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ツノとナイスバディin束の間の休息

地獄や…


修行を始めて2ヶ月。

ハード過ぎる毎日。


第三魔王ナキ


見た目は猫耳ゴスロリ少女なのに…


自称魔界最強はどうやら嘘じゃないみたいだ。


組手でも一切歯が立たない。

最初のうちは一発くらっては気絶し、起こされ、また一発くらい気絶し…

その繰り返しだった。


ようやく気を失うことは無くなったが、それでも組手が終わる頃には、歩くことがやっとだ。


組手の前後に行う魔動力操作の練習もキツいのだ。体内の魔動力のエネルギーを高め、それを維持するのだが、これが一瞬でも乱れると、電気ショックみたいな衝撃が走る。


「魔動力のコントロールは戦いの基本だぞ。

これが出来れば攻撃力も上がるし、ダメージ回避も出来るようになるからの。」


さらっと言ってくれるが、そもそも魔動力なんてものは人間には元々ないものだ。コントロールなんて簡単に出来るものではない。


それでも最近わかってきた。魔動力コントロールと呼吸は、どうやら関係しているらしい。コントロールが乱れる時は呼吸も浅くなっている。鼻から思い切り空気を吸い込んで、身体の中に溜め、ゆっくり細く口から吐く。こうすることで、身体の中をめぐる魔動力の流れを掴むことが出来る。気がする…


ただし!止まっている時限定…

組手で動く時など、中々意識する余裕が無い。


先は長いなー…なんて思いつつも、初日に比べたら応対力が付いてきているのも確か。

慌てずやっていこう!切り替えの早さは俺の天性の素質だろう。


魔動力コントロール、組手。それが終わったらひとっ風呂浴びて、ナキのご飯を作る。


その後はナキの予定(思い付き)次第だ。


魔界に輪廻したばかりの頃は、ナキの行く先々、どこにでも連れていかれた。


基本的にナキは空を飛んで移動する。俺はもちろん飛べるわけもない。ナキの使い魔のモンちゃんの背中に乗っての移動となる。


モンちゃんはモフモフの毛皮を持った、モモンガの様な使い魔だ。多くの使い魔がいるみたいだが、俺はモンちゃんにしか会ったことがない。


あらかたナキのお気に入りスポットや、友達を紹介された後は、ナキに誘われない限り、俺一人でそこに行くことはない。


俺が行くのは、主にご飯に必要な食材がある場所。卵農家のベイさん。ダークエルフのハチミツ屋のリーゼさん。他にも数件あるが、大抵は限られた場所に行けば事足りる。


最初はどこに行くにもモンちゃんに乗って行ってたが、今は近場は走って行くことにしている。これも修行の一環だ。


ナキが好むご飯は、ほとんどが俺の居酒屋料理だ。味覚に関してはさほど大人ではない。


むしろお子ちゃま。

お子さまランチみたいなものが口に合うらしい。


ナキが俺の過去のビジョンを見たときから、前世の最期でも思い浮かべた、最強名物若鶏唐揚げがどうしても気になっていたらしい。


よほど美味しかったのだろう。

唐揚げに関しては毎回作ることが暗黙のルールである。


輪廻しても、毎日居酒屋の仕込みと同じことをしている。何で生まれ変わってまで…とも思うが、これがあったから、ナキともより良い関係を築けたのかもしれない。そう考えると、俺の中では最も大切なスキルだとも言える。


ご飯を食べさせ、ナキが一人で出掛ければ、ナキの夕飯までは俺のプライベートタイムだ。


本を読むもよし(城内の図書室には大量の本がある!)


城内を散策するもよし(広すぎて未だに入ったことのない部屋も多々。)


食材の調達がてら農家さんと話をすることもある。ここで次に使いたい食材を話しておくと、用意してくれる。ナキの料理を作るためのものなので、もちろん無償で提供してくれる。実にありがたい。


今日は疲労が溜まっていたので、もう一度浴場でゆっくり湯船に浸かって、自分の部屋で少し寝ようかと思っていた。


俺の部屋はナキの部屋の隣にある。

ベッドと机があるくらいの簡素な部屋だが、かなり寝やすいベッドなので、俺は気に入っている。


浴場は大きく、湯船もデカい。

一人で入るには充分に持て余す。


過去世で言うところの温泉のようだ。


「うー、極楽極楽。」


ちょっとはしゃげばプールのように泳げる広さ。贅沢にも一人、真ん中辺りでプカプカ浮かびながら、この激動の数ヶ月を思い浮かべてみる。


激動。そう、激動としか言いようがない。


「輪廻かー…」


「考えたこともなかったな…」


居酒屋での毎日。アルバイトと一緒に、料理と酒を武器に、お客さんを相手にする毎日。


何だかものすごく遠い昔のように感じる。


「あいつらみんな元気にしてるのかな。」


ブツブツと独り言ちながら、浴場の真ん中で上体を起こして座る。


元々が楽天的なのか。今の生活に馴染んでいる自分がいる。元来物事を深く考えないし、適応能力もある方だと思う。


それでもこんなに簡単に違和感なくこの世界で暮らしている自分のことを、もしかしたら冷徹な人間なのかも知れないと、時々思う。


まあ思うだけで、落ち込むことも自分を責めることもないのだが。


あるいは頭のネジがどこか抜けてるのかも知れない。


「頭のネジかー」


ふと頭に手をやる。


ん??

なんだこれ??


過去での最期に、怪我をしたところに、小さくポコンと何かがある。


なんだこれ??


再び触ってみるが間違いなく何かが膨らんでいる。


それも、少し先が尖っている。

1センチくらいだろうか??



まるでツノのような…


え?

ツノ??

ツノ生えた??


立ち上がり、確認しようと洗い場の鏡に向かおうとしたその時、


ガラガラッ


浴場の扉の開く音。


え??


「おぉ、ジョーイ。なんだ、風呂に入っておったのか!」


ナキ!!


「うわぁ」


慌てて湯船にまた座り込む。


「ナ、ナキ!何でここに!」


「何でここにって。風呂に入りに来たに決まっておるのだ。」


「アホなことを聞くの、ジョーイは。」


えぇっ?アホ??


そりゃまあ確かに風呂場にいる人に対して、考えてみればアホな質問ではあるが、俺の言いたいことはそう言うことではない。


「何で普通に入ってき…」

「うわっ!!」


湯けむりの中でもハッキリ分かる。


ナキは明らかに何も身につけていない。


「ワタシも入るぞ!」


ナキはスタスタと湯船に近づいてくる。


「ちょ、おまえ、タオルくらい巻けよ!」


あまりにも大胆。あまりにも無警戒。


そして…

普段のゴスロリ衣装から想像出来ないくらい…


胸が大きい…


何考えてんだ俺は!


エビのようにバックキックして、湯船の奥へと後退する。


「何でタオルを巻くのだ?風呂に入るのだ。裸に決まっておるだろう。」


正論。正論すぎる正論。


でもなー、そういうことじゃないんだよな…


「あー!」


突然ナキが大声を上げる。


「な、なに??」


「ムフフ。」


「なんだよ!」


「もしかしてジョーイ、ワタシが裸でドキドキしてるのか??」


相手は1000年以上生きている魔王。


でもでも!見た目は少女なんですよ!


かつイレギュラーのナイスバディ…


そりゃあたふたするでしょ!


ドキドキするでしょ!


「そ、そりゃ、そんな格好してたら…」


ザバーン


「うわっ!」


ナキが湯船に飛び込み、しこたま顔に、お湯飛沫が飛んでくる。


子ども…

やっぱ子どもだな…


少しでもドキドキした俺がバカだったのかも知れない。


そう思いながら顔を拭い目を開けると


「近っ!!!」


すぐ目の前にニヤニヤしながら立ちはだかるナキ。


即座に横を向く。


なんだよ、なんなんだよ。

何が起こってるんだ??

必死に思考をフル回転させるが、当然正常に回るわけもない。


「ムフフ。ジョーイ。そんなに顔を背けんでも良いのだぞ」


そんなこと言われても、マジマジと見ることなんて出来ないだろ。


チャポン。


どうやら湯船に浸かったようだな。


ホッとして少し視線をナキの方に戻す。


「ジョーイはウブだの」


さすがというべきか。1000年以上生きている大人の余裕なのか。


湯船に浸かったとは言え、ナニかを隠そうともしない。


「こっちに来てから、ジョーイは頑張っておるからの。」


ナキがおもむろに俺の方に手を伸ばす。


修行で打撃を受けている習慣か、思わず身を構える。


「ヨシヨシ」


伸ばされた手は俺の頭の上におかれた。


イイコイイコされてる!!


なにこれ??なんなの??


「人間はこうやって頭をヨシヨシされると嬉しいのであろう??」


どこでそんなことを…


「前にジュラスがの…」


ジュラス。昔の人間王の名前だ。


「ジュラスがの、奥さんにヨシヨシしてもらってたのだ。」


「ワタシに見られて慌てふためいておったがの!」


そりゃそうでしょうよ。


恐らく誰にも見られたくないであろう、極秘のプライベートだったろうに。


「ヨシヨシ」


ニコニコしながら、ナキが頭を撫でてくる。


ヤバい。どうしたら良いのでしょうか?

このシチュエーション…


「ジョーイ、おぬし…」


不意にナキが真顔になり手を止める。


「な、なに??」


チラチラ胸元に目が行っていることに気づかれたか。俺は慌ててナキの顔に視線を戻す。


「これはいつから生えておるのだ??」


「え??これ??」


「このツノじゃ!」


ツノのことか…

ホッと胸をなで下ろすのもつかの間…


「あ、そうだ!ツノ!」


自分の頭のツノ問題を思い出す。


「さっき気づいたんだよね」


頭のツノよりも、衝撃的なことが起きていたからね。


「むぅ。これは魔人のツノだのう。」


「魔人のツノ!?」


なんだか大それた言葉が出て来たぞ。


「魔人のツノはな、元来魔界に住む生き物の中でも、高い知能を持った魔人族にしか生えないものなのだ。」


ほほう。魔人族にしかね。


ん??

魔人??


「ジョーイはワタシの魔動力を体内に取り込んでおるからの。なんらかの反応が起きているのかもしれないの。」


「それってさー」


俺は頭の上に手を置かれたまま、ナキに訊ねる。


「俺は魔人になりつつあるってこと??それって大丈夫なのかな??」


少し間を置いて、ナキは口を開いた。


「…わからん!」


…?


「わからんって…」


「わからんもんはわからんのだ。何せこんなことは今までに無かったからの。」


いつもと違う真剣な顔で言った後、ナキはニコッと笑い、さらに続けた。


「心配するな!何があっても、ワタシがジョーイを助けてやるから!な!」


そう言って、ナキは俺に、本日3回目のヨシヨシを繰り出した。


正直言って、自分が魔人になったとしても、この世界に生きる以上、なんてことない気もする。なったらなったで、それから考えれば良いとも思う。


それよりも、今まで以上に近くにいるナキに、俺はなんとも言い表せない気持ちを抱き始めている。


ニコニコしながら、俺の頭を撫でるナキを見て、胸が高鳴っている。


湯船に長いこと使っているせいで、のぼせたのかも知れないな。


うん、そうだ。きっとそうなんだ。


それにしても束の間の休息も壮絶。


魔界だからな。うん。








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