思いがけぬ展開
それは唐突だった。
「ジョーイ!今日から鍛えるぞ!」
今日は黒のパーカーではなく、真っ赤なマントを羽織ったナキが、唐突に言い出した。
ちなみに、マントにはフードが付いていて、そのフードには猫耳が付いている。
猫耳好きだな、そんな俺の思考は、唐突なナキの言葉で終了した。
「え?鍛える??」
いきなりすぎてよくわからん。
「ジョーイも魔界に住んでいる以上、戦う力は持っていた方が良いのだ!」
「戦う??戦うことなんてあるの??」
正直めんどくさい。
「滅多にないのう。」
ないんかい!じゃあ辞めとくわ!と言おうとした俺に向かって、ナキは続ける。
「時々な、ワタシのお気に入りの場所に、アボロギスのヤツの手下がちょっかい出しにくるのだ。」
「ワタシの友達にはな、戦う力を持ってないやつもおる。戦うのはそれを守る時だの。」
ん??俺が守るってこと??アボロギスの配下から??配下って魔物でしょ??
ムリムリムリ!!
「ムリムリムリ!俺に戦えるわけないじゃん!」
思わず心の中の声が言葉に出る。
「ムリじゃないぞ!」
ナキはムフーっと、鼻から息を吹き出し、得意げな顔をしている。
あぁ…これは絶対やるぞ!って時の顔だ…
この数ヶ月の間で、何回かこの顔を見た。この時のナキは絶対に譲らない。譲らないし、これ以上ゴネると不機嫌になる…
従うしかないのか…
えー…でもなー…
ああでもないこうでもないと考える俺をよそに、ナキは話し続ける。
「ジョーイはな、魔界に来てから、すぐに料理が出来たであろう??」
料理??それと戦える理由に何の関係が??
「普通はな、輪廻した者は、死ぬ前のスキルは一切無くしているものなのだ」
「料理がすぐに出来た。これはかなりレアなことなのだ。」
よくわからないが、例えレアケースだったとしても、料理じゃん??戦えないじゃん??
そんな俺の思考を読んだのか、ナキはこう言った。
「つまりな、料理だけじゃなくて、他にも死ぬ前に身につけたスキルを持っているということなのだ。」
「ジョーイは料理以外に何をしてきた??」
え?何をしてきた??戦い的なこと??
「えーと、学生の時は空手。そのあとは休みの日にたまにボクシングジムに行ってたけど…」
小さな頃から空手をやっていたせいか、たしかに格闘技が好きで、大人になってからも、時々ボクシングジムには行っていた。
だけどワークアウト感覚で、戦う目的ではなかった。
「ムフフ、そうであろう??」
得意げな顔をしたナキは、更に得意げな顔をする。
「つまりな、ジョーイはな、バトルスキルを身につけておるのだ。大したレベルではないがの。鍛えればもっと強くなれるのだ!」
んー…仮にそうだとしてもだ。魔物たちと接近戦するの??やつら魔法とかつかうんじゃなくって??やっぱどう考えてもなー。
ムリムリムリ!!むりだよー。
「それにな…」
どうにも気乗りしない表情の俺にナキは言う。
「最初にジョーイの頭の怪我を治したことがあったであろう??」
確かにあった。どうしようもない鈍痛を、ナキは治してくれたのだった。
「あの時にな、痛みを消すために、ワタシの魔動力を、ジョーイの中に入れたのだ。」
え?マジで?魔動力って言葉は初めて聞いたけど、やっぱり魔法みたいなものだったのか。
「普通人間はな、魔動力を体に取り込むことは出来ないのだ。」
ん?普通??人間は???
どういうこと??
「魔物の生命エネルギーは、人間のそれとは種類が違う。普通であれば相容れず、反発を起こすのだ。」
え?再びのどういうこと?反発??
「反発起こしたらどうなるの?」
まさかとは思いつつ、少しドキドキしながら聞いてみる。
「爆発するな!」
「爆発???」
このお方は、何でニコニコしてるんだ?
爆発??死んじゃうってこと??
「え?じゃあ俺は下手したら爆発してたかもしれないってこと??」
「爆発しないと思ったのだ!」
「え?何で??」
「ワタシの勘がそう言ったのだ」
ガビーン…あなたの勘て。ねえ??下手したら死んでたんだよね??…えーっ??
「ワタシの勘は当たるのだ!第三魔王の勘はすごいのだぞ!」
またしてもそんな得意げに…
何だろう。んー。まあ。不思議なことにナキが言うと腹立たないんだよなー。
「じゃあ俺はその勘の通り爆発しなかったと…」
「そういうことだの!」
そんなにニコニコして…
「だからの、ジョーイの中にはワタシの魔動力がそのまま残っておるのだ。これはすごいことなのだぞ??魔王様のエネルギーが入った人間など、他にはいないぞ??」
「それにな」
突っ込む間も与えられず、話は続いていく。
「ジョーイはいつもワタシとおるだろう?」
確かに。輪廻というやつをしてから、毎日ナキと一緒にいる。
「強い魔動力を持ったものの側にいるだけで、体内にある魔動力はどんどん強くなるのだ。」
なるほど。確かにここ最近は体の調子も良いし、動きもいい気がする。
「ジョーイの中のワタシの魔動力は、どんどん強くなって、ジョーイの生命エネルギーと混ざり合っておるのだ。」
「魔王のエネルギーを持つ人間なんて、なかなかおらぬぞ!」
良かったな!そう言わんばかりの顔をしたナキを見て、不思議と受け入れ完了な俺がいた。
・第三魔王のエネルギーを持った人間な俺。
・その俺がこれから戦うための特訓を受けること。
「わかったよ、ナキ。」
抗っても仕方ない。この新世界において、俺は完全なるビギナーだ。この流れに身を任せるとしよう。
顔を真っ赤にしてニコニコするナキ。それを見て、俺も何だか少し嬉しい気がしていた。
もしかしたら、これが新しい俺の運命なのかもしれないな。ナキの大事な友達を守る力を身につけるのも良いかもしれない。
「ジョーイが戦えるようになったら、ワタシはもっと遊べるな!」
ん??んん??今なんと??
「遊べる…??」
「そうなのだ!アボロギスの部下は弱いからなんてことないのだがのう。ちょこちょこ現れるからめんどくさいのだ!」
……えぇー。
「弱いと言ってもな、やっつける時間は少しはかかるのだ。それが時々めんどくさいであろう??な??」
な??って…。
んー、確かにめんどくさいよね。わかるよ。めんどくさいのは俺も嫌い。でもね、ナキさん、正直に言い過ぎじゃあないでしょうか…
「がんばろうな!ジョーイ!」
これで俺の修行は確定した。
もう後戻り出来ない。百歩、いや千歩譲ってそれはいい。
それはいいとして…
さっきの運命だなんちゃらのくだり、あれは一体なんだったのでしょうか!神さま!
恥ずかしいから、全部カットでお願いします!!神さま!お願いです!
神さま!!