シャーペンと消しゴム 6
ユマちゃんにポン、と肩を叩かれた。
教室にはもう5人くらいしかいない。タダももう部活に行ったのかな。
「ユマちゃんどうしよ…。みんなにタダと付き合ってるって思われたかも」
「だろうねえ。女子の消沈すごかった。怖かったね~~ハタナカさん」
ユマちゃんは笑いながら言ったが、私は本気でうんうんうなずいた。
「でもすごいじゃんタダ」ユマちゃんが言う。「みんなの前で。あんだけ堂々と親しいんだぞアピールしてさ。嬉しいでしょ?」
「…」
「嬉しくないの?」冷たい目で聞いて来るユマちゃん。
「いや…やっぱり怖いよ。ハタナカさんとか特に最後のてきぱき感で怖さが増してた…どうしよう」
「わざわざホームルームで言うとかさ、誰に向けてのアピールかな。クラス全員に、て事?みんなに知ってもらいたかったのかな」
「なんでみんなに知ってもらいたがるの?」
「そしたら女の子にももう声かけられないじゃん。タダってそういうめんどくさいの嫌いそうだし。ハタナカさんと文化祭委員が一緒になったから、言っとこうと思ったんじゃないのこの際」
「…でも付き合ってないのに?」
そう言ったら、さらに結構な冷たい目で私を見下しながらユマちゃんが言った。
「一緒に花火大会や海行って、好きって言われて、あげくに誕生日にケーキ焼いてくれて、しかも二人でそれ食べたら、それ付き合ってるって言わないで何ていうの?一緒に帰ってる時もあったじゃん。え?何?すごく仲良い友達?」
「二人じゃないかったんだよ。誕生日、タダの弟も一緒にいたもん」
「『もん』てなに、『もん』て。イラっとする!ちっちゃい弟なんでしょ?そんなの二人きりと同じじゃん」
「どうしよう…女子のみなさんにハブられたりしたら」
「あ~~~さすがにそこまでしないでしょ?楽しくないじゃんそんな事したら。ある程度は冷たい対応とるとは思うけどね。みんなタダが嫌がる事はしないでしょ。わざと言ったんじゃない?タダ。それとなくみんなに知らしめて、もう付き合ってんだって感じに持って行こうみたいなさ」
そうかな…って考えたらユマちゃんが「あっ!!」と大きな声を出したのでビクッとした。
「みんなにじゃないね、きっと。ユズちゃんに対して言ったんだよ。ユズちゃんが今みたいに『つきあってないも~~~ん』みたいなすかしぶりっこするから、『オレらほぼ付き合ってんだろ気付け!』って気持ちで言ったんじゃない?」
そんな…と思ったら、ユマちゃんがキャハハハハハ、っと笑った。
夜にタダからラインが来た。
「ヒロトんとこ文化祭は体育会系カフェすんだって」
「なにそれ」と返す。
タダからのラインだとわかったとたんにドキンとしたが、なんでもない文字で淡々と返す。
少ししてタダからまた来た。ピロン。
「中学の時のジャージを着てやるカフェだって
在校生も同じ中学いたらなんかなつかしいし
受験しようとする中学生が見に来た時に
自分とこの先輩いるなあって知ったら
うれしいかなって感じで決めたって」
そっかあ、なんかほっこりする企画だな。可愛い。そっか中学のジャージ着てるヒロちゃん、もう1回見れるのか嬉しいな…
『どうして今日みんなの前でチーズケーキの事話したの?』て、聞きたいけど絶対聞けない。
「おもしろそうだね」って返そうかと思っている所へ電話がかかって来た。
タダ!!
「なんかもう蒸し返すの恥ずいんだけど」とタダがムッとした声で言う。「頑張って言うわ。なんであん時わざと違う事答えた?むかしみんなで食べたとか」
「…」
「…」
「…だって…タダこそなんであんな事クラスみんなの前で言うの?」
「だって食ったじゃん」
「…食べたけど」
「けど?」と抑揚のない普通のタダ。「いや、オレの一緒に食べた覚えのない事話して、つい最近の一緒に食べたやつ忘れてるみたいだったから訂正しただけ」
嫌味かからかいかわからない感じの事を超普通のトーンで言われて私は何も答えられない。
なので、絶対今聞かなくていい事を聞いてしまった。「タダは私と付き合ってると思われてもいいの?」
言いながら。わ~~~どうしよう!と思うけれど、それと同時に、これはたぶん「別にいい」って言ってくれるんじゃないかって期待してしまっている自分がいるのがはっきりとわかる。
が、タダは急にケラッと笑った。笑われた!
「なに!?何急に笑ってんの?」
一瞬にしてすごい後悔だ。電話切りたい。言わなきゃ良かった!
「なあなあ、オレらもジャージ着ていく?ヒロトんとこ」
「ジャージ!?」話を替えられた!「そんなの…何こいつらって思われるよお客で行くのに」
笑われた事で声が小さくなる私。
「ニシモトとかタケバヤシとかはジャージ着てくかなって言ってたけど?」
「マジで…ていうかニシモトとかも行くんなら、タダはそっちと一緒じゃなくていいの?」
もうそいつらと行ったらいいじゃん…
私の質問にまた少し笑うタダだ。何がおかしい!?
「それは最初で行ったじゃん。オレがわざわざ誘ってるのは大島と行きたいからだって」
「…」
「なあ」
「うん」
「ほんと恥ずいから。何回も言わすなよ」
「…ごめん」
「大島」
「…なに?」
「今大島のシャーペン使って宿題してた」
「…!」
なんだろう…今の一言、滅茶苦茶ドキっとした!タダが私の、黒猫の絵がついている黄色いシャーペンで字を書いてる…なんだろう…それがなんかわかんいけど私の指先にモワフワっとした何かを今感じた。
「大島」とまた呼ばれてドキドキする。
「…なに?」
「大島はオレの使ってんの?」
私はタダのシャーペンを使ってはいない。返す機会を伺っていつもカバンに入れているけれど、同じクラスなのに、誰にも見られないようにそっと返そうと思うとその機会はなかなかなくて、しかも授業受けている間にシャーペンの事は忘れていたりして、結局今もカバンに入ったままだ。
「ずっとカバンに入ってる」
「…あ~~」
あ~~って何!
そしてその後「なあ」と言ったタダの声がなんか変。ちょっと上ずっているような…それでか、ちょっとせき払いしてタダが続けた。
「むかしオレが消しゴム貸してもらったの覚えてる?」
「私に?むかし?…」あったかそんな事…「むかしって?」
「結構オレが転校したて」
「貸したかな」
「オレが転校で算数でやってないところを高森先生にちょっと教えてもらう事になった時にどっか消しゴムなくしてて、高森先生がそれ知ってそばにいた大島に貸して上げてって言って」
「貸したかな」
「覚えてねえの?オレがそれをそのまま持って帰って次の日朝の会が長くて返す間がなくて、そしたら1時間目の休み時間に大島が別な消しゴム、オレに渡して来た…ほらヒロトの…」
思い出した!「ヒロちゃんの消しゴムのやつか!」
「そうそうそれ…てかヒロト出ないと思いださないとか結構ひでえな」
「…」