受験勉強
智仁は大学受験を控えた高校三年生である。
部活動も終わり、本格的に勉強に集中する事にした。
しかし、周りの友人達は、全くそんな気配がない。
皆遊び呆けている。
智仁はそんな友人達の事を羨ましく思ったが、一緒に遊ぼうとは思わなかった。
友人達は智仁の考えを知っているのか、誰も誘いに来ない。
おかげで智仁は勉強に集中できた。
彼は部活に明け暮れた3ケ月の遅れを取り戻すため、睡眠時間を削って取り組んだ。
苦手科目の克服。
ケアレスミス防止のためのテクニック。
時間配分の仕方。
わからない問題は後回しにし、できるところから解いて行く。
とにかく集中した。
何が何でも志望大学に合格する。
遊ぶのはそれからでも遅くはない。
智仁を知っている人が今の彼を見たら、仰天するだろう。
そのくらい彼は変わった。
そして夏休み最後の日。
智仁は休み前に立てた計画をやり遂げ、充実していた。
「ふう」
彼は伸びをして天井を仰いだ。
「今日で夏休みも終わりか。早かったな」
彼は不意に背後に人の気配を感じて振り返った。
そこには見た事もない男が立っていた。
服装は上下黒のスーツで、黒のネクタイ。
葬式の帰りなのだろうか?
それとも今から行くところ?
「あの、どちら様ですか?」
智仁は探るような目で尋ねた。すると男は、
「もう満足したかね、智仁君?」
「え?」
自分の名前を知っている? 遠い親戚のおじさんだろうか?
「さあ、行こうか」
男の言葉で、周りの風景が一変した。闇の中、無数に浮かぶ蝋燭の火。
「うわあああああ!」
そこはたくさんの亡者が歩く黄泉への道だった。
「君は高校時代遊びに夢中になり、挙句ヤクザの世界に入り、抗争の中で銃弾に倒れ、、今意識不明状態だ」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ!」
智仁は絶叫した。男は冷静に続けた。
「もうすぐ君は命が尽きる。君は地獄に行かねばならない。私はその水先案内人だ」
「死神・・・」
智仁は男の正体を知り、息を呑んだ。
「人生は一度。君はその一度きりの人生を無駄に生きた。今からその報いを受ける事になる」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
智仁は必死に拒絶した。
「嫌だ、絶対に嫌だ! まだ死にたくない! 俺の人生は無駄な人生なんかじゃない!」
智仁は亡者達に囲まれ、その列に飲み込まれて行った。
「俺はまだ死にたくない!!」
智仁の叫び声が、虚しく響いた。黒スーツの男が小さく一礼し、
「ご愁傷様です」
と呟いた。