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1. 始まりの始まり

んー。

牡の拙者には女性の感情はよくわからんでござる。

「姫、ファセテリア姫。お目覚めください。そして、お急ぎください! すでにグレーインの使いたちがこの砦のそばにまで押し寄せてきているのです。我が国に咲く美しき白百合と讃えられた姫のためとあらば、国のもの全てがその手に剣を槍を、またある者はすきやくわを持ってかの者たちに立ち向かうでしょう。しかし、それでも長くは持ちこたえられません。あの人ならざらぬ、闇の口より出でし邪悪な者たちを相手には我が国の英雄たちとて押しとどめることはできないのです。ですからお願いです。我が国の英雄たちが膝を付き、コウベを垂れて、息、果てぬる前にこの砦をお発ちください。さもなくば、二度とこの砦を出ることは叶わず、かの邪悪な者たちの魔の手に飲まれてしまうことでしょう!

「すでに親愛なる王陛下は討ち果てられ、高貴なる血筋はただ貴女のみを残して失われてしまいました。ですから、お願いです。今すぐにでも地下の秘密の抜け口から北へと逃げてください。国境を越えて、まっすぐに街道を行けばエルフの都ケーニヒスハープスがあります。そこでかの国の王に助力を請われるのです。心配召されるな。エルフの王アラゴーンと今はなき父君エアロン王は堅く結ばれた親友同士でした。姫のためとあらば快く助力してくださろう」


 はい?

 どうしよう。全くついていけない。

 久しぶりに出席のやばくなってきた講義に出席して、

 後ろの方で居眠りしていたら、いきなり肩をガクガク揺すられて、

 そいで知らん顔のおっさんがまくし立ててきた。


 もしかして、姫ってあたしのこと?

 いや。

 いやいやいや。


 確かに漫研で姫やってるけどさぁ。

 このおっさんが言ってるのってガチ(・・)のやつだよね?

 そもそもあたしファセテリアなんて名前じゃないし。

 栃木とちのきゆかりって名前だし。

 それが、え。なに? 美しき白ユリ? あたし!?

 冴えない底辺大学で女子大生やってるこのあたしが!?

 あ、ヤバい。やばいよこれ。

 背中がめっちゃ痒くなってきた。

 

 さっきの長ったらしい話もそうだけど、

 このおっさんの格好ちょーヘンテコだもん。

 めっちゃごわごわしたズボンに、緑のこれまたゴワゴワしたチュニック。

 めっちゃノミとかいそう。

 おまけにホビットみたいなずきんまで被ってるし。

 なんつーの?

 こー。時代劇っつーか、中世っていうか……。


 こういうのってリアルで見ると結構キツイっす。

 あたしもロードオブザ指輪とか好きで、

 ハセオとフロバギの同人とか描いてたけどさ〜。

 リアルでこりゃないわ〜。


 ってがっくしして目線を落としたら、自分の格好に気がついた。

 これは明らかにドレス。

 しかもゴテゴテのゴシックドレス。

 あたしったらこんな真っ黒なドレスを着て、どこが白ユリなのかしら。

 って思ったんだけど、不意に目に入った自分の手がすごい白かった。


 うん。


 もう、ボールドで洗ったシーツくらいに真っ白。

 白人でもこんな白くないと思うが。

 多分、顔もゆで卵みたいに真っ白なんだろうな。

 鏡がないからわからんけど。

 

 ただ、なんとなく頭の上に何か乗っかってる気がする。

 指にはこれでもかってくらいにいっぱい指輪つけてるし。 

 んでめっさ高そうなゴシック様式の椅子に腰掛けて、眠ってたみたい。

 まさに麗しの王女様って感じ?

 いや、あたしだが。


 っていうか、ここどこよ?

 明らかに教室じゃないんですけど?

 こんな狭い部屋で居眠りしてたら、速攻先生に見つかっちゃいますけど!?

 まさか本当にとりで? 鳥で? っじゃなくて砦?

 あ、窓。っていうか壁に四角い穴があいてるだけだけど。

 そうか、ここに肘を乗せて寝てたのか、あたしは。

 

 どれ、覗いてみよっと。


「ひぅっ!?」


 へ、変な声出た。


 やばいやばい、ここめっちゃ高い!

 なにこれ、砦ってレベルじゃねえぞ!?

 スカイツリーのてっぺんくらいあるし。

 大地がはるかかなたに見える。

 ていうか、明らかここ日本じゃないね。


 石の塀で囲まれたこぢんまりとした村(町?)っぽい。

 んで、確かに、遠くの方で砂煙がわーっと上がってる。

 きっと馬とかで走り回ってるんだろうな。

 ちっさすぎて見えないけどね。


 にしても。


 こんな中世チックな世界観で超高層ビルディングとかわけわかんないし!?

 こんなに高いんだったら、せめて、ガラス貼っとこうよ。

 誰か落ちちゃうよ!?

 風がビュンビュン吹いててめっちゃ怖いんですけど!?

 あたしはがばっと後ろに下がって、その勢いで尻餅をついてしまった。

 ちょっと恥ずかしい。


 あたしは起き上がるとお尻をパンパンと払って、

 説明を求めるようにおっさんの方に向き直った。


「姫! 気を確かにお持ちください! この砦は難攻不落。そう容易くは落とされません! ですが先ほど申しましたように、いずれはかの者たちに落とされてしまうでしょう。ですから、急ぎ、この砦を抜け出してくださいませ。道中怪しまれぬよう、侍従は二人に留められますよう。……そこにおりますサローンとスルマンをお連れください。二人はトリノール軍の双璧とまで呼ばれたこともある剣の達人です。敵の軍勢に四方を包囲されたたとしても、彼らならば姫を連れて包囲を切り抜けることもできるやもしれません」


 いや、じゃなくてさ。ドユコト?

 全然話についていけないんですけど。


 もしかしてあたし、寝てる間にワープしたのかな?

 でもなんで着替えてんの?

 いや、違うか?

 まさか、幽体離脱して中世ファンタジー姫様に乗り移っちゃったとか?

 ありえない話だけど、それが一番しっくりくるような。


 あ、後ろの二人はよく見ると結構イケメン。

 ただ、なんというか外人の濃ゆい顔。

 ヒゲも濃いし、眉毛もぶっとい。

 きっと、服をはだけたら胸毛がもじゃーって感じだと思う。

 サローンはアウトローの野生派って感じで、鎧も凸凹だし顔も傷だらけ。

 それにギラギラした目でこっちを見てくる。

 

 スルマンは知性派って感じだな。

 濃ゆい顔なのに、どこか温室育ちな感じ。

 鎧も新品みたいにピッカピカ。

 開けてるのかどうかわかんないくらい細い目でこっちを見てくる。


 にしても、さっきからこのおっさんが言ってることまとめると、

 結構ピンチって感じ!?

 じゃあさっさと逃げないと。

 自分の体じゃないのだとしても死にたくはない!


「姫。貴女はこれをお持ちください。これは我が国の王家に代々伝わってまいりました宝剣ヤクタタズです。もしもの時があればこれをお使いください。きっと姫の旅路のお役に立つでしょう」


 いや、立たないでしょ。

 宝石がいっぱいついてるし、明らかに飾り用の剣でしょ、これ?

 ま、もらっとくけどね。

 って重っ!!

 剣てこんなに重いの!?

 2キロくらいあるんだけど?

 

 むりむり、こんなの振り回せないって。

 どこかで売っちゃおう。

 うん。それがいい。 


 金ピカだし、ヤフオク出したらさぞ高く売れるに違いない。


「では、姫様。こちらの階段から参ります。ついて来てください」


 ふぇ?

 か、階段……。


 この高さで、階段!?

 それ、もう階段じゃなくて怪談だよ。

 絶対ありえないしっ。

 しかもあたしヒール履いてんじゃん!?

 アホかこいつ。


 あたしが呆然と立ち尽くしていると、

 スルマンがつかつかとあたしの前まで歩いて来た。


「姫。失礼します」

「へ?」


 スルマンは少しかがんであたしの膝と背中のあたりに手を当ててきた。

 そしてそのままあたしは横向きに持ち上げられてしまった。


 ……お姫様抱っこ!?

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