シャーペンと消しゴム 3
そして夜にタダからラインが来て、それだけでドキっとする。
「今日文化祭の話あったじゃん
ヒロトんとこうちより早いって
そいで10月最後の金曜と土曜にあるから土曜に来いって
一緒行く?」
…わ~~~。
『一緒行く?』だって。
…なんかちょっと可愛いとか思っちゃったりなんかして、きゅんとなってる自分はなんなんだいったい。
ちょっと前ならそんな事よりまずヒロちゃんのところの文化祭観に行ける事に騒いでるはずなのに。
タダと二人で?
…二人でなんて恥ずかしいよね!
他にも行くよね?ヒロちゃんならニシモトとか、他の子もみんなに声かけてそう。女子も来るのかな。
「何人くらいで行くの?」
「他にも来るだろうけど
今一緒にって言ってんのは大島とオレとって事だけど」
…わ~~~!
これは『行く』って素直に答えるやつ?でも恥ずかしいから『ちょっと予定確認してみる』とか今返す気満々なんだけどどうしよう私。どっちにしろすぐ答えるのが恥ずかしい。
なんの予定もないのにそんな先まで。
…え~~どうするどうする…
行きたい気持ちになってるくせに。でも二人で行くのが恥ずかしいのだ。タダを意識してるから。
どんな顔して行くんだろ…ずっと片思いしてきてこの夏振られたヒロちゃんの所へ、今気になってきているタダと一緒に。すごく挙動不審な感じになったらどうするんだろう。
ていうかタダと行ったら、ヒロちゃんの学校の子たちからも注目浴びるかもしれないし。あれ?あの隣の子ってカノジョ?あれが?あんまさえない子じゃん、なんて思われたらカノジョでもないのにすごい切ないかも…
ピロン、とまたタダから。
「行きたくねえの?」
うわ…
ピロン。
また来た!やだな…タダ、いつもはこんな立て続けに送って来ないのに。
「早めに返事して
待ってる間イライラするから」
うわ…
イライラするって何!…イヤだな!返事が遅いつっても、だってどうしよう…
ピロン。
ぎゃああ、また来た!!
「今日オオガキに負けたのがなんかすげえイヤだったわ」
ピロン。「ハチマキ取り替えたの可愛いねとか言ってきし」
ピロン。「大島さんのハチマキしたのに残念だったねとかまで言うし」
そうか…あの時そんな事言ってたのか…
「それで?」とピロン、とタダからまた。
タダからメッチャ来る今日ライン!
『それで?』って、行くか行かないかって答えろ早くって事だよね、いやわかってるんだけど…
そう考えていた時にユキちゃんからラインが来た。
ユキちゃんと言うのはヒロちゃんが今好きでいるヒロちゃんと同高の女の子でヒロちゃんのカノジョだ。夏休みに海や花火大会にも一緒に行って、とても気さくで優しくて可愛い女の子。悔しいけど。
だってそりゃ悔しいに決まってる。小学低学年からずっと好きだったヒロちゃんの事を今年の4月から高校が同じになっただけのユキちゃんに持ってかれちゃったんだもん。そのユキちゃんとまさかの誕生日がかぶってて、自分の誕生日ケーキを予約しに行ったらヒロちゃんがユキちゃんにケーキをプレゼントする事がわかって、もうほぼ諦めはついたけど。
それで今度はタダを意識してるわけでしょう?あの時タダが私にケーキを焼いてくれようと思ったのだって、あまりに私がかわいそうだったからだと思うのに。
ちょっと前までは、ヒロちゃんのところに行けるなら!、ってすぐに『行く』って返事をしていたはずなのに。タダを意識しなうちは二人きりもどうもなかったのに、今はタダと二人きりでヒロちゃんの学校まで行くのが恥ずかしいとか思っているわけだ。
だってデートみたいじゃん。
ユキちゃんからのラインは、
「ヒロトがタダ君やユズちゃんのことうちの高校の文化祭誘ったって聞いたんだ
ヒロトとはクラス違うけどうちのクラスも遊びに来てよね!」
…相変わらずユキちゃん、感じが良いよね。タダを意識している自分がおかしいのどうのって無暗に考えて、タダに対する対応がおかしくなっているヘタレの私とは大違い!私もユキちゃんみたいに明るくて感じが良かったらヒロちゃんもちょっとは女の子として意識してくれたのかな…
いやそう考えると本当に、タダは私のどこが良くて好きだって言ってくれてんのか全然わからん…
そう思いながらタダに返信した。
「今ちょうどユキちゃんからライン来た
ユキちゃんも遊びに来てって言ってくれたから一緒に行く」
…姑息だな私。わざわざユキちゃんを出すあたり。良かったちょうどユキちゃんからも誘われてって思ってるもん。そしてこれは、ずっと好きだったヒロちゃんのカノジョとも仲良くやってるでしょアピールになってない?ユキちゃんが来てって言ったから、だからタダと行くんだからねって感じに持っていってない?
持っていってるよね!
ユキちゃんにもラインする。
「ありがと!
ユキちゃんもうちんとこ来てよ
ていうかヒロちゃんにもう誘われてるかな」
ユキちゃんからピロン。「まだ誘われてない~~~」
そしてウサギが大泣きしているスタンプ。可愛いな。
ヒロちゃんにも久しぶりにラインしてみる事にする。返してくれるかな。悪気はなくてもめんどくさがって返してくれなかったり、くだらないスタンプだけ返す事もあって、今まではそれで結構凹む事もあったからちょっとドキドキしながら送信する。
「ユキちゃんがヒロちゃんとこの文化祭誘ってくれたよ
タダも行こうって言ってくれたから行くね
ユキちゃんにうちにもおいでって言ったら
まだヒロちゃんが一緒に行こうって誘ってくれないって言ってたよ」
30分くらいしてヒロちゃんから返事があった。
「お~~
ユキと一緒に行くわ
最初からユキと一緒に行く気でいたから誘うの忘れてた」
あ、そう。はいはいはいはい。
仲良いね!でもほんのちょっと前までそれがすごく嫌だったのに。本当にすごく嫌だったのに。ヒロちゃんからの返信だって、来ないな来ないなってずっと気にして待って、来たらものすごく喜んでたのに。
そして体育祭が終わった週明け、文化祭の準備がはじまったのだけれど、まずは実行委員選びからだ。立候補する人がいなかったので、水本先生がくじで決めると言い出した。
「推薦とかもまぁめんどくさいし、推薦した人とされた人でモメたらイヤだしね、立候補もいないんじゃないかとはなから思って先生くじを作ってきました~~~!」
ザワザワしながら周りと顔を見回す教室。
先生が続ける。「オレはね、実はくじ作んの好きなんだよね。なんか人の運命決めてるような気がちょっとするじゃん」
なんか水本先生…体育祭の後から急に髪が伸びてるような気がするんだけど気のせいかな。
実行委員は4人だ。委員会に出席したり、決められた事をクラスに通達して催しものを決めたり、それを委員会に報告して予算をもらい、クラスで決めた事の取りまとめもする結構面倒くさい仕事なのだ。絶対になりたくないと強く願ったので私はセーフ。良かった。
が、「え~~~イズミ君~~~」と言うハタナカさんの声。
委員のくじを最初に当ててしまったのがタダだったのだ。そうか、タダ残念。頑張れ。ていうかハタナカさんの立ち直り早いよね。立ち直りって言うかそもそも校長に体育祭中に連行されたのも、なんとも思ってないかのような普通感。今日も明日も、明後日まで、放課後は校長室で反省文を書かされ、昼休みも校長とお弁当をたべなきゃいけないのに。そして親まで呼ばれるはずなのにメンタル強いな羨ましい。
そして「きゃ~~~~っ!!」というまたハタナカさんの、そして今度はさっきより格段に高いキラキラの声。
「私も~~~!私もくじ当たり~~~!やったぁぁ~~~!水本先生ありがと!先生大好き!」
そうかハタナカさんも委員か。
「イズミ君~~~」とハタナカさんがまだくじを引いている人がいる中タダに叫ぶ。「いっしょ~~~~嬉しい~~~~」
何も答えない、そしてハタナカさんの方を見もしないタダ。タダもハート強いな…。ここで無視とかよく出来る。
…そうかハタナカさんが一緒か…なんだろう…なんかモヤっとする。