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夏のホラー2017に参加したくて書きました。

時間に余裕がないので推敲をできていないのですが、ご容赦ください。

「ねぇ、パパ。そうちゃんのはないの」

 それは、ドリームランドが閉園したと聞いたときに思い出した一言だった。同じマンションに暮らすママ友の数人を我が家に招待してお茶会を開いた時のことだ。もうすぐ11歳になる子供達の話から始まり、先生の噂やここにはいないママ友の噂などを話して話題が尽きかけた時になんとなく上がったのが、ドリームランド閉園の話だった。

「知ってます?あそこのメリーゴーランド。夜中に動いてるそうよ」

 誰もいないはずの真夜中にメリーゴーランドだけが、明かりがついて動いていいる。しかも、子供のような笑い声が聞こえるらしい。閉園した理由の噂という程度の怪談が始まる。共感とも同意とも取れない相槌が繰り返されながら話は進んだ。

「ミラーハウスから出てきたら、別人になったんじゃないかってくらいに性格が変わった人もいるそうよ」

 不思議なこともあるものだと冷めた笑いが広がる。話が怪談になっていくのが怖いのではない、たいして興味がないのをごまかしているのだ。

「子供がいなくなるって噂もあったわね。」

「そうねぇ、ほんとだったら怖いわ」

「本当よね。閉園してよかったんだわ」

 かつて、ゴシック誌でも取り上げられたことがあるドリームランドで行方不明になった子供がいるという話題になると、急に感情がこもる。過ぎた出来事とはいえ、子供に関係のある話題だ。親としては他人事ではいられない。

「ただいま。ママ、おやつあるぅ」

 再び、盛り上がりを見せ始めたママ友会だったが、玄関の開閉の音がした後、帰ってきた息子の間延びした一言で急速に萎んでいった。いつの間にか、子供が帰ってくる時間になっていたのだった。

「健太、お母さん達に、あいさつしなさい」

 帰ってくるなりキッチンへ向かう健太を軽く叱る。健太は、軽い会釈とともに、「こんにちは」と、小さく言った。

「こんにちは、健太君。おばさんたちはもう帰るから」

 ママ友たちは、身支度をすると思い思いに言葉をかけてから、帰っていった。ママ友を見送った後、冷蔵庫を開けておやつがないかと物色を始める健太を眺めながら息子の友達だった「そうちゃん」について思い出していた。

 私が、そうちゃんに初めて会ったのは、健太が4歳になる誕生日の少し前だった。私には見えなかったのだから、会ったと言う表現は違うかもしれないが。

「ママ。こっちにそうちゃん、こなかった?」

 保育園に迎えに行って来てから、リビングで遊んでいた健太が、夕食の準備をしていた私に尋ねた。今日は、誰も遊びには来ていないはずなのと、そうちゃんと言う聞き覚えのない名前に、反応ができず思考が止まる。

「そうちゃん、きてない?」

 反応がなかったことで、聞こえなかったと思ったのだろう。健太がもう一度尋ねてきた。ずっと1人で遊んでいたはずの健太を不審に思った私は聞き返す。

「そうちゃんって、新しいお友達?いつ来たの?」

「ずっといっしょだよ」

 何言ってるのママ。と健太が不満を(あらわ)にする。保育園から一緒に帰ってきたというのだろうか。私と健太以外には誰もいなかったはずなのに。私の知らない何者かが家にいると思うと不安が沸き上がり、背筋がぞっと氷付く思いだった。

「あ、そうちゃん。どこにいたの」

 健太が振り返ると子供部屋の方へと歩いていく。誰かがいるかのように言葉を放つ健太の視線の先を追いかけるが誰もいなかった。健太を追いかけて話を聞こうと思ったが、火にかけた鍋の煮立つ音を聞いて慌てて火を止めると、夕食の支度に戻った。

「ねぇ、健ちゃん」

 残業で遅くなる旦那を除いた夕食の席で、私は健太に尋ねる。「何、ママ」と、右手に持った、まだ上手に扱えない箸に四苦八苦していた健太が顔を上げる。

「そうちゃんってどんな子なの?」

 そうちゃんと言うのが誰なのか、聞きたくない思いもあったが、健太と目線を合わせて尋ねる。

「そうちゃんはね、そうたくんっていうの」

 そうた。私は、その名前を聞いて、箸を落としてしまう。そうたというのは、健太の死んだ兄と同じ名前だ。慌てて拾った私をよそに健太は話を続ける。何が好きなのか、嫌いなのか、何をして遊んだのかなどと健太は楽しそうに話してくれる。もしかして、健太の話している「そうたくん」は、「奏太」のことなのではないか。そうたと言う名前に支配された私の思考は、健太の話を取りこぼしていた。

「奏太は、私のことを恨んでいるかしら」

 健太を寝かしつけた後、帰ってきた旦那に、かつて幾度となくぶつけた言葉をつぶやく。夜食と言ってもいいような遅い夕食を食べていた旦那は、少し驚いたような表情を見せた後で、神妙な顔つきになる。

「何かあったのか」

 尋ねてきた夫に対して、健太がそうたと言う名前を口にしたことを話した。健太と遊んでいたこと、私には見えないことを含めて話す。

「双子は感覚を共有するとは言うけど、奏太はもう……」

 旦那が言葉を濁した。健太の双子の兄、奏太が死んだことについて、私がどれだけ後悔したかを知っているから、気を使ったのだろう。

 奏太と健太は、双子として生まれた。奏太が1400グラム、健太が1300グラムの低出生体重児だった。妊娠してからの経過は順調だったが、私は、体重が20キログラムも増加したことが嫌で、ダイエットをしてしまった。周りにいたママ友は、せいぜいが10キログラムの増加だったため痩せなければいけないと思ったのだった。簡単な運動と食事制限によるダイエットをした。双子だったのだから気にすることではなかったのだろうと今は思う。30週が近くなった頃、入院を勧められた。双子の出産は、リスクが高いため病院で管理をするためらしい。早産になりやすいので安静にしていないといけないと聞いて少し後悔をした。その後悔が出産後に大きくなってしまうのだ。双子の出産は早産で、34週に破水をした。1500グラム未満の極低出生体重児として生まれた奏太と健太は、生まれてすぐに保育器へと入れられた。

 それから、1週間がたった時、病室で暇を持て余していた私が双子の顔を見に行こうとベットから降りた時のこと、健太の呼吸が止まったと知らされた。急いで向かったが、私が付いた時には、奏太の呼吸も止まっていた。ショックと後悔に襲われた私は、その場で泣き崩れてしまう。どうして、あの時体重を気にしてしまったのか、ダイエットのためにと運動をしなければと、もしもあの時といった後悔ばかりが頭をよぎる。私が泣きつかれたころ、健太の様態は安定したと聞かされた。しかし、奏太は息を吹き返すことはなかった。

「子供の時には、見えない友達がいるんだって」

 出産の時を思い出して気分が暗くなっていた私に、同僚から聞いた話だと前置きをしてから旦那が言葉を掛けてくれる。だから、心配ない。健太が何かの病気や障害でもないし、奏太が化けて出たわけでもないと私が安心できるようにやさしく肩を抱かれた。私は、奏太なら化けて出てもいいと思う。旦那にこれ以上心配かけないように言葉にはしないが。

「今度の休みに、ドリームランドに行こう。会社で割引券をくれたんだ」

 健太の誕生日も近いし、気分転換もかねてと旦那が話題を変える。次の休みについて話しているうちに不安な気持ちが少し軽くなっていた。

「ドリームランド、楽しみだね。」

 旦那が入園チケットを買いに行っている間に、健太と話をしていた。初めての遊園地にそわそわと落ち着かない健太は、あっちこっちと視線を彷徨わせていた。

「そうちゃんがね、メリーゴーランドに乗りたいんだって」

 周りを見渡していた健太が私の方を向き直って言った。そうちゃんの話をする健太にドキッとする。

「そっかぁ、健太はどれに乗りたいの?」

 顔をのぞかせた不安を押しのけるように健太に話しかける。何がいいかなと、考え始める健太と一緒にアトラクションの名前を挙げていると旦那が戻ってきた。これが健太のとチケットを手渡している。

「ねぇ、パパ。そうちゃんのぶんはないの」

 チケットを手渡した旦那に無邪気な笑顔の健太が尋ねる。奏太が一緒にいるのかと思わず見回してしまった。見えるはずがないことに思い至ってから怖気(おぞけ)を感じた。

「そうちゃんは、ママと一緒だよ」

 ドリームランドに入ってしまえば、そうちゃんのことなんか気にしないくらいに楽しく遊ぼうととりあえず入ってしまえばいい。と、考えて健太を納得させるために言った。旦那が心配するように視線を寄こすが、大丈夫だと頷く。

 私の思惑通り、ドリームランドが楽しいようで、健太はそうちゃんとは言わなかった。私も安心してはしゃぐ健太や振り回される旦那と一緒に楽しい時間を過ごしたはずだった。

「そうちゃん」

 と、健太がミラーハウスの鏡に向かって手を振った。

「健太の友達なのか」

「そうだよ。ぼくとそっくりなんだ。かがみをみているみたいなんだよ」

 旦那が、そうちゃんについて尋ねると、驚く答えが返てきた。そうちゃんは、やぱっり、奏太だったのだ。健太は鏡の向こうにいる分身に話しかけている。そんな様子を見て、私は、健太の肩をつかむと振り向かせた。

「なんで、なんで、そうちゃんなの。奏太がいるの」

「おい、やめろよ」

 旦那に止められて、健太を強く揺すっていたことに気が付く。健太は、驚いた表情をしていて、今にも泣きだしそうだった。私は、健太の肩に置いた手を放すと背中に回して健太を抱きしめた。健太の体が小さく跳ねる。さっきのことがよほど怖かったらしい。

「ごめんね、健太」

 私は、かすれた声で謝った。「いいよ」と健太が頭をなでてくれる。それだけで私の不安は、小さくなっていった。ミラーハウスを出た後は、また、楽しい時間を私たちは過ごした。そして、遊び疲れた健太が眠ってしまったので、ドリームランドを後にしたのだった。

「これ食べていい」

 冷蔵庫を開けたまま、こちらを振り返って健太が聞いて来た。思い出の中のかわいかった息子から少し生意気になった息子へと意識を向ける。健太は、大好きなプリンを2つも持っていた。

「いいけど、2つも食べる気なの」

「1つは、そうちゃんの分だから」

 健太の4歳の誕生日が過ぎてからは聞くことのなかった「そうちゃん」という名前を息子が口にしたことに悪寒が走ると同時に、変な汗をかいていた。

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