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~Subculture World 《サブカル・ワールド》~  作者: 松風京四郎
第一章 クリエイターズファイター
3/11

復興と創造の歴史

 こんな女性と青年が生きる時代は2055年。日本の千葉県の沖に造られた人工島の『カリカチュア』という場所だ。この海上都市、『カリカチュア』が誕生して、5年の月日が経った。


 この街を語る上で、日本が辿った歴史を知ることは不可避である。


 この街が出来るきっかけとなったのは2023年にまで(さかのぼ)る。日本の首都、東京で、2020年にオリンピックが開催され、世界の人々が日本に一堂に会した。選手団の活躍や新記録の誕生、新しい競技の初開催など、様々な要因によってオリンピックは大盛り上がり。予想以上の経済効果を生み、好転しかけていた日本の経済は、それによって完全に復活した。


 しかし、その余波がまだ残る三年後の2月。栄えていた経済は急転を見せていた。


 日本の立地により、起こるべくして起こった大地震によって。静岡県の沖、地下50キロ地点で起こったプレート境界型地震の規模は、マグニチュード9・4。猛烈な揺れを、東海地方をはじめとして、関東、近畿でも起こし、各地で家屋の倒壊、全壊を引き起こした。


 さらに、プレートを跳ね上げて起きた激震は、およそ25メートルを超す大津波を引き起こし、流れ込んだ水流が関東、東海、近畿地方の沿岸部に流れ込み家屋や逃げる人間諸共、更地に変えてしまった。


 死者三万人以上、行方不明者多数、半壊及び全壊の建築物、九千棟以上、交通網の破綻など記録的な被害を受けた。


 何よりも痛かったところが、都市部に大打撃を受けたことだ。日本の経済を担う大資本である工業地帯に、再開にかなりの時間を要するほどのダメージを与え、日本の中核的なシステムを担う東京23区も記録的なダメージを受けたため、あらゆる面で大打撃を受けた。


 予想はされていて、対策もされていたけれど、所詮、人間の力。自然の暴力に抗うことは叶わず、莫大な復興費に日本の経済は崩壊して、失意の中に落ち込んだ。


 さらに、日本の経済に再起不能のダメージを与えたのは2030年の頃だ。


 復興に予算の大半を奪われ、暮らしもままならないほどの日本は、進化を続けていた外国に技術で劣り始め、頼みの綱であった貿易業でも収益を得にくくなった。大手の企業が利益を生み出せず、株価が落ち込み、赤字続きだった日本に、絶望的な拍車をかける事態となった。


 悪夢のような事態が続く日本国内で唯一の光明があった。それが、アニメ、マンガ、ライトノベルなどのサブカルチャーやポップカルチャーであった。


 地震の災禍に沈み込む被災者達に、無償で提供された美麗なアニメーション映像は、人々に笑顔を浮かべさせ、希望と夢を与えた。


 その時代に売り上げが乏しくない各企業団体に対して、ポップカルチャーのゲームやマンガ、ライトノベルなどの製作会社の売り上げだけは安定して黒字を出しており、それどころか鰻上りで向上していた。理由は、日本国内で良質な作品が生み出され、それを国内のオタク達がいくつも購入していく、そのサイクルがずっと続いていたからだ。所得が低くなったことにもかかわらず、オタク達はそう言った類の商品を買い込み、日本の経済を支えた。


 その姿に心を打たれたのか、災害時に心を打たれたのか、オタクではない常人の人々もそう言った類の品々を買い漁るようになり、国内外の人々も良質なサブカルチャー商品を求めて、日本に訪れ、収益を向上させた。


 サブカルチャーが異例の流行りを見せると、アニメーション等でモデルにされた地方都市にも、聖地巡礼と銘打って人々が集まり、観光業でもかなりの貢献をした。


 そう、世界の人々はサブカルチャーを求め、オタク文化を求め、オタクやマニアとなった人々が困窮した日本を救ったのである。


 そして、その波は序章に過ぎなくて、話はまだ続く。


 2033年、当時の日本国首相がこういったサブカルチャーに支えられている現実を加味し、とある政策を掲げた。サブカルチャーを経済発展の主体として、政府自らが認め、未だ困窮した日本の現状を打開するために、巨大な都市構想を打ち立てたのである。


『カリカチュアプロジェクト』。後に、そう呼ばれるようになる巨大都市構想は国民の圧倒的可決により履行され、首都に近い立地から、千葉沖の海上に埋め立てて造られることとなった。


 都道府県としては首都である東京の管轄内として置かれることが決められたが、一つの独立した国家のように、その街だけで全てのシステムや経済、インフラなどを管理することになった。


 2035年より、実際に都市構築に着工することとなった。千葉の端から沖へ10キロメートル。その付近で、埋め立て工事を執り行う。構想計画で練られた大きさは直径75キロメートル。莫大な工事費用を国家予算で賄って、膨大な時間を最先端技術で補って、地盤を固め、都市を建築していった。


 悪夢の始まりである地震の被害を受けないために、独自で編み出した防衛機能を街の設計に組み込み、15年の歳月をかけ都市を創り上げた。


 都市の建物にはアニメーション制作会社の社屋やゲーム会社、出版社や印刷会社などが置かれて、二次元的作品を発信する盤石の態勢を設置し、プログラマーや漫画家、作家にアニメーターなど様々なジャンルのクリエイター達を高待遇で住まわせることで、作品を創り出しやすい環境と逃げられない状況を生み出した。


 そして、様々なシステムを組み込み、2051年、大々的な宣伝の後に、海上都市『カリカチュア』をオープンしたのだ。


 プレオープンからオープン初日、そして、今日に至るまで夢を求めた人々が押し寄せ、日本の経済の大部分を担うこととなったのである。


 それが、この街『カリカチュア』の成り立ちだ。


『カリカチュア』の中では、イベントに事欠かない。それは、アドベンチャーゲームと同じように、いいものもあれば、トラブルのようなものも多い。そのトラブルが、今日も起こる。大体それは、クリエイターと編集者で起こるのが日常茶飯事なのだけれど。


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