第八章 コード《 氷者》
「なぁ、団長。今の気分はどうだ?」
氷者が気味の悪い笑顔を見せながら近づいて来る。
「最悪だよ、なんでお前が”そっち側”にいるんだ?!」
アガサは赤く染まった瞳をアイル一点へ向ける。
今のアガサの目にアイル以外は映らなかった。
「何でも何もねぇよ、団長にはどうせ分からない。最初から天賦を与えられた者と与えられなかった者とでは理解し得ない。」
アガサは歯を食いしばることしかできなかった。
アガサ自身、自分が最初から天賦を与えられた者と自覚している。だからこそアイルの言葉がよく分かるのだ。
「でも、もうお前は敵だ。何も同情はしないぞ。」
アガサは素早く傷を治癒し、詠唱の構えに入る。
「あぁ、来いよ」
アイルはノーガードで待ち構える。
「ライトエンシェント《 ショック・ハイ》」
アガサはライトエンシェントの単発魔法で様子を見る。
アイルはそれを片手で払い次の瞬間にはアガサの眼の前に来ていた。
「なぁ団長、魔法なんて使わずに拳で語ろうぜ。」
アガサの右頬に一発のストレートが入る。
アガサが空中に放り出されている間、アイルは上へ飛びアガサの頭をつかんでは思い切り地面へ突き落とした。
一瞬気を失いかけたがなんとか正気を維持し反撃を試みる。
「《 バニッ》・・・!」
詠唱を完結させる前に腹への打撃を喰らう。
(これは・・・ただの打撃じゃない。強化魔法で強化されて・・・)
アガサは白目をむき地面に倒れた。
「あ、アガサ・・・・」
倒れていたスレインがゆっくり目を開けるとかつての旧友がアガサにトドメを指す瞬間だった。
「おやすみだ、団長」
スレインはほふく前進でアガサのもとへ向かう。
アイルが明らかに知らない言語で詠唱しているのが聞こえる。
スレインはその光景に目を見張った。
詠唱が進むたびに魔法陣が何重にも複雑にも折り重なって、普段の魔法とはかけ離れた”なにか”がアガサに放たれようとする。
「が・・・あぁ!!」
スレインは腹に刻まれた斬撃に苦しみながらなんとか立ち上がり、止めに入る。
「《 ボルキャノン》!!」
大きな火の玉がアイル向けて放たれる。
が、障壁が張られているのかアイルの間合いに入った途端消滅してしまった。
「やめろ!アイルー!」
スレインの言葉は届かずアイルは詠唱を完了させ魔法陣が作動する。
途端に爆発が起きエドワール高等学院旧校舎がすべて吹き飛ぶ。
「何だ?!」
本校舎で避難体制を整えていた生徒や教師が旧校舎の方へ目をやる。
スレインはエイシア、エアリス、ロッドを抱え物陰に隠れた。
白煙が晴れてきてスレインが見たのは想像していた光景とは正反対の光景だった。
無数の剣がアイルの体を貫き空中で静止していた。
一方のアガサは体の周りに幾重にも魔法陣を重ねあの時の面影をまとっていた。
「《 死神》・・・」
スレインの脳裏には業火の中立ち尽くすアガサの姿が映し出されていた。
止められなかった。アイルが裏切るのをそしてアガサが堕ちるのを。
スレインは傷ついた体を必死に持ち上げ止めに入ろうと足に力を入れた。
でも体中の細胞が全力で拒否し動けなかった。
アガサはゆっくりアイルに近づきとどめを刺すと思われたが、剣を解除し傷跡を治癒していた。
「は・・・?」
アイルはポカンとしていた。
「アイル、俺に勝ちたかったんだろ?」
「そんなわけ・・」
「俺にはわかるよ、かつての相棒だろ?」
アガサとアイルは魔導騎士団現役時代、Top2としてともに任務をこなすことが多かった。
アイルは目に涙を浮かべた。
「でももう戻れない・・・」
「ごちゃごちゃうるさいな、とにかくまた相棒になってくれって言ってんだよ」
祖術錬成軍団において裏切りは死罪を意味する。
「考えといてやるよ・・・」
アガサはそれを聞いて「おう」とだけ答えた。
◇
(しかし、アガサとアイルの使っていた魔術は何なんだ・・)
厚い雲が晴れ光が差し込む中スレインだけはアイルとアガサに少しの不信感を抱いていた。
皆さんこんにちは!作者の天音ココアです!
長らくこの小説は更新しておらず私自身もう言いかなーと思っていたんですが、急に書きたくなったんので書きました!
皆さんにはこちらよりも百合小説の方を読んで頂きたいんですけどねw
こんなかんじでこの作品は僕の気まぐれで更新していくので何卒よろしくお願いします。