第1話 覚醒前夜(セブンスビフォー)
夜空に星が星座を描きながら佇んでいる。
わかりやすいほどに輝いている星もあれば、それよりかは輝きが少ない星もある。
とにかく、色んな星が沢山あるんだ。
流れては消える流星群や、星を包み込んでいる天の川。
この星たちは、皆知っているのだろう。
これから始まる戦いのことを─────
雪。
雪が降っていた。
その雪は、少年の黒髪に着地し、消えていく。
雪にまみれた街を歩いていると、一人の少女が駆け足でこちらに向かってきているのが見えた。
蒼く長い髪を揺らしながら来たのは、佐倉雪。幼馴染だ。
「はーつゆきっ!」
そう言って、俺の背中に飛び込んできた。
「やめろ」
「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃねぇよ」
俺の名前は、南條初雪。
こいつによると、名前に同じ文字があるという理由だけで友達になろうと思ったらしい。
まったく、いい迷惑だ。
しばらく雪にまみれた道を歩いていると、突然ある事を思い出した。
「今日の夜、星が降ってくるらしい」
佐倉は不思議そうな顔をして、
「ほし?隕石とかじゃなくて?」
「星」
「プラネット?」
「プラネット」
ほえ〜、と佐倉が呟いた。
「降ってくる、というか、空を通過する」
「流れていくのが見えるってこと?」
初雪は頷いた。
すると、今度は佐倉も何かが思い浮かんだのか、あっ、と言ってこちらを向いた。
「そういえばさ、今日って『覚醒前夜』の日だよね」
なんだそれ。
「あれ、知らないの?ネットとかよく見てるから知ってると思ったんだけど…」
「えと、『覚醒前夜』っていうのはね、今から1000年ぐらい前に生きてた人に、『アーマティック=レイン』っていう人がいたんだけど、その人がある予言をしてて。『今から1000年後、私達の地球に覚醒が訪れる』っていう予言をしたみたいでね。その覚醒っていうのが訪れる一日前のことを覚醒前夜っていうようになったんだよ」
初めて知った。
まぁどうせ、根拠もなにもない都市伝説だろ。ノストラダムスの大予言とかも外れまくってるし。
「──お前、ほんとにそういうの好きだな」
そう言うと、佐倉はにっこりと笑って、
「大好きだよっ!」
「………」
その後も会話を続けながら、初雪達は学園へと到着した。
初雪達が通っている学園の名は、聖鳳学園。至って普通の高校だ。
廊下を二人で歩いていると、赤髪の少女と出くわした。
その少女は、こちらに気づいたらしい。ゆっくりとこちらへ歩み始めた。
そして初雪の前へ立ったと思うと、首からぶら下げているカメラを顔の前へ持ち上げ、無断で一枚写真を撮った。
「………」
そして、特に何も言うことなく、教室へ入っていった。
「………」
もう累計100枚以上は撮られたような気がする。
毎日毎日、写真を撮られているが、なかなか慣れることができない。いや、慣れるほうが可笑しいのだ。
取り敢えず、俺達も教室に入ろう。
そう思いながら、横開きのドアを勢いよく開けた。
下校のチャイムが鳴った。
初雪達はとくに部活には入っていないので、そのまま帰り始めた。
佐倉と校門を通ろうとした時、あたりが妙に騒ぎ立てていることに気づいた。
なんだろ。と佐倉は呟き、騒がれているところへ向かっていった。
そして、初雪は知らないふりをしてそのまま帰っていった。
だって、関わったら面倒くさそうなことが起こりそうだったから。
一人で下校するのは久しぶりだ。
…佐倉がいない帰り道は静かだな。と思っていたところに───
「───はーつゆっきさん!」
来た。
「おお」
おお、とだけ言うと、佐倉は眉間にしわを寄せて、
「何があったの──とか、遅かったね──とか、そんな事言っても誰も損はしないと思うな!」
「オソカッタネ」
猿が聞いてもわかるほどの棒読みでそう言った。
「むぅ…」
すると、佐倉は突然閃いたように目を丸くさせ、こちらを向いてこう言った。
「……突然だけど私ね、思っちゃったの。もしかしてさ!覚醒前夜と地球の近くを通る星って、何か関わってたりしないかな?!」
その可能性もないことはないだろうが、きっと偶然だろう。
そもそも覚醒が訪れる…って、非現実すぎだろ。
SF大好き人間かよ。
「偶然だ」
「わかんないよ!」
「多分偶然」
「明日になるまでわかんないんだから!」
ふーん、と初雪は相槌をうった。
そしていつの間にか、佐倉と別れる道へ来た。
「それじゃっ!初雪!またね!」
初雪が小さく手を振ると、佐倉は嬉しそうに帰っていった。
「セブンスコード…か」
初雪は小さく呟いた。
午後20時30分。
初雪は、空を流れる星を見に、ベランダへ顔を出した。
そして、そこまで時間をかけることなく見つけたのは、蒼い燐光に包まれた眩い光。
あれこそが、空を通過する星。
あれこそが、唯一世界を傍観しても良い存在。
その華麗さに、思わず目を奪われた。
それ以外のなにも、初雪の目には入ってこなかった。
それの姿が見えなくなるまで、初雪はずっと眺めていた。
傍観者を見て、初雪は静かに口を開いた。
「セブンス…コード…」
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