第2話 覚醒(セブンスコード)
光った。
輝いた。
"あの言葉"を口にした瞬間。
傍観者は輝いた。
そして、この街を包み込んだ。
少年は今、夜空と草原だけが広がっている場所で倒れている。
何故ここにいるのかはわからないが、あの傍観者と関係があるということはなんとなかわかる。
だが、なぜだろう。
身体の内側から何かが湧き上がってくるような感覚がするのは。
もしかして、これが─────
『さぁ、開戦だ』
突然少女の声が聞こえたかと思うと、上空から光の矢が一本額めがけて落ちてきた。
ギリギリ身体を横に回転させ、その矢を回避する。矢が地面に着地した瞬間、光となって消えていった。
『それが何か、わかるか?』
いつの間にか、その声の主は目の前に立っていた。
「………、…ッ……!」
声が出ない。声という者が、喉から出ようとしなかった。
『残念、時間切れ』
目の前の金髪碧眼の少女は、一つため息をついてそう言った。
そして上に向けた掌を、身体の前に持ってきて───
『正解は〜?』
その掌から黄金の光が発生した。
『"魔術"でした〜!』
魔術?
そんな、非現実的だ。
すると、少女はニコッと笑って、
『非現実的だ───って思ったでしょ?』
「(読まれてる…!)」
『そうだね、確かに非現実的だ。でもね、これを見たら流石に信じると思うよ?』
黄金の光を握りつぶし消滅させると、訳のわからないことを言いだした。
『ルーン=185-プラズマティック・インマヌエル』
バチッ、と。
青い火花がすぐ横で飛び散った。
バチチ、と。
目の前を青い光が通り過ぎていった。
ピカッ!!!!と。
辺り一面を青く輝く光が包み込んだ。
そしてそれの正体を掴む前に、腹部に鋭い痛みが走った。
「が……ッ!?」
痛みを感じた瞬間、その痛みの勢いによって後ろへ飛ばされた。
そして気づいた。
腹が熱い。
その熱さは、腹を焼かれているような熱さだった。
うつ伏せになった身体を少し起こして、熱源へと目を向けてみると、
「────ッ!!!!」
その熱源からは、青い火花がバチバチと音を出しながら弾けている様子が見て取れた。
やがてそれも収まってくるころ、あの少女がゆっくりと歩み寄ってきた。
『ああ、痛いなぁ、痛いよなぁ、あれ程の電撃を喰らったんだからなぁ…可哀想に、可哀想に…』
ふざけるな。
「ふざけんなクソ野郎が!!!!」
その言葉を言い放った瞬間、辺りの地面がひとりでに刳り取られ、空中へと浮遊しだした。
「うおおおおおおああああああああ!!!!!!」
目を少女の方へ向け、叫ぶ。
すると、刳り取られた地面が、少女に向かって放たれだした。
『ほう、念動力…か』
少女は動かなかった。
まるで、自殺願望があるかのように。
飛んでくる地面にも全く動じず、ただ待つだけ。
その時─────
ドンッ!!!!と、浮遊している地面が爆発した。
『ふふっ、やっぱり使い始めはこんなもんか』
と、目を開けた瞬間、
顔面を鈍器で殴られるような痛みが走った。
そして、思いっきり地に頭を叩きつけられた。
『が……ッ!!』
その鈍器は、硬く、痛く、そして決死の一撃のような重みもあった。
すると、倒れている少女の頭上で、何かがぶつかりながら転がっている音が聞こえた。
『な…んだ…?サイコキネシスで自分を投げ飛ばしたってことか…?』
少女は笑いだした。
『なるほど…考えたな、"落第生"』
「あ…ぐ…!」
痛む右拳を握り締め、無理矢理身体を起こした。
『お前みたいなやつは久しぶりだよ、しかも初めてでこれなんてな』
少女は感心したように立ち上がる。
「ああ…そうかよ…!」
そして、疲れ果てた身体を動かし、少女へと駆け出した。
『勇気があるな。そういうやつは嫌いじゃないぞ』
『────だが』
目の前で青い光が音を立てながら弾けた。
「────────ッ!!!!!!」
ガキン、と。
光が鋭い何かによって打ち消されるような音がした。
少女の表情が歪んだ。
『ああオイ、久しぶりだなクソ野郎』
目の前の女性は細い刀身の剣をくるくると回した。
「この世界に干渉できるまで少々時間が掛かったが、助けに来たぞ、少年」
その女性を一言で表すとなると、"王女"だった。
「ん?顔に殴られたような傷がついているが、どうしたんだ?"グレムリン"とでもある御方が落第生なんぞに一発貰うなんてな?」
また落第生って言われた。
『やっぱうるせぇなシャーロット。カーテナのおかげでここまでやってきたやつが何ほざいてんだ』
カーテナ。
それはイギリス王家に伝わる聖剣の名前のはず。
ならこのシャーロットという女性はイギリスの王女ってことか!?
「優秀な物を持ってて何が悪い」
王女は剣を構えて言った。
両者戦う気のようだ。
「少年、離れてろ」
数歩後退る。
凄い威圧感がこの場を支配し、心なしか空気が震えているような気がする。
数秒の静寂が続く。
と、その時────
鋭い剣先がグレムリンの金髪を掠める。
つまり、先に動いたのは王女だった。
それと同時にグレムリンは地面を蹴り上げ、杖らしき物を生成する。
すると、突然視界にノイズが走った。
気づけば、グレムリンは数十メートルの距離をとっていた。
そして、
『"神よ何故私を見捨てたのですか ルーン=142"』
魔術名のようなものを唱えた瞬間、少女の背後から青く輝く可視光線が数十本出現した。
虚空から出たその光線は、シャーロットに追尾するような動きを見せていた。
細い剣をくるっと回し、左に脇構えをする。
「"カーテナ=エリス"」
刀身が淡く青い燐光に包まれ、前後ろと剣を回すと、向かってくる光線に向かって剣を振りだした。
一度光線に剣を当てれば、粒子となって消滅する。
それほどの力を持った剣なのだということは安易に知ることができた。
シャーロットの背後に光線が向かって来ているのだが、そんなことには気を散らさず、しっかりと目の前にある光線を処理していく。
すると、シャーロットは口を開いた。
「"カーテナ=ロテーション"」
剣が導くように素早い回転斬りを光線にお見舞いした。
全ての光線が消滅し、シャーロットはグレムリンに問いかける。
「それだけか?」
グレムリンは口元を歪めて叫んだ。
『うるせぇなァ!!』
右かかとを地面に叩きつけた瞬間、地面がシャーロットに向かって割れ始めた。
そして、またノイズが走った。
すると、さっきまでは離れていた割れ目が、もうシャーロットの足元にまで来ていた。
「………ッ!!!」
割れ目から噴き出たのは、剣のような鋭さを持った風だった。
そのせいで、シャーロットの整った顔や腕に斬られたような傷がつくられた。
ノイズ。
グレムリンの長い杖がシャーロットの横腹を捉えたが、ギリギリ剣で止められる。
カッ!という甲高い音と共に、杖が弾かれた。
足でシャーロットの体制を崩させると、顔面に向かって杖を突き出す。
が、左脚で杖を蹴り飛ばされた。
強い力で蹴り飛ばされた筈なのだが、グレムリンは離そうとはせず、左脇構えのようになっている杖を思いっきり横斬りをした。
そして、初めて杖がシャーロットに当たった。
「痛ってぇ…なぁ!!!」
そして、シャーロットも横斬りを実行した。
今度は剣先が、頬を掠めていった。
『ぎぃッ…!!』
杖と剣がぶち当たり、甲高い音を出す。
レイピアのように剣先を突き出して攻撃するが、グレムリンは首を傾げて避けながら、杖を回転させシャーロットの顎に当てる。
剣を高く振り上げ、一度素早く持ち直し振り下げる。
風切り音を立てながら、剣はグレムリンの頭を捉えた。
「勝っ──────」
────ガチンッ!!と。
杖の中部と剣の刀身がぶつかりあった。
そして、またの静寂。
すると、二人同時に唱えた。
『"プルートーン"!!』
「"カーテナ=アイテール"!!」
両者アクロバティックな動きをしながら魔術を撃ち、剣を振る。
『"パイロ・クリムゾン"!!』
そう唱えると、シャーロットの目の前に赤い液体が放出される。
否。
それは液体などではなく、炎であった。
だが、そんなものをものともせず、剣で薙ぎ払って炎を消す。
そして案の定、炎を切り裂いた先では、グレムリンが魔術の準備していた。
だが、予想はできていても、身体は動かなかった。
『終わりだ』
そして、その魔術が発射された瞬間─────
ドン!!!、と。
刳り取られた地面が魔術とぶつかりあい、爆散した。
「!!!」
『ああクソッ…!』
シャーロットに助け舟を出した少年が、腕をぶらんとさせながら立っていた。
「はぁ…はぁ…させねぇぞ…!グレムリン」
グレムリンは杖で地を叩いた。
すると杖を中心に魔法陣が展開され、グレムリンは言った。
『一時休戦だクソ野郎。なぁに、また殺しに来るさ』
そう言うと、グレムリンは光に包まれた。
ああ、一つ言い忘れた。と、グレムリンが呟く。
『私との戦いは休戦だが、世界との戦いは開戦する────』
そう言い残して、光となって消えていった。
ここまで見ていただきありがとうございます。
よろしければ、感想、ブックマーク登録などお願いします。
戦闘シーン書くの難しかった…