其之七
後書きに、裏秘話を載せてみました(^_-)-☆
「なあ、巴樹。お前、これまでで何か変わった経験をしたとかそういうことはあったか?」
「…………ほへ?」
不思議な質問に、巴樹の口から変な声が漏れる。
「い、いや…特にござらないでござります……。」
驚きすぎて口調がおかしくなっている巴樹。
ふふっ、と笑う御津葉と奈濟さんを無視して、きいは階段のある方向へ向かう。
「えっ?えっ?」
「ありがと、じゃあ、ご飯の時間になったら呼んで。」
のんびりーとした声音で言われた後、トントントンと段を上る音がして、辺りは一瞬にして静かになった。
その時、三人はほとんど同時に同じことを思った。
((きいくん(きいって、たまによく分かんない!!!)))
ピンポーン
きいが部屋に戻ってから数時間後。
「巴樹ちゃん、ちょっと出てくれる?」
「了解しました、奈濟さん。」
リビングで、巴樹が奈濟さんとお昼ご飯の準備をしていると、突然チャイムが鳴った。
奈濟さんに言われ、巴樹はお手伝いの手を止めて、玄関へ向かう。
「は~い。どなたで………!?」
玄関の扉を開けた音の後、巴樹の声が途中で切れる。
それに不安に思った奈濟さんも、玄関へと向かう。すると、
「おじゃましても、よろしいですか?」
凛としたその声が、玄関に響く。
二人は二人して固まっていた。
そこには、栗色のボブに黄色のきりりとした瞳をした少女……佳穂がさっきとほとんど同じ格好をして立っていた。
「「ええええええええええええええええええええええ?!」」
巴樹が、本日二度目の「え」の連呼をしたところで、十二時を知らせるサイレンが、ウゥウゥウゥウーと遠くで鳴った。
何事かと寮員が降りてきて、同じように固まっていく。
一番最後にきいが降りてきて、その場の状況を見て言った。
「腹減った。奈濟さん、ご飯できてますか?」
まったく空気を読まないきいに、全員があきれたのも無理はない。
ちなみに。
(ってか、早くパソコンしたいんだけど)
と思っていた、きいだった。
「まあ確かに、このままだとお話がしにくいので、ご飯にしてくださって結構ですよ?」
佳穂の丁寧な口調に、奈濟さんがやっとこさ言葉を発した。
「じゃ、じゃあ、みんなご飯にしよぉか。」
八人が返事をして、それぞれの席に着く。
「なあ、きい。」
きいの隣に座った寮員の一人、井上源人が耳打ちしてくる。
「なに。」
「どうやってあんな有名人と仲良くなったんだ?すっげーじゃん。」
興味津々の瞳の源人を一瞥すると、きいは前を向いて言った。
「知り合いたくて知り合ったわけじゃない。」
そのぶっきらぼうな言い方に慣れている源人は、気付かれないようにくすりと笑った。
今日の昼ご飯は、カレーライスだった。
「それで佳穂さん。お話とは?」
源人の言った通り、有名人が一緒にいるということで、リビングの空気はどこか緊張感があった。
「睦月寮の皆さんに、協力していただきたいんです。」
佳穂がスプーンを置いて語りだした。それは、ここ最近のある「異変」についてだった。
「最近、クラが強弱問わず、全国各地に多数現れています。
私たち聖龍士も原因究明に全力を尽くしていますが、なかなか手がかりを得ることができません。
この異変の解決には、クラの出現状況・成分などの情報を集めることが必要となりました。
そこで、龍精の集まる、この睦月寮の皆さんと二十七族生の龍精に収集をかけて、情報を集めてもらおうと考えたんです。
さすがに、聖龍士のみでは大変な作業になるんです。
どうか、お力を貸していただけませんか?」
話が終わると、きいの左隣に座る、新草レナが口を開いた。
「あの、佳穂さん。それで、私たちはどうやって情報を集めればいいんですか?」
その質問に、佳穂は分かっていたかのようにすらすらと答えた。
「クラと戦っていただいて、その後に残る『黒玉』を集めていただくだけでいいんです。それを、私や聖龍士に渡してもらえば。」
にっこりと微笑んで、佳穂は続けた。
「どうかよろしくお願いします!」
ぺこんと頭を下げる佳穂に、きい以外の全員が戸惑いを隠せずにいる。
すると、黙っていたきいが口を開いた。
「いいじゃん。受ければ。黒玉を集めればいいんですよね?」
いつもと変わらないまなざしで、きいは、顔を上げた佳穂の瞳をまっすぐに見る。
「ええ。その通り。」
コクンとうなずく佳穂。巴樹もきいの意見に同意するように言った。
「私も、きいくんと同じ意見です。いい戦闘訓練になるんじゃないですか?」
みんなに問いかけるように聞くと、全員が首を縦に振った。
「そうだよね!聖龍士さんのお仕事に協力できるなら!」
「ああ。巴樹ちゃんの言う通り、いい経験になる!」
「受けようよ!この話、ね!」
ワーワーと口々に賛成の声が上がる。
奈濟さんが立ち上がって、佳穂に頭を下げた。
「佳穂さん、このお話、喜んでお受けさせていただきます。」
「!皆さん、ありがとうございます!」
花開くように笑うと、佳穂は言った。
「期間はこの一週間でお願いします。できるだけ多くの情報が必要ですので、よろしくお願いします!」
もう一度佳穂は頭を下げると、席に着いた。
「それじゃあ、いただきます。」
少し冷め始めたカレーに、みんなが手を付けた。
しばらくの間、皐月寮には楽しげな話し声が響いていた。
【ドラすく裏秘話】
実を言うと、当初のきいの性格は、「しっかり×照れ屋」で、明るい感じに書こうと思ったんですが、やっぱりいつものくせで、口数の少ないクールな感じに。結局、「クール×しっかり×照れ屋」になりました……。難しいです……<m(__)m>