第2話 これがラブコメのはじまり?
「けっほけほっ……。あ、アイ……いくらなんでもこれはやりすぎだろうが……けほっ」
「だ、だからごめんってば! さっきから謝ってんだからそろそろ許しなさいよねっ!!」
アイのせいでこうなったのに、なんで加害者がキレてやがんだよ……ったく。
毎日の日課として俺の事を起こしに来てくれるお隣に住む幼馴染に部屋の中の物がすべて灰と化した(でも不思議と家自体は無事)責任を問うたのだが……ってかアイにこれ以上の属性付与なんぞ認めないからなっ!!
そもそも『世界を救った大賢者さまの娘に生まれた!』ってだけでも既に勝ち組確定なのに、アイ自身の潜在能力まで桁外れだった。
アイは俺と同じく今年の4月から『魔法学校:ツヴェンクルク』に入学したばかりだと言うのに、まだ8月も半ばというこの時期に既に『賢者』の称号を受けていたのだ。勘違いして欲しくないのはアイは決して不正や父親のである大賢者で『賢者』の称号を得たわけではないことだ。
第一不正やコネで賢者になれたとしても、俺達は魔物と戦うのだ。むしろそんなのは危険すぎる事柄である。よほどの自殺願望でもない限りそんなことはしないだろう……しないよね?
「なーにブツブツとわけのわかんない設定を言ってるのよ! ケンジャっ!!」
「べ、別に俺の勝手だろ……」
どうやら心の声が世の中に(ネット小説として)配信されてしまっていたようだ。
「聞こえてるわよ! そんなのはマイチューブあたりで囁きなさい!!」
『再生回数……5回とか……ぷっ』
「何でマイチューブで俺の醜態を配信せにゃならんのだ。ってか聞こえてんぞ、そこの魔法の杖っ!」
俺はアイが愛用している聖杖シルヴィアに苦言を示す。
『内3回は自分で回してるとか……』
(……なんだろう、残り2回の再生回数は魔法の杖なりの優しさなのだろうか?)
「うーん……はぁ~っ。ただのワンドにすら、バカにされるとか……俺はどんなんだよ?」
「……学園男子生徒Nとか?」
『……名前がモブとかワロスワロス(笑)』
アイとその魔法の杖のコンビネーションは抜群だった。もう明日あたり芸人コンビとしてデビューしても何ら不思議じゃない。ってか『N』って……それはもう完全に複数人の雑音専門だろ?
「ってそんなケンジャの設定なんかどうでもいいのよ! ほら早く着替えないと学校に遅刻するでしょ!!」
アイは優等生である自分が遅刻はできないと、俺の事を急かすのだが、
「いや着替えろって言われても……服が炭いや、既に灰になってんだけど……どうすりゃいいんだよ?」
俺はアイの最上級の魔法を受け髪の毛だけでなく、体にかけていた布団やベッドシーツ、果てはハンガーに掛けてあった新品の正式賢者の服まですべて黒コゲのチリチリ仕様になっていた。
「(ってかSランクの攻撃魔法を部屋の中でぶっ放すなよな。下手すりゃアイ自身も黒こげ……)」
「あっ、私自身にはシルヴィが自動魔法防御壁かけてくれる平気なのよ。ね? シルヴィ♪」
『イエスマスター! ワタシは今現在世界最高峰の能力を持ち、現大賢者さま(=アイのパパ)が愛用されていた伝説の『聖杖シルヴィア(声だけのドヤ顔)』です! 主を守ることくらい造作もないことです』
「……いや、俺の魔法の杖にはそもそもそんな高度な機能付いてないし……あとさ『()』で括っている所は俺の心の声なわけで、アイ+シルヴィア勝手に読解しないでくれるかな?」
「もう炭でも灰でも粉末でも、なんでもいいからさっさと着替えなさいよ! アンタのせいで私まで遅刻しちゃうでしょうがっ!!」
『ちょっおまっ(笑)自動魔法防御壁すら付いてないワンドとか(笑)てめぇどんだけ安物のワンドを使ってやがんだよ(笑)あんまり面白いこと言って笑わせないでくださいよ(笑)』
揃って俺の心の声の件無視しやがって……もうほんとコイツら嫌いだわ。
そうして俺は奇跡的に無事だった前の賢者見習いの服を灰の中の底から発見した。
「新品が灰になって、古いのは灰まみれかよ。……これを着ろと?」
「あ、アンタが悪いんでしょう! 大体ケンジャはまだ『賢者見習い』のクセに正式賢者の服なんて買ってるのが悪いんでしょうが! はぁ~っ……一体何着買ってるのよ」
『マスターマスター。見習い如きには格好を真似るくらいしか楽しみがないのですよ。レプリカとか……テラワロス(笑)もはや草が生えまくって代草原になりましたね。てめぇのおかげで光合成しまくりで、温暖化対策にも役立ってます(笑)』
……俺がワンドに扱き下ろされるのはもはやデフォルトだよな。
このままじゃいつまでも物語が進まないからと、アイは『風の精霊』を召喚してくれた。
「我ノ契約ニ従イテ、汝ソノ力ヲ用イテ風ヲオコシタマエ、風の低級精霊!!」
アイの詠唱が終わると、『ぽん、ぽん、ぽん♪』っとなんとも気の抜けた音がして、緑色を基調にした小さな小さな手のひらサイズの女の子が3人……いや3体が出てきてくれた。
「風の低級精霊、ケンジャの服に付いた灰をアナタの『力』で綺麗にしてちょうだい!!」
アイの言葉を聞き『コク、コク、コク』っと3体の精霊達は三度頷いた。
『ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~』っと小さな小さな女の子のお口から風の低級精霊お得意の『精霊達の囁き』が出てきた。
「(……何度見ても低級精霊の姿は見慣れないわぁー)」
『ふ、ふぅーすぅ、ふ、ふぅーすぅ、……』っとまだ呼び出されてから1分もせずにもう疲れたのか、それがそよ風なのか、はたまたただの溜め息なのか見分けがつかなかった。
「(ってか3体目息すらしてないけど、大丈夫なの??? これはもう服の裾でも持ってバッサバサっと灰を落とした方が早いような……)」
とは腐っても同じ賢者(見習い)で、いずれ精霊を召喚するであろう俺はこの理についてだけはツッコミを入れられなかった。
そして精霊達から何やらブツブツと聞こえてきたので、よぉ~く耳を澄ませると、
『(もう無理もう無理、はっこんな安い時給でやってらんねぇ。いつか労働基準監督署に告発してやる!! 、……)』
などと、たぶん精霊達が囁いているであろう囁きが聞こえるような気がした。……だから3体目は大丈夫なのかよっ!?
その際『まったくもうケンジャは、いつまで経っても私がいないとダメなんだからね!!(///∇///)』っとなんか知らないけど照れながらに世話を焼いてくれた。俺は精霊の力で綺麗になった服を手にとり早々に着替えると、急いで自分の魔法の杖を持って家を出た。
「ケンジャ! このままだと完全に遅刻しちゃうから『天使の羽(飛行魔法)』で行くしかないわよ!!」
「……いや、そもそも俺持ってねぇし!!」
「ちょーっ!? ケンジャまだ習得してなかったの!?」
アイのヤツは酷く驚いていたが、飛行魔法はかんなり高度な魔法で超最上級魔法の一つに数えられている。何故なら扱う者には『並外れた集中力』と共に飛行を継続できる『安定した魔力』が必要だからだ。もし途中で集中力や魔力が切れた場合には落下して確実に死ぬことになるだろう。そもそも魔法学校でも生徒ではアイくらいしか扱えない。先生中でも一人くらいしか扱えない者はいなかったはずだ。それほど飛行魔法は高等な魔法なのだ。…………これだから才能ある天才肌は嫌になる。
『持ってねぇとか何威張ってんのコイツ? ちょー腹いてぇー(笑) マスター、この男を超近距離衝撃魔法で空に飛ばしましょう♪ それなら時間も大幅に短縮できるので、遅刻しないかもしれません!』
「……そうね……そうよね!!」
「(本人確認もせずに、何結託しやがってんだコイツら!? そもそも魔法の杖に腹とかあんのかよ?)」
「我ノ契約ニ従エ、魔導書グリモワールヨ、汝ソノ力ヲ用イ…」
「ってアイもアイで、何魔導書まで呼んで真剣で詠唱してんじゃねぇよ!!」
『ちっ……』
はぁはぁ、はぁはぁ……息を切らせながら俺はツッコミを入れ……っておいそこのワンド風情がナニ舌打ちしやがってんだよ!!
「もういいから走るぞ! マジで遅刻する!!」
俺はこのままでは会話の繰り返しになるとアイの右腕を掴み走り出した。
「あっちょ…け、ケンジャっ待ちなさいよ!!」
途中アイが何か言っていたが、走るのに夢中で素知らぬフリをした。
そうして野外商店が並ぶエリアに差し掛かると、
「おーいケンジャーっ!! 今日も夫婦そろってアツアツだねぇ~♪」
「あらあら、今日は二人そろって逢引かしらぁ~、私の若い頃なんて……」
「リア充……許すマジ!! (ポスターぶん回し)」
などと、いつも果物や野菜などを買っている商店のおっちゃんやおばちゃんやらが、手を繋ぎ走って登校するオレ達を冷やかしめに声をかけてくる。……あとさ、なんか今オタクが混じってなかったか???
「け、ケンジャ。ほら私と手なんか繋いでたら……その、か、勘違いされちゃうでしょ? ……だから手を離してよ!!」
っとアイは言うのだが、繋いでいる手を離すどころか……逆に『ぎゅっ♪』とより強く、そして離れないよう握り締めてくれた。
「ケンジャ……そ、その……」
「……ん?」
「手……離したほうが……いいかな?」
「いや、別に。このままでもいいかな。アイはさ……どうなんだよ? (照)」
「私? ……私も、……別にこのままでもいいかな。……なんてね(照)」
俺はアイと繋いだ右手を先程よりも少しだけ強く握り締めた。
「(テレテレ)」
「(テレテレ)」
照れやらなんやらで暫し無言で……と言いつつ製作削減の為に効果音を自分たちで口ずさみながら、アイと一緒に商店街を走った。
少しバランスを崩したアイの手を引っ張り、やや強引に自分の元へ引き寄せ転ばないようにする。
「……んっ♪ (ほら気をつけろよ♪)」
「……あ、うん♪ (もう分かってるよ♪)」
ただそれだけで、まるで通じ合ったかのように、頷き何かを納得するお二人さん。……なんだこのラブコメ展開!? 本気で許すマジだよこれはっ!! by作者
『マスター危険です! このままこの男と手を繋ぎ続けると妊娠してしまいます!!』
その静寂を破るように、またまるでモテない代表格の作者の願いを受け入れたかのように突如として今まで黙ってたシルヴィアが喋り出した。
「手を繋いだだけで妊娠とか……俺はどんなヤツなんだよ」
俺は溜め息交じりにそう口にする。
「最近さ、ケンジャのせいでシルヴィがどんどん口が悪くなってるんだけど……」
「俺のせいなのかよ!!」
なんでもかんでもオレのせいにしやが……、
「だってケンジャがシルヴィに無線通信に繋いだのが原因でしょ?」
(……あ、はい。オレのせいでしたー)
「あ~……あははははっ」
俺はは心当たりがあり、笑って誤魔化そうとするのだが、
「ネットに繋いでるせいで、シルヴィがどんどん余計な言葉ばかり学習するんだもん!」
だがしかし、アイ先生は逃がしてくれませんでした。
「いや、ほらだって……魔法の杖にネット繋がったら何かと便利だと思ったんだよ」
アイは『そりゃ……確かに便利だけどさ』っと会話を打ち切……、
『ぷぎゃぁぁるるぅぅ、ふぁ~お! ふぁ~おっ!! おおっ! おおうっ!! バロサン! バロサン!! ……おかぁ~さぁ~ん♪』
……ろうとしたら、シルヴィアが狂ったように叫びだした。
「ほらほらぁ~っ! やっぱりシルヴィおかしくなくなってるじゃないの! 早くなんとかしなさいよね!!」
アイは口を尖がらせながら、『ほれ見たことか!?』っと俺に文句を言ってくる。
「てめぇ絶対にワザとだろ!! いきなりそんなネットスラングみたいな言葉使うわけねぇだろうがっ!?」
(何で黒いアイツに対するバロサンとか……大体なんだよ『おかぁ~さぁ~ん♪』ってのは? ワンドに母親がいんのか? ワンドの製作者さんを指す隠語なの? ご丁寧に最後♪まで付けやがってからに! もしかして味噌のCMなの? ネットであれからネタを引っ張ってきたのか???)
俺は出来うる限りのツッコミを入れることで冷静さを取り戻そうとする。
『……イッタイ、ナンノコトダカ、ワタシニハ、ワカリマス』
「(なんでいきなり機械声になってんだよ? ……って解ってんじゃねぇかよ!!現在閲覧者総ツッコミ)」
俺は物語の主人公だけが持つことを許された、伝家の宝刀『GEST』を使ってしまうほどだった。
『うっせー、このやろー。ツッコミなんか入れてねぇで、さっさと第2話を執筆しやがれてんだ!』
「(……それは物語の主人公に対して言ったんだよな? ……いや他に誰もいないけどね)」
ふと周りを見渡したが、アイの他には誰も……あっいや、商店街なんでちらほらは人がいたね。たぶんシルヴィアはそこらで準備している店主に言ったのだろう。……そうに決まってる。
「なぁアイ。コイツ初期化した方がいいんじゃねぇか?」
『ビービー! 名前が記号風情がナニを言いやがる! ざけんじゃねぇぞこのやろー。……マスターこの男、超最上級魔法で存在ごと消してしまいましょうぜ!』
何故だかシルヴィアは小者っぽく振舞い始めた。
「いいのかそれで? 一応は『魔王』を倒し、教科書にも載ってるほどの伝説の魔法の杖なのに……なぁアイ?」
俺はワンドがこんな状態で本当にいいのかとアイに聞く。
「うーん……さすがにこれはちょっと、ねぇ~。また『道具屋』に売ろうかしら」
アイは考えるように『このままじゃダメよね?』っと言ったような態度をとるのだったが、
『マスター! マスター!! たった今直りました! ワタシ、モウ、ダイジョウブ、アルヨ♪』
「何で似非中国人みたいな口調になってんだよ!? 全然大丈夫じゃねぇよ……ってかこの伝説の魔法の杖を『道具屋』で売ったのかよっ!!」
俺はもうすべてのボケに対して突っ込まずにはいられない。
そんな俺を尻目にアイは平然とこう言ってのける。
「ああ、そもそもシルヴィは大賢者さまがそこらの『道具屋』で3シルバーくらい買ったのよ」
っと冗談なのか、本気なのかよくわからない事を言い始めていた。俺は魔法の杖は『武器』だと認識していたのに『武器屋』どころかまさかまさかの『道具屋』で売ってたとは。しかもたったの3シルバーってマジ話なのかよ……。
ちなみに3シルバーとはこの世界での通貨単位で、価値としては……うーん、俺が持ってる最低のDランク(注意書きで、これは『武器』ではありません。ジョーク商品です。のタグあり)の魔法の杖で100シルバー程はする。もしも伝説的なSSランクの武器だと軽く100万シルバーはくだらないだろう。それがたったの3シルバーだとアイは言った。道具屋でやくそうが一つが6シルバーなので半分しか買えない事になる。
「この魔法の杖……もう欠陥商品じゃねぇかよ」
(よくこんなので、大賢者さまは魔王を倒したよなぁ……)
「……ってかよくそんなのを『道具屋』で見つけたな!?」
「確かパパの話だとスティック・チョコの中にあったとかなんとか」
「はっ? す、スティック・チョコってアレだろ? 子供が食べる魔法の杖の形をした手のひらサイズのチョコレート……」
「そうそう~♪ 懐かしいわよねぇ~」
っと子供の頃を懐かしむアイさん。
「いやいや……デカすぎんだろうが!!」
もう俺は突っ込まずにはいられない。だってチョコだぜ? しかも手のひらサイズの中に混じって入ってるとか。大体ワンドはアイの身長くらいはあんだぞ? そんなのが子供用のお菓子として箱の中に入ってたら違和感ありまくりだろ!?
「はぁはぁ、はぁはぁ」
俺はツッコミのしすぎで、もう体力ゲージがマイナスになりそうだった。
『まま、人生色んなことがあるもんさ……ぽんぽん』
アイが持つシルヴィアに慰められるように言葉で肩を叩かれた。
「……いやいやこの場合、立場逆だろ?」
……いや、逆でも無かったわ。
『それはそうと、マスター。とっくの昔にチャイムが鳴ってますけど……』
「……ケンジャ! このままだと完全に遅刻しちゃうから……」
「アイ冒頭のセリフを言ったからって、時間はそこまで戻らないぞ」