第六章 幼き頃の記憶 〜REMEMBER〜
「ここからは通行止めでーす」
黒ローブ姿の男がアガサの前に立った。
「なんだ····お前········この先にエアリスがいるんだ。どけ!」
アガサは叫んだ。心が苦しい。息をするのも一苦労だ。
「なに?お前ガキのくせに·········この紋章を見せれば俺は誰か分かるだろ」
男は裾をたくし上げ腕を見せた。そこには禍々しい魔法陣が描かれておりNo.5と刻印されていた。
「?!········祖術錬成軍団のNo.5·····《愚的》!」
祖術錬成軍団とは、《祖術》全魔術の始祖となる魔術を手に入れようとする非人道的行為を繰り返す軍団で、王国魔道騎士団とは長年対立する軍団だった。
《祖術》を手に入れればこの世界の全てを掌握することができ、それを狙うものは数多といる。
「そこまで······名を知られていたとは·····以後お見知り置きを」
(ここで、No.5が出てくるだと?!何故だ?)
No.5と言うと何千といる祖術錬成軍団の中でも上位に入る者だ。
「まぁいい·······ここで片付ける······王国魔道精鋭部隊団長······無者の名において····」
アガサの気迫は10歳とは思えぬものだった。
「やはり·····お前が······面白い」
男は右手をかざし········「《痺れ・悶えろ》」
黒色の電撃かアガサ目掛けて飛ぶ。
「ライト・エンシェント········《順応せ·我が雷鳴に》」
男の放った電撃をバチンと弾き·······
「黒魔法······無へと帰還せし理よ」
アガサの魔力を、相手は侮っていた。(たかが10歳のガキ········)そう思ったのが間違いだった。
「っ·······死神め!」
黒い閃光は男を貫き、鮮血が飛び散った。
その鮮血を浴びたアガサはまるで·········
「死神·········か」
返り血を拭くことなく、エアリスの元へ走った。
◇
「No.5がやられたか·········流石は無者」
(無者?誰のこと?)
エアリスはまだ知らなかったアガサの本当の姿を。
「アガサくんがここまで来るのも時間の問題だな、さっさと父親も来て欲しいところだが」
エアリスの顎をクイッと上げた。
エアリスはギュッと目をつぶった。
と、その時部屋のドアが思い切り破壊された。
「エアリス!」
飛び込んできたのはアドラスだった。
「お父さん··········」
エアリスは涙を流した。
「いやはや、貴方がアドラスさんですか····私は··」
男が自己紹介しようとしたが·······
「貴様の名などどうでもいい、即刻死罪だ」
アドラスが右手を構えた。
「全く·····人の自己紹介くらい聞いて欲しいのになー」
男がやれやれといった表情を浮かべると同時に。
「軍事用魔術·····《ライティング・ソード》」
アドラスは光の剣を空中に作り出した。
そして、その1本を男に放った。
「《邪魔》」
その一言で光の剣は輝きを失い地面に落ちた。
アドラスの顔からは血の気が引いていった。
「お前·········一体何者なんだ?」
「祖術錬成軍団······No.1《影星》この名をよーく刻んでおけ」
そして、アドラスに近づいたと思うと、アドラスは目を見開いた。
自分の胸に先程の剣が刺さっていたのだ。
「カハッ·······」
アドラスは前に倒れる。
その瞬間またしてもドアが勢いよく開かれた。
入ってきのはアガサだった。
アガサは目を見開いた。アガサの目に映ったのは、血を流し倒れるアドラス。縄で縛られたエアリス。
そして·············
「No.1!貴様!」
「全く君もしっかり名前で呼んでくれよ。僕の名は··········」
言い終わると同時にアガサは距離を詰めた。
誰の目にも捉えられずに。
(早い·····!)
「黒魔法········《成すべく・理・響け・雷電》」
(黒魔改長文詠唱だと?!)
地面を抉るように放たれた電撃は影星の元へ走る。
そして直撃した············と思われたが、影星は部下を100人自身の前にワープさせ、壁として使った。
今の攻撃で約半数が無惨にも散っていった。
「ちっ·······!!」
アガサは軍事用魔術《歪めて・死せ》を放ちながら近づく。
その顔は狂気じみた笑みを浮かべていた。
エアリスは怖くなった、影星に対する恐怖。
もしくはアガサに対する············
そして、ものの数秒で影星の元へ着き········
「死ね······そして、悔い改めろ地獄でな······」
黒魔改《常は・原理を成すべく・無へと帰還せよ》
を唱えた。
アガサ達は眩しい閃光に包まれた。
「アガサ····?!」
煙が晴れ、立ちすくむ2人の影を捉えた。
「アガサ·········?」
そこには右半身が抉られた影星と血を口、鼻、目から溢れ出すアガサがいた。
「お前は······いずれ殺す····何が王国魔道精鋭部隊だ·····人殺し···」
それだけ言い残すと影星はサッとエアリスを残し影の中へ消えていった。
◇
あの後、エアリスは一言もアガサと話そうとしなかった。
むしろ避け、関わろうとしなかった。
アガサは部屋で悩んだ。
「怖いよな·········こんなやつ·······」
アガサは手を見つめあの日人を殺した感覚を思い出す。
「···········!!」
枕を壁へ思い切り投げた。
アガサも怖かった。自分がいずれ、大切な人を殺めてしまうのではないかと。
この日を境にアガサは感情を失っていった。
何かがプツンと切れたように。
魔法歴367年某日のこと。
10歳の王国魔道精鋭部隊団長が100名以上を惨殺。
団長は辞意を表明とのこと。
さらに王国魔道騎士団団長メーベル・ミア・アドラスが何者かによって惨殺
ソリティア新聞 編集長 アガサ・ヒュール・ムジル
いや〜、シリアス展開なっちったかな?
今回で回想シーンは終わりだから、次からは第四章の続きに入るよ
ちなみに最後の編集長はアガサのお父さんです。
それではまたどこかで
2022年某日