の早さは誰にも負けませんから」
早口で王を、貴族を、従者達を捲し立て指を鳴らし
「ラピスリー!!」
その呼び掛けにすぐさま駆けつけてくれる愛する我が子。その洗練された美しい大翼が太陽に照らされ人々の声を遮る
「婚約の件は追って御連絡いたしますわね~~」
これ以上付き合ってやるものか
何もかもを放り出して私は王家御用達の人攫いの山へ飛び立ち、二度と私を縛り付けようなどと考えるべきではないことを教えてやろう