其之五
今日は、なんだかヤンデレの怖さを思い知りました……
やっと本編に入った感じがします!
「おはよう!きいくん」
「よ。」
寮から出てきたきいに、巴樹が声をかける。
「今日は、どこかに出かけるの?」
相変わらず無愛想なきいだが、巴樹がやってきてから、早一週間。
やっと敬語から離れられた巴樹のおかげか、きいは、少しずつ女子とも話すようになってきた。(だが、相変わらず、話す時は距離を置いていて、しかも口数は少ないが。)
「ああ。また佐久兄に呼び出されて。…巴樹も来るか?」
「うん。行く!」
笑顔でうなずいた巴樹を連れて、きいは歩いて、寮から五分ほどの距離のカフェへ向かう。
「それにしても、最近よく呼ばれてるね、佐久さんに。」
「確かに。しかも、近頃クラがよく出没してる。」
難しい顔をしてきいが考え込むきい。
その通り。
前は四日に一体ほどの確率で、少し強力なクラが現れ、たまに雑魚クラが出てくるほどだったが、最近は、二日に一体の確率で少し強力なクラが出現、また、雑魚クラの出現も活発化してきている。
今朝も、きいは二体ほど祓ってきたばかりだ。
「まあ、後々解決するでしょうね~。」
のびーっとした声で、巴樹が言う。
(呑気だなぁ、巴樹は……)
きいがそう思ったのも無理はない。
まもなく、呼び出されたカフェに着いた。
「おーい、きい。」
先についていたらしい佐久が、二人の姿を見て、手を振り合図をする。
「佐久兄、なんの用事なの?今日は。」
何度も呼び出されることに、きいはそろそろイラついてきていた。
「今日は、ちょっと聞いて回ってるんだ。」
「誰を、ですか?」
巴樹が、頼んだコーヒーのカップを手で持って温まりながら聞く。
「えっと、栗色のボブに、どっか真面目そーな黄色の目をしたやつ。知らねーか?」
二人は、佐久がいったその人を、必死に記憶をたどって探すが、まったく見当たらない。
ふるふると首をを横に振ると、佐久はがっかりとした表情になった。
「そいつがどうしたんだ?」
ときいが聞くが、佐久はあいまいに笑って立ち上がった。
「じゃあ、見かけたら教えてくれ。よろしくな。」
会計を済ませると、佐久はいそいそと帰っていく。
「珍しいなぁ、佐久の話しがこんなに短いなんて。」
きいがココアを飲んで言う。
「そういえば、なんだか嫌~な雰囲気をさっきから感じるな……。」
きょろきょろと周りを見渡しながら、巴樹がつぶやく。
きいも、つられて見回すけれど、巴樹の言う「嫌~な雰囲気」は感じられなかった。
「そうか?」
「うん……。」
真っ青な顔で巴樹は立ち上がる。
「そろそろ帰る?」
「そうだな。佐久兄もいなくなったことだし。」
誰もいない向かい側の席に向かって、きいは手を合わせて、小さく「ごちそーさま」とつぶやいた
カフェの外に出ると、少し空が曇ってきた。
「なんだか、雨が降りそうな予感……」
空を振り仰ぎ、きいがつぶやく。
「じゃあ、早く帰ろう!」
と、巴樹が走り出した、その時。
ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ…………
ものすごい鳴き声をあげ、真っ黒の化け物が目の前に現れる。
見慣れた姿。クラである。
だが、大きさはあまり大きくなく、隣にある二階建ての家ぐらいの大きさだった。
でも、巴樹を驚かす材料には十分すぎるものであった。
「ええ?!」
さっと後ずさる巴樹の前に、刀を構えたきいが立ちはだかった、その時だった。
ヒュン
クラの頭を一本の矢が通り抜ける。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
その瞬間、物凄いうなり声をあげて、パチンッとクラが、空気に溶けるように消えていく。
「「え………!?」」
二人があっけにとられていると、突然目の前に、音もなく人影が現れた。
「ひっ!」
「な?」
まるで忍びのように現れたその人は、よく見ると、手には弓を持っている。
どうやら、さっきのクラを祓ったのは、その人のようだ。
だが、あいにくフードを被っていて、よく顔は見えない。
「誰、ですか?」
こわごわと巴樹が聞くと、その少女はゆっくりとフードを取って、言った。
「こんにちは、お目にかかれて光栄です。」
栗色のボブヘアにキリリとした黄色の瞳。巴樹より少々高い身長。二人より、一つか二つほどしか変わらなそうな歳をした少女だった。
その少女は、一度言葉を区切ってから、続けて言った。
「封じの姫、巴樹様。」