第3話
「それじゃ本題にはいるわよ」
えー、まだ話すの?もういいじゃん。十分話したよ。帰らせてくれよ。
「私と友達になりなさい!」
「嫌だ。それじゃ…」
「まっ、待ちなさい!」
俺はドアを開ける手を止め……なかった。俺は何事もなかったかのように歩き始めた。すると……
「これがどうなってもいいの?」
俺は彼女の声に反応して後ろを振り向いた。すると一冊の本を鞄から取り出した。その本はどこかオタク臭を漂わせる表紙をしていた。俺はその本に見覚えがあった。っていうか俺がこの前買った本だった。
「あの時うっかり置いてきてしまった俺のラノベ!あんたが持ってたのか、ありがたい」
彼女の手から本を受け取ろうと手を伸ばすと手を引っ込められ俺の手は空を切る。
「誰がただで返すといったのかしら」
「え!?違うの?」
「私と友達になってくれたらこの本を返すわ。それとあの時あなたが言ったことも水に流すわ」
「あ!お前あの時の…」
「……今気づいたのね」
彼女はため息をつき呆れたように言う。
「それでどうするの?」
今俺には二つの選択肢がある。それは『なる』か『ならない』かだ。すごく短い言葉ではあるがここで選ぶ言葉を間違えると俺の平穏が崩れる恐れがある。ならここは間違えるわけにはいかない。
「早く言いなさい」
彼女が何か言っているが今は俺の学校生活がかかった大事な場面で反応する余裕はない。
ここで考えるべきはメリットとデメリットだ。仮に『なる』と答えたとしよう。その場合本が返ってくる。しかし俺の平穏が崩れる恐れがある。しかし崩れない可能性もある。
次に『ならない』と仮に答えたとしよう。その場合本は返ってこないが俺の平穏は約束される。いや、そうとは限らない。このことがきっかけで彼女が俺と関わってくる可能性がある。これは少し自意識過剰すぎたか。
「聞いてるの?早く言いなさい」
「聞いてる聞いてる。友達になるかならないかって話だろ」
「そうよ。早く言いなさい」
彼女は俺に早く言えと急かしてくる。もう少しのんびり考えさせてもらいたい。
「そうだな。俺の答えは………ならないだ」
「え!?ちょっとなんでよ」
「そもそも友達というものはだな。なろうって言ってなるものじゃないんだよ」
「じゃあ、どうやってなるのよ」
「知らん!ググれ!じゃ帰るわ」
俺は帰ろうと廊下に出たところで大事なことを言い忘れていたことに気がつき後ろを振り向く。
「言い忘れていたが俺はプロぼっちの日陰だ。よろしくしないでくれ」
「何よその変な自己紹介」
彼女は俺が言ったことが面白かったのかクスクスと笑っている。俺からしてみれば何が面白かったのかよく分からない。
俺は何か変なことでも言ってしまったのだろうか。言ってしまったのなら教えてもらいたい恥ずかしいからな。
「それじゃ…」
「私は日向明よ。よろしく」
「よろしく……か。あまりよろしくしたくないものだ」
俺は最後に独り言を彼女に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。