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第12話 マキととりまき

 意外に思われるかもしれないが、俺はモテない。

 モテたことがない。

 超絶スマートで、ナチュラルに身体からシトラスの香りが漂う美少年であるがゆえに、逆に近寄りがたいのかも__

 ……何?

 語り手の立場を利用して、間違った情報を植え付けるな、だと?

 お兄ちゃんはゴリゴリのゴリラだ、だと?

 全く誰だ、そんな可愛いことを言うキューティーな妹は……

 とにかく。

 俺には浮いた話の一つもなければ、女子と付き合ったこともない。そんな女性慣れしていない俺だからこそ今、大変参っているのである。

 なぜかって?


 それは今__とある女子生徒から熱烈な視線を浴びているからである。


「……」

 朝__登校時間。

 1時間目にあると噂された小テストの予習のために(付け焼き刃なんて批判は無視だ)、いつもより早めに家を出て、いつもより早めに学校に到着すると__校門の近くでヤンキー座りをしていた女子がおもむろに近寄り、俺の右側に張り付いてきた。睨みを利かせて放つ尋常じゃない雰囲気に、話しかける勇気も出ない。俺はビビリなのだ。

 彼女は長身だった。

 ゴリラと揶揄される俺が息遣いを感じるほど背が高く、その顔はあわや密着といった近さ。昇降口まで歩く道がずいぶん長く感じられる。

 その女子生徒が鋭い三白眼から放つ視線はそりゃあもう痛いほど熱烈で、ともすると心臓を貫かれると思ってしまうほどなのだけど、それはきっと『あなたのハートを貫いちゃうぞ♡』 的な意味合いだと思う。明確な根拠はないけど多分そう。

「……」

  その女子生徒は目だけではなく、細く形取られた眉も、シャープなあごも、ショートヘアーの髪質も、まるで俺を八つ裂きにする刃物のように鋭いけれど、きっと『あなたを刻んでいただきます♡』的な意味合いだと思う。具材がゴツゴツしてると食べにくいから、細かく刻むのは自然な流れだぜ。

「……」

 よく見たら、何かを言いたげに覗かせている歯もギザギザと鋭い。けだるそうに前に垂らす腕を見ると、両手の指にはそれぞれ三つずつゴツめのシルバーリングが装着されていた。噛まれたり殴らりしたら痛そう。『男と女、まずは拳の語り合い♡』というタイプの子なのかもしれない。

「……」


 などと、都合のいい解釈を広げるのはこの辺りにしておいて__ともかく。


 女性慣れしていない俺にこの状況はなかなかの気まずさがある。俺のことを貫いて刻んで拳で語り合いたいぐらい愛しく思ってもらうのは大変ありがたいのだが、そろそろ離れてもらわないと、方々で色んな誤解を生みかねない。陰ながら俺を好意の眼差しで見つめる、まだ見ぬ純情可憐なステキオトメが焼きもちを妬いて__

 ……何?

 アンタに恋するメスゴリラはこの学校にはいない、だと? ゴリラなんだからとっとと動物園に帰って客寄せでもしときなさい、だと?

 全く誰だ、そんな刺々しいことを言うゲスギャルこなっちゃんは…… どいつもこいつも俺をゴリラ扱いしないでくれ。ゴリラを下に見ているわけではあるまいが、人間として生まれたからには人間として扱われたいと願うことは至極当然の__


「にし……」


 などと、俺の妄想の中で、独白に好き勝手ヤジを飛ばす同じチームの二遊間とじゃれていると、ずっと鋭い視線を送っていた右側の彼女が何かを発した。

 にし?

「にし……」

 太陽が沈む方角をしきりに呟いて、彼女はなおも俺の右側に張り付く。気難しそうに鋭い眉をひそめ、またしても「にし……」と漏らす。

「にし……?」

 彼女は計3回そう呟いたが、結局は何かを諦めたように「はァーっ」と嘆息し、言うのだった。

「駄目だ。どうしても思いだせネーや。おいテメー、名前なんダっけ?」


 にし__西。


 西岐。


 どうやら彼女__先日の練習試合にて6番ファーストを張っていた1年E組女子出席番号3番の猿谷紀伊さるたに きいは、俺の名字を思い出そうとしていたらしかった。

「……西岐だ」

 名前も知られていなかったことで、どうやら人生初の春が訪れることはないようだと悟って、俺は諦めて自分の名前を公表する。しかし猿谷はひそめた眉のまま、「はァ?」と言い捨てた。

「西、なんとカだろ? サイキって、なンだよ」

 野生味を感じさせる独特なイントネーションで疑問を呈する猿谷。『なんだこの話の通じねえ奴』みたいな顔だ。

「……にし、は訓読みだ。さい、は音読み」

「クン?オン?」

 なおも不可解そうな顔をやめないギザギザ野性味ガールに、一つの可能性が浮上する。

 こいつ、もしや__


「西…… にし、って漢字は、『さい』とも読むぞ」


「!!!」


 ビンゴだった。

 こいつ__漢字が読めてない。

 中間試験の総合点でクラス20人中18位という不甲斐ない成績(自覚はある)を取り、100人いる同学年の中の順位を公表するのがはばかられるほど哀れな俺だが__

 しかし、しかしだ。

「て、テメー…… センセイみてーダな」

 そんな俺さえも崇拝の対象になってしまうぐらい、猿谷はアホの子だった。

 雷に打たれたみたいな顔してやがる。

 鴬谷のように学年トップクラスの優等生と最底辺の俺や猿谷のような奴が同じ学校なのも、この学校が完全スカウト制である辺りに理由があることだろう。

「すげェ…… もっと、色々教えテくれよ」

『お前程度の頭脳で教えられることなどあるのかHAHAHAー!』とばかりに脳内でゲスギャル&マイシスターが仲良く大笑いした気がするがノーセンキューだ。この尊敬の眼差しを裏切ることなど俺には出来ない。

 森羅万象を網羅出来る人間などいないのだから、自分の得意分野を磨けば誰だって先生になれる可能性はあるのだ。もちろん、俺にだって。

「何でも聞いてくれ。誰かに教えることで自分の中でも復習になってるから」

 俺にはしばらく縁がないと思っていた鴬谷からの受け売りは、案外早く使い時がやってきた。話数で例えるなら、5話ぶりぐらいの感覚だ。

「カッケー…… じゃ、じゃあ、教えてくレ」

 憧れの存在を前にもじもじと身をよじる子どものようないじらしさを感じ、自然と頬が緩む。

 一体、何を聞かれるのかな。


「オマエ、何のために生きてンだ?」


 緩んだ表情のまま、俺の顔は凍り付いた。

 六月なのに。

 えーっと…… もしかして、『何のために生きてるか分からねえようなふわふわとしたつまらないお前に、生きる価値はねえ』的なことを暗に言われたのか?

「なンだよ?黙るナよ」

 しかし彼女の瞳はそんな悪意に満ちたものではなく、どちらかというと純粋に分からないことを聞きたがっている子供のような眼差しであった。悪意担当は晴沢だけで十分だ。いや、たくさんなんだけども。


 しかし、何のために生きているのか__か。


 ニュアンスとしては、『何に幸せを感じ、何を心の拠り所にして生きているのか?』という質問だろうか。俺を無為に傷つける旨の質問ではなかったことに少し安堵する。

 しかし、いざそう聞かれても難しい。

 いや、俺の基本理念はすこやかにのびのびと毎日を過ごすことだけど、その程度の欲求は大半の人間が抱えていることだろう。

 誰もが安らぎを求めているのだ。

 そんな答えを言ったところで、この生徒は真に納得しないだろう。


 真実はきっと途方もなく__人は、長い時間をかけて、それを見出すのではないだろうか。


 だから今は、答えることが出来ない。

「……ちょっと、一言では言えないな」

「はァ?わかンねーのかよ。テメー、センセイじゃネーな。だまさレた」

 くるりと返された手のひらの風圧で吹き飛びそうだった。

 酷い言われよう。

 生きる理由を真に理解してる人なんて大人でもそうはいないと思うぞと弁解しても聞いてもらえないんだろうなと、汚い物でも見るような怪訝な鋭い目から容易に感じ取ることが出来る。さっき俺が『西』の読み方を教え、敬意を払っていたことさえもう忘れてそう。

「……それはそうと、俺に何か用でもあるのか?」

 名前が思い出せなかったという理由だけで登校直後に至近距離で絡まれ、無闇に傷付けられただけというのも報われない。

 俺が可哀想である……

「おー、そうだッた。忘れるところだったゼ」

 猿谷は目を見開き、わざとらしく自分の手のひらに拳を打ち付け、得心の表情を作った。闇雲に傷付いただけの結果にならず安堵する。

「何だ?」

「言いテーことがあっタんだ」

 愛の告白__では、ないだろうな。

「んンっ」と、猿谷は一つ咳払いをした。


「桃姉をなめンなよ」


 桃姉が本気を出セば、テメーらなンて八つ裂きだ、と猿谷は吐き捨て去った。

 ……あいつ、『八つ裂き』なんて物騒な言葉は知ってるんだなあ。


 ◯


 物語の世界ほど、この世は摩訶不思議なスペクタクルに溢れてはいない。

 現実は恐ろしいほど現実的で、自分から価値を見出そうとしない限りは、何もない平凡な毎日が続くだけである。


 だが__たまに。


 本当にたまにだが、普通に生活していて、凄いことが起きることもある。

 とは言っても別に、ミステリー小説のような血みどろの展開に巻き込まれたり、前世で愛の契りを交わした婚約者と現世で再会したり、という規模のことは早々起こらない。

 もっと小規模。

 CMソングを口ずさみながらテレビを点けたら、ちょうどそのCMが流れていたり、町中で偶然有名人と出逢ったり__そんな、雑談のネタになるような出来事だ。今回は、先ほどの有名人の例が近いのかもしれない。

 滅多にお目にかからない物がそこにはあった。

 そこに落ちていた。

 曲がり角の手前。

「……おあつらえむきだな」


 バナナ__の、皮。


 具体的にどの年代を指すかは曖昧な『一昔前』に使い古されたであろうそのボケに、俺は15年の生涯で初めて出会う。

 頭の中だけでなく現実でも厄介ないじられ方を晴沢にされ、ゲスギャル成分はちょっとお腹いっぱいとばかりに所在無く昼休みの校内をぶらついていたからこそ、俺とバナナの皮の出会いが果たされたわけだ。晴沢に感謝はしないけど。

 仲間の一人でもこの場にいれば「オイオイオイこんなの誰が引っかかるんだよ」とでも前振りしながら予定調和に身を投じることもやぶさかではなかったかもしれないが、そこにいたのは俺一人。

 滑って転んでも一人。

 無意味に恥ずかしいだけである。

 しかし、無視というのも無粋だと思ったので、俺はしゃがみ込んで、バナナの皮に話しかけてみることにした。

「おう、今日も黄色いな。いいことでもあったか?」

 バナナの皮は何も答えない。

 ただの屍のようだった。

「バナナと言ったら黄色。黄色と言ったらバナナ、だな」

 バナナの皮は何も繋げない。

 マジカルバナナはお好きでないようだった。

「どうした、黙り込んで。悩み事か?何でも言ってくれよ。俺、お前のことは好きだぞ。美味いし」

 バナナの皮は何も話しちゃくれない。

 俺はバナナに、友達とは思われていないようだった。

 その事実が、俺をへこませる。


 俺はこんなにも__バナナのことを尊敬しているのに。


 ……何をやっているのだろう、俺は。

 暇とはいえ、バナナの皮に話しかけることなどなかった。

 何も生まれなかった。極めて非生産的だ。

 俺の口からは溜息が漏れ、答えなど微塵も期待していない独り言が、誰にともなく飛び出した。

「全く、誰だ?こんなことするのは……」


「それは何を隠そう、この縫ちゃんなのですね!」


 1年E組女子出席番号10番の湾野縫わんの ぬいが、死角となって見えなかった曲がり角から勢いよく飛び出した。

 答えなど微塵も期待していなかったけど答えてくれちゃった。

「……湾野。お前がやったのか」

「……はっ!な、なぜそれが分かったのですね!?」

 先日の練習試合で7番センターを張っていた彼女は、ぱっちりとしたおめめを見開き、小柄な身体をフルに使ったオーバーリアクションを取る。たじろぐ動作に、ボリュームのある内巻きのミディアムヘアーが躍動した。

「ま、まさかこのIQ200オーバーであるところの縫ちゃんを出し抜くとは!うぬぬ、なかなかやるのですね、ゴリラのくせに!」

 ほぼ初対面の奴にまでゴリラ呼ばわりされる俺だった。

「……IQ200もあるのか、お前」

 それだけあれば間違いなく天才児である。世界を動かすレベルだ。そんな天才はバナナの皮で実験でもしようとしていたのだろうか。『野生のゴリラがバナナの皮を見つけた時どのような反応をするか』的な。だーれが野生のゴリラじゃ。

「嘘なのですね」

「嘘かよ」

 嘘つきのわりにネタばらしの早い奴だった。

「200オーバーなのは偏差値の方だったのですね」

「知能指数だと3ぐらいの発言だな……」

 IQなんて測ったこともないけれど、俺はいくつぐらいなんだろう。こいつの倍の6ぐらいだろうか。

「やれやれ、これだから野生動物は嘆かわしいのです。すーぱーうるとらジーニアスであるところの縫ちゃんが話を合わせてやらないと会話も出来ないのですね」

 意味もなく得意気な湾野の顔を見ていると、こいつの相手をしてやるのも悪くないと思えてきた。親戚のちっちゃい子どもと遊ぶ時に役立ちそう。

「そいつはすごい。いや、すーぱーうるとらじゃ足りなくないか?はいぱーやまきしまむ辺りも追加していいと思うぞ。それぐらいジーニアスだ」

「ぬひひ、当然なのですね!この縫ちゃん、何を隠そう地元では神童と呼ばれていたのですね!」

「なに?それはすごいな」

 すーぱーうるとらはいぱーまきしまむジーニアス神童縫ちゃん。

 語呂悪し。

 野菜増し増しニンニク油多め、トールサイズでホットのキャラメルマキアートキャラメルソース多め、みたいなものだろうか。

「嘘なのですね」

「嘘かよ」

 しかし嘘だった。

 舌の根を乾かすつもりはないらしい。

「本当は寸胴と呼ばれていたのですね……」

「女の子のコンプレックスには俺はちょっと口出し出来ない」

 彼女は虚ろな瞳で自分の身体を見下ろす。

 そこはちょっと、うん。

 ツッコミを入れにくいぜ。

「……ところで、俺に何か用でもあるのか?まさか本当に、バナナの皮でからかいに来ただけか?」

 こいつのテキトー加減からそれもありそうだと思ったが、湾野は「ちっちっち」と指を横に振る。

「縫ちゃんには真の目的__言っておくべきことがあるのですね!バナナの皮は、お遊びに過ぎないのです」

 こほん、と前置きをして、自称天才児は言った。


「桃姉を見くびらないことなのですね」


 桃姉が本気を出せば、ゴリラなんて一網打尽なのですね!という台詞を乱暴に投げつけて、湾野はこの場を後にした。

 ゴリラは巻き込まないでやってくれ……


 ◯


「やほー、西岐。疲れてるねー。飴ちゃんいかが?」

 教室に向かう道すがら。

 うん?と首を傾げながら彼女は__1年E組女子出席番号6番、築地雉穂つきじ ちほは包装された飴玉を手渡した。

「……お前は普通に登場するんだな」

 包みを外し飴玉を口内へ放る。変な味だったり、悶絶するほど辛い味だったり……なんてことはなく、喉をすーっと労る普通の喉飴だった。

 控えめな甘みが頭をスッキリさせる。

「それ、どーゆー意味?」

「いや…… 今日はよくE組の奴に絡まれる日だなあと思って」

「それって、キーちゃんとワンちゃんのこと?」

「知ってたのか」

 先日の練習試合で8番レフトを張っていた彼女はたれ目を細めて、人の良さそうな笑みを浮かべる。右耳の辺りから垂らしたおさげの根元をくるくると弄んでいた。

「あれだけ至近距離で歩いてれば、そりゃ話題にもなりますよー。いやいや、お熱いねー。まだまだ夏本番はこれからだってゆーのにー」

 ひゅーひゅー、と軽薄に俺を煽る築地。肘を俺の腕に当てると言う分かりやすいアクション付きだ。

「まあそうからかうな…… 湾野とじゃれてたのも知ってるみたいだな?」

「おん。おべんと食べ終わった後にワンちゃんがバナナの皮を持って歩いてたから聞いてみたら、『ゴリラと遊んでくるのですね!』ってゆってた」

「……ゴリラと聞いてすぐに俺と納得するなよ」

「にゃははー。でもゴリラで連想するのって、まず君じゃん?」

 人の良さそうな笑みでわりと毒のある言葉を放つ築地。猿谷と湾野に比べたらかなり気楽に話せる相手だが、油断してるとそこに毒矢が放たれる。

 さすがはE組クオリティ。

「んじゃまー、昼休みも終わることだし、ワンちゃんキーちゃんほどインパクトのないちーちゃんは言うことだけ言って退散しますかー」

 築地は立ち上がり、人の良さそうな笑みを浮かべた。


「桃姉は負けないよ」


 桃姉が本気を出せばモァックでハンバーガー100円引きなんだから、と言い放って去る築地。

 それはクーポンの本気だ……


 ◯


「お」

「あら」

 終業後。

 ユニフォームに着替えグラウンドへと向かい昇降口に踏み入ると、彼女はいた。

 噂のあいつだ。

「よう、桃姉」

「……なんで貴方がそう呼ぶの」

 先日の練習試合で9番ピッチャーを張っていた1年E組女子出席番号9番の桃山田(ももやまだ)マキは、開閉式の下駄箱から取り出した革靴を地面に放って、怪訝な目つきでこちらを見据えた。

「さすが桃姉。今日もオーラが凄いな。その気に当てられ浄化してしまいそうだよ」

「私を何者にしたいのよ…… フツーに帰宅するところなんだけど」

 真ん中分けによってあらわになったおでこを触って、彼女は一つ嘆息を吐く。

「今日は早いんだな?」

「まあ、休養日だから」

 練習の時間は各クラスによってまちまちだ。昼休み終わりから始まることもあれば、放課後の場合もある。広い敷地を有する我が校であっても、全校生徒が問題なく練習を行うには兼ね合いが不可欠である。

「それにしても、その…… 桃姉っての、やめてよね。私なんてそんな大層な人間じゃないんだから」

「いやいや。桃山田が本気を出せば、八つ裂きで一網打尽でハンバーガー100円引きってあいつらが言ってたぞ」

「はあ…… あの子たちは、全く」

「えらく好かれてるんだな?」

「持ち上げ過ぎなのよね」

 あの子たちの方がよっぽど__と呆れながら溜息を吐く桃山田。左手首に巻いた小さい円型の腕時計を見て「やば」と呟いて、急いだ様子で革靴を履く。

「17時から特売があるのよ」

「一人暮らしだったよな? 大変だな」

「慣れれば気楽なものよ。じゃ、帰るから」

 私が本気を出せば今日は20円ほど節約出来そうね、と言い残し、桃山田は特売があるというスーパーに向かうのだった。

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