第3話 猿、鳥、犬
猿渡和真と犬飼美咲は犬猿の仲である。
だから、仲良く一緒にお昼ご飯を食べたりしない。
つまり、第三者に現状を見られると非常にマズいわけで。
「こ、この猿! バカ! アホ!」
「な、何だと犬! ブス! 間抜け!」
咄嗟の判断で罵り合いを始める猿渡と犬飼。
緊急事態ゆえ、低レベルな語彙力になっているのはさておき、大切なのは犬猿の仲をアピールすることだ。
引き続き、小学生でもまだマシであろう言葉をぶつけ合い、二人はちらりと横目で突然現れた第三者を確認する。
その姿を確認した上で、猿渡は思わず固まり、犬飼は怪訝な顔をした。
「こんにちは、後輩」
「た、小鳥遊先輩……? こ、こんにちは」
「……こんにちは」
小さな微笑を浮かべる女性生徒の名前は小鳥遊翼。
猿渡と犬飼と同じ中学出身であり、一つ学年が上の先輩にあたる。
そして、猿渡の元カノ……ということに、最近まではなっていたらしい。主に、犬飼の中での話だが。
「相変わらず、二人とも仲が良さそうで」
「「な、仲良くない!」」
「ほら、仲いいじゃん」
何やら見透かしたようにニヤリと笑う小鳥遊。
「それで? デートだっけ。もしかして、二人ようやく付き合い始めたの?」
「いやいやいやいや! そ、そっ、そんなことあるわけないじゃないですか!」
「そ、そうですよ! 私達、すっごく仲悪いんですから!」
「じゃあ、デートってなに?」
「そ、それは……」
「デ、デットオアアライブって言ってたんです!」
「そんなハリウッド映画みたいなセリフ、実際言うときあるのね」
何とか誤魔化そうと取り繕うも、小鳥遊は全く信じていない様子。
寧ろ、犬猿の仲ではなく男女の仲であることを知っているかのような反応だ。
「まあ、喧嘩をするにせよ、デートの話をするにしても、私は邪魔者だろうからお暇するよ」
「お暇って……何でこっち向かってくるんですか」
「ん? だって、私はこっちに用があるから」
そう言って、小鳥遊は猿渡と犬飼を横切り進む。
その先には扉が閉まった屋上しかないはずだが。
ガチャリ。
「……なんで、先輩が屋上の鍵を?」
「それは企業秘密ってことで。太陽と風が気持ちいいよ。昼休みはよくここに来るんだ」
二人も来る? と優しく誘ってくれるが、これは甘い罠だろう。
ここでホイホイついていけば、更に男女の仲を疑われる可能性がある。
このミステリアスでインテジェンスな先輩に二人は(勝手に)振り回され、一時犬猿の仲になってしまったことを忘れてはいけない。
言い方を変えれば、小鳥遊の存在があってこそ、二人はこうして男女の仲になれたわけである。
「こんな奴と一緒に屋上に何て行きたくありません!」
「こっちのセリフだ! 空気が不味くなある!」
結局、二人は必死に犬猿の仲をアピールする。
しかし、当の小鳥遊は長い髪を風になびかせ、不敵に笑うだけだった。
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