第4話 フラグの立て方と、その立ったフラグのへし折り方
半年近くも最新話の投稿をお待たせしてしまい申し訳ないです(>_<)
「アイのヤツ……本気で俺のこと置いて行きやがったな」
学園の前でボロ雑巾のようになっている俺はそんな文句を呟きつつも『誰か助けに来ないかなぁ~』っと10分程待っていたのだが、生憎と誰も通らなかった。まぁ既に授業が始まっているから生徒が通るはずはないのだが。
「ほんとどうすりゃいいんだよ……」
体感的にはこの場に半年と二日ほど放置されていた感覚だったが、たぶんそれは気のせいだろう。もしあるとすればそれは作者の野郎のせいで間違いない。
「はぁ……」
トボトボ……。俺が途方にくれていると学園の方から一人の女の子が下を向きながら溜め息交じりで歩いて来ているのが見えた。
「(女の子? それもヒロインクラスの美少女ですと!?)」
俺は堪らず声をかけてみることにした。
「あ、あの……すみません」
「へっ? あ、はい。なんでしょう???」
俺が声をかけるとその子は顔を上げ、こちらを向いた。
「(うっ。か、可愛いなこの子。しかもしかもアイ並みの美少女エルフだしな!)」
その子も俺と同じく賢者見習いなのか、黒のマントに杖を持っていた。しかも耳が尖っており、彼女は人間ではなくエルフ族のようだ。
この世界『エカルラート』では、人間に加え『亜人』や『妖精・精霊』など様々な種族が共に暮らしている。
亜人種族は人型の獣であり、特徴としては人と獣の長所を取り入れた優れた種族に位置している。簡単に言えば……まぁ美少女に猫耳や犬耳しっぽなどが生えてる子だと思えばいい。しかも何故かそれは『女性のみ』であり、男はみな獣の姿のままである。たぶんそれはこれを読む読者さんに対する配慮だと思う。
そして妖精・精霊種族は、まさにこれぞファンタジーと言った感じで『エルフ』や『天使』、それにおとぎ話に出てくるような羽の生えた『フェアリー』など多種様々である。まぁそれも亜人と同じく、『ただし美少女のみ限る!!』との制約付きなのはもはやデフォルトと言えよう。
「あの……私に何か用なのですか?」
読者に対してぶつぶつと呟きながら地の文で説明している事を不信に思ったのか、その子は疑うような目で俺の事を見ていた。
「(ま、マズイ。このままでは犯罪者ルートに突入してバットエンドになっちまう……)」
そう作者の意図を勘繰った俺はとりあえず何でもいいから言葉を口にする。
「あの……初対面でこんなこと聞くのは失礼なんですが、アナタは一体誰なのですか?」
「えっ? ああ、私は通りすがりの転校生ですけど……」
『それが何か?』っと不思議そうな顔をしている。その言葉を聞いて俺は再び読者に聞かせるように心の声を披露する。
「(おいおいおいおい、マジかよ? この子も俺と同じ『賢者見習い』の格好してるし、ウチの学園にゃ『勇者』『賢者』『魔法使い』の三つのクラスしかねぇもん。オマケに『転校生』だって言うなら俺達の教室に来ちゃうわけでしょ? で、そこからなんやかんやの物語が始まるんだろ? ……これ王道で言えば出逢いのきっかけだよな? ぐふっ……ぐふてゅふふっ)」
俺は挿絵すら導入されないモブ美少女転校生を見ながら薄気味悪い笑み浮かべ、これから起きうるであろう展開を妄想してしまう。そして更にフラグを立てるべく、彼女よりも先に教室へと赴き待機しようと急ぎ行動に移すことにした。
「じゃあ俺は先に教室で待ってますからね!!」
「えっ? えっ? 教室って……あ、あの! 私は転校……」
彼女の返事を待たず俺は教室に全速力で向かってしまう。だがこのとき、彼女が何故《・》外からではなく校舎から歩いて来たのか、そして彼女が口にした設定である『転校生』の意味を履き違えているとはこれっぽっちも思ってはいなかったのだった。
「にゅふふふっ……こりゃ~まさに北ぁー! って漢字だよな?」
ちょいネットスラグと差別化を図るべくして、漢字交じりの文字を活用しつつ喜び舞いながら教室の前までやって来た。そして既に二時限目も始まり遅刻しているにも関わらず、教室前のドアを開け放った。
バンッ!! 授業中で静まり返った教室内に俺が出した騒音が響き渡る。
「せんせーい! 遅刻しましたー!!」
そして何を思ったか、俺はキチガイのように声高らかにも右手を挙げながらそんな宣言をした。
「(これを読んでる読者諸君もついに俺の頭がおかしくなったな!? っと普通は思うだろ? ところがギョン。なんと二時限目は心優しいことで有名な天使のようなユーリ先生だから大丈……えっ?)」
そこで俺は教壇にいる先生を見て硬直してしまう。
「へぇ~遅刻して来たぁーっ! ってのに随分と良い度胸してやんがんな、てめえ?」
そこに居たのはウチの近所に住む優しいお姉さんユーリ先生ではなく、ミニスカートに胸元を大きく開けたビッチ先生こと……
「あ、アメリア先生が……にゃんでここにいらっしゃるの?」
その方は学園一厳しくて怖いアメリア先生だった。正直アメリア先生はスタイル抜群で瞳も髪もブルーで綺麗なお姉さん系ビッチなのだが、怒らせると怖い。それも半端なく怖い。乱暴な言葉使いもそうなのだが、実はこう見えて超体育会系なのだ。今は『勇者』を引退して教師としてこの学園で鞭を持ちことで大人しくなっているらしいのだが、言葉よりもまず先に剣が出ると言われていた。
ちなみに昔のあだ名は『クレイジーアメリア』と呼ばれてた。その理由は敵味方一切の差別なく攻撃していたのだと言う。本人曰く『最近視力が落ちたから敵味方の見分けがつかなかった。あとついでに何か目の前をウロチョロしてて目障りだったから……』との事。普通に味方にまで攻撃するか? そこは差別というか区別すべき大事な事案だよな?
「あたいがいちゃ都合が悪いのかい?」
「(ぶんぶんぶん)いえいえいえ、滅相もございませんアメリア先生っ!!」
俺は首が捻じ切れんばかりに左右に振ると敬礼をしながら慌てて否定しつつ、何故アメリア先生がここにいるのかを聞いてみることにした。
「ユリ姉……あっいや、ユーリ先生ではなくアメリア先生がここにいるんですか?」
「(ケンジャケンジャっ! こっち、こっち!!)」
声なき声と共に手巻きをしながら近くに座っているアイが口パクで何かを喋っていた。独身術をマスターしつつあり、また恋人なしの独り身でオマケに童貞神の俺はそこから状況を読み解くことにする。
「(ユーリ先生は……)」
「何々クソビッチは……」
「(お家の仕事で……)」
「売れ残りで……」
「(今日は遅れてくるって!)」
「婚期が遅れてるだってぇ~っ!? アイのヤツ、なぁ~に今更そんなこと言ってやがるんだよ(笑) そもそもアメリア先生に嫁の貰い手なんて……」
「へぇ~? 私はクソビッチで! しかも売れ残りなうえに! 婚期が遅れて嫁の貰い手がいないのかぁ~。へぇ~っ」
「(……ななななな、何か俺の真後ろで女性の声がするんだけど、き、気のせいだよね?)」
俺はパントマイムロボのように両手開きポーズをしながら、ギギギィッっと何回かに別けて回れ右をして振り向いてみた。するとそこには……満面の笑みをしているアメリア先生がいた。
「じゃあ今日はこの辺で早退しま……」
「ちょい待てや」
俺はアメリア先生の脇を通り抜け逃げようとしたのだが、ガシッっと左肩を掴まれてしまった。
「あの……先生に質問があるのですが……。も、もしかして今のボクの心の声が聞こえちゃいましたかね?」
「ああ、しっかりとこの耳でな」
どうやら先生も俺と同じく独身術をマスターしているのか、どうやら……いや、俺が()で心の声にするのを忘れていただけかもしれない。
「最近運動不足なんだよねぇ~。で、都合の良いことに次の授業もあたいが受け持ちなんだよ。もちいつもどおりの『実戦訓練』で、な。タチバナぁ~、今日はアンタがあたいの相手してくれるんだろ? 違うか? ああん!」
「え゛っ!? せせせせせ、先生と実戦……しちゃうんですか? わ、わぁーい。ボク嬉しいなあー……はははっ」
この時点で既に俺に断わる選択肢も逃げる道さえも残されてはいなかった。何故ならアメリア先生に掴まれている左肩がミシミシっと嫌な音を立て悲鳴を上げていたのだ。
キーンコーンカーンコーン。ちょうどそのときタイミングよく授業終了の合図が鳴り、俺は命を繋ぎ止める事となった。
「ちっ……次は校庭で実戦訓練だからな! タチバナ覚悟しやがれよ!」
アメリア先生はまるで三下が逃げ惑うようなセリフを残すし授業を終わらせ、教室を出て行ってしまう。
「はぁ~っ。助かったぁ~……のか?」
俺は安堵するように尻餅を着いて床に座り込んでしまう。だがそれも次の授業まで数分間の安らぎかもしれない。
「まったくも~う! ケンジャ何やってるのよ!!」
アイは先程見せた俺の醜態に対して怒りに満ちていた。ってか逆ギレも甚だしい。
「何でアイがキレてんだよ……」
俺は教室の床に大の字で倒れ、無防備な姿を晒しながら応答する。……べ、別に座っているアイさんのスカート中身がチラチラっと見えるから寝転んでいるわけではないのであしからず。あとそれに対してのクレームもなしの方向でな!
「はぁ~。ケンジャ、どうしてもっと早く来なかったのよ?」
アイは溜め息交じりでそんなことを聞いてきた。どうやら朝の主人公置き去り事件は既に忘れているみたいだ。まぁそんなことを言っても始まらないので、俺が拾ったフラグについて話すことにする。
「ちょっと……な。あ、そういやアイ。今日転校生来るみたいだぞ。しかもエルフ族の美少女だぜ、美少女!」
俺は朝のフラグをちょっと興奮気味になりながらアイに説明していく。
「転校生? このクラスにぃ~っ? ケンジャ、それって本当の話なの? 夢でも見てたんじゃないの?」
アイは俺が言ったことをこれっぽっちも信用していない様子。そこで反論すべく事細かに説明することにした。
「いやいや、ほんとだってば!! その子が校舎の方から歩いて来てさ、『私は転校生です!』って言ったんだって!」
俺は彼女とのフラグが消し飛んでは一大事だと必死に弁明する。
「……それって、さ。ほんとの『転校生』なんじゃないの?」
「へっ? ほ、ほんとのって?」
アイの神妙な面持ちに俺はやや不安になりながら続きを促す。
「いや、だから……その子って、ウチの学園から『転校』するんじゃないかって話! だってだって私が来た時に別れの挨拶してたんだよ。確かその子もエルフの子だったもん。ってかクラスメイトなんだから知ってるでしょ!! それに『校舎の方から歩いて来た』んでしょ? ならまったく逆方向じゃないの?」
「…………マジで?」
(そういや、どこかで見たことあるような地味な子だと思ったらウチのクラスだったのかよ。眼鏡外してたらから分からなかったわ!!)
俺はアイの説明を聞くうちに段々とその意味を理解して顔が青やら赤やらと、まるで信号のようにクルクルと変わっているのを自覚していた。
「それにこの学園に入るなら『転入生』になるんじゃないの? ケンジャ違う?」
「…………」
そしてトドメの言葉を指されてしまい、もはや反論の余地すらできない程俺のフラグはへし折られてしまった。
第5話へつづく