シャーペンと消しゴム 4
…そうか…ハタナカさんとタダ文化祭委員に一緒になったのか…そうか…
あれ?この『そうか』って完全に残念がってるやつ?心の中でちょっとため息まじりに『…そうか』とか…
ちょっと前までこういう場面面白がるくらいだったのに。タダ、また言われてる~~モテて大変だね~~~くらいに思ってたのに。
実際ハタナカさんは美人だと思うし、成績も良いしいつも強気だし。タダに対してだけはいつも好きを前面に出し過ぎて鬱陶しい感じになって、他の男子への対応と差が激し過ぎるけど、かと言って不親切だったり意地悪なわけではない。私にだけあからさまに冷たい感じを出す事もあるけれど、それはタダの事が本気で好きだからなんだと思うと、そういう感じになるのも仕方ないのかなとも思う。受け入れはしないけど。
…それにハタナカさん巨乳だしね…
1回ハタナカさんの水着姿見てみたいな。真っ白とかすごい似合いそう。黒とか豹柄とかなんだったら金とか銀とかでも似合いそう。紐のやつとかも似合いそう。あ~~~私も1日だけでいいから巨乳になりたいな…私が巨乳だったらヒロちゃんの扱いも違ってたよね。もっと私の事見てくれたかもしれない…でもユキちゃんは私と同じくらいの貧乳なんだよね…けどユキちゃんは性格いいしさ…私は…
んんん~~~…じゃあ本当に、タダは私のどこがいいんだ!?
ホームルームが終わった後、ユマちゃんが私の所へやって来た。
「ハタナカさんがタダと一緒の委員会。気になる?」
「…」気になるよちょっとは。
「私が言ってた通りになったらどうする。ハタナカさんにガンガン攻められてさ。タダがグラッときたりなんかしたら…」
タダはそういうガンガン来るタイプの女子は苦手なんだよ。前からそうだし。でも…
「ハタナカさんハート強いからね~~。今回謹慎にはならなかったけど親も呼ばれて厳重注意なのに」
ほんとだよ。
「で?」とユマちゃんが私の顔を覗き込む。「やっぱ気になんの?」
「ノーコメです」
「そういうとこがもう気にしてんだよね~~~そういうとこユズちゃん弱いよね~~~でもハタナカさんは強いよね~~~」
気にしてるよ!うっさいなあ!
「気にしてはいないよ」と抑揚のない声で答えると、「あ、そう」と言ってユマちゃんは楽しそうに笑った。
その翌週、文化祭のクラスの催し物について話し合いが行われたが、なかなか決まらない。
そもそもマンガや学園ドラマであるような派手で夢見がちな文化祭は、現実にはそうそう存在しないのだと思う。大学の学園祭とは違うのだ。高校生のやれる事なんてたかが知れている。しかも都会でもド田舎でもない中途半端な街中にある特別に難関校でもないごく普通の、普通科しかない進学校だ。
中学の時に友達と近くの高校の文化祭に行った事もあって、中学の文化祭に比べたら規模も大きくて食べ物の種類も多かったけれど、ちょっと想像していたイケメンの男子高校生が執事に扮してあなたをエスコート的なコスプレカフェとかはなかった。女子メインのメイドカフェもなかったし。せいぜい女装止まり。しかも笑いを取るための体育会系のゴツい男子の女装だ。
案はいくつか出るが決まらない。例えばお化け屋敷だってお客は呼べそうだし、文化祭では必ずありそうな出しもののように思えるが、実際きちんとしたものを作るとなると大変だ。中途半端に企画してしまうと寒い事になってしまう。
カフェ案多いな。女子はカフェ押すよね。コスプレで何かするっていう案も出たけれど、『お前らが見てぇのタダだけだろうが』っていう男子の本気の叫びで無しになった。でも実際カフェをやるとしても、ケーキとか、簡単なクッキーだって大量に作るのは大変そう。飲み物だけでも来るお客の人数を想定して用意するのは大変なのだ。
司会のタダも少し困っている。困っているっていうかかったるそうにしている。目立つわりにあからさまに人前に立つのは好きじゃないもんねぇタダ。やらされてる感満々。
そう思いながらタダを見ていると、タダも私をじっと見た。
いや、みんなを見て、私とも目が合ったってだけだけど。それでもパッと目を反らしてしまう。
でもタダ…おっきくなったよねえ…とつい近所のおばちゃんのような気持ちで前に立つタダを見てしまう。転校して来た時は結構もじもじした感じで小さい声で自己紹介してたのに…体も大きくなったしカッコ良くなって…
って考えてた時にまた壇上のタダと目が合って慌ててパッと下を向いた。
いや…別に私を見てるわけじゃないとは思うんだけど…こういうところが意識し過ぎて自分でもどうかなって思う。
が、「大島」とタダが私を呼んだ。
え?
「大島」と返事をしない私にもう一度タダ。
なんでここでわざわざ名前を呼ぶ?手なんて挙げてないからな。
言ったタダが私を見ているので、「はい」とやっと返事をする。
「中3の時に隣のクラスがやってたやつあったじゃん。あれなんだったっけ」
「え?」急に言われて思い出せない。
「ほら4組が作ってた」
「…迷路?」
「違うわそれは2組だろ。ほら、クッキーみたいな、でももっと簡単な砂糖とバターで…」
「ラスク?」
「そうそれ。あれ簡単そうだったじゃん。うまかったし」
少しザワザワする教室。
水本先生が口を挟んだ。「こらこら、二人だけで仲良さげに話さない。タダ、ちゃんと説明して。大島でもいいけど」
いやだよ、と思う。だってタダの横のハタナカさんがもうすでに私を睨んでいる。
タダがみんなに説明した。中学の私たちの隣のクラスが作っていたのだが、パン屋でバゲットをあらかじめ大量に注文しておいて、家庭科室のオーブンを借りて作っていた。可愛いビニルパックに3個とか5個とか袋詰めして売っていたのだ。
「まあパクリだけど」とタダが言う。「友達のとこがケーキ屋でそこでいろんな種類のやつ売ってんのも見たから抹茶とかココアとかブルーベリーとか何種類か用意して…」
やだ~~とあちこちから女子の声。ハタナカさんが代表して言った。
「イズミ君、甘いお菓子好きなの?」
「普通。作るのはなんか実験みたいで面白いから…」
「え、どういう…え?お菓子作ってんの!?イズミ君っ!やだぁ」
それに合わした、やだあああああ!という女子のみなさんの声にかき消されるタダの答え。女子のみなさんがいつもよりもさらにおかしなテンションだ。
「お菓子作れるの!?」とハタナカさんのキラキラした貪欲な目。「もうどんだけカッコいいの信じらんない」
「おいおいおいおいタダ~~」と男子の、タダと仲の良いイタバシが言った。「お前だけさらにここで好感度を上げてどうする」
「ていうかさ…」と同じように仲の良いホンダが言った。「タダが作ったって言って売ったら結構な売上げが見込めんじゃね?」
「それな!」と真っ先に力強い声で同意したのは水本先生だ。
え~~やだ~~~と女子のみなさん。
ハタナカさんが代表する。「いや、うちらはさ、イズミ君と同じクラスって事で他のクラスの子たちより優越感あるわけよ。それを他のクラスの女子におすそわけとか心広い事出来ないわけよ。だってカノジョじゃないから」
すごいなハタナカさん、タダを盗み撮りしようとして校長に連行された人の言葉とは思えない。
「いや、やっぱ売上げは大切でしょ。予算以上は出して来年に還元できるようにしなきゃ」と今度は正論を述べるうちの担任。
「え~~ヤダな~~」とハタナカさん及び女子のみなさん。「私たちだって1回も食べさせてもらった事ないのに」
今まで同調していた女子のみなさんが急にブーイングだ。みなぶーぶー言っている。
そして何人かが声を合わせて言った。
「「「「「「「試食!私たちが最初にしたい~~~~!!!!」」」」」」」