其四十五
久々にある人が登場です!
そして、こういう系のありがちな場面です苦笑
刹那
光のような速さで、ゆっくりと落下している巴樹の下をくぐる影がある。
新たな獲物を今か今かと待ち構えていたクラ達は、その赤い眼を大きく見開き、驚きの表情を見せる。
そこには、巴樹の姿はなかった。
目を開いた巴樹の目に映ったのは、見慣れたあきれ顔。
「あのさぁ、無理すんなって前言ったでしょ。」
いつもと同じ、ちょっとそっけない言葉に、凛とした低い声。
思わず、巴樹はぎゅっとその体に抱きついた。
安心と恐怖が、巴樹の体を駆け巡る。
「うううっ……きいくぅんっ!」
「そんなに泣くことか?」
と、冷たい言葉をかけつつも、きいは優しく巴樹の頭をなでている。
ひとしきり泣いた後、巴樹は顔をあげてきいを見た。
「ケガは大丈夫なの?」
「だいじょーぶ。よく寝たから。」
「ふわぁ、良かったぁ………」
小さく笑ったきいを見て、ほっと息をつく巴樹。
息をつき、そして、そのまま下を見てしまった。
「にょええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
そう。
二人は宙に浮いていたのだ。
「あ、やっと気づいた。」
いたずらっぽくきいが言う。
素っ頓狂な声をあげ、巴樹はきいの体から手を放してしまった。
………放してしまったのだ。
声にならない声をあげ、体が落ちていく。
だが、ふわっ、と今度は体が浮き上がり、ほっとまたもや息をつく。
「ったく。子供か、お前は。一応高1だろ?しかも、風龍なら、風操れよ。」
「とっさにできたらやってるよ!!」
そこで、巴樹は大事なことに気が付いた。
「え?なんで、きいくんは浮いてるの?」
「今頃か?」
その問いに、きいは、はあーとため息をついて、言った。
「俺が何の龍精か、覚えてる?」
「えっと、空天龍、飛龍精………あ。」
きいの龍………飛龍は、宿り主に飛行の力を持たせることができる。
実は、これは二十七族生の龍精のみに共通することだが、巴樹やきいのように、龍の種類によっては、宿り主に、龍の力が宿ることがある。
巴樹の風龍が属する五行龍の五匹は、五つの相反する力を、絶対にそれぞれの主に宿らせる。
他にも、何種類かの龍の力を持つ龍精はいるのだが、後々分かってくるであろう。
「正解。巴樹の想像通りだよ。」
にやりと笑い、きいは言う。
ゆっくりと降下して行き、茶色い屋根の上に降り立つと、きいは巴樹から手を放す。
「ありがと。きいくん。」
にっこりと微笑んで、きいにお礼を言うと、ちょっとそっぽを向いて、きいはぼそぼそと言う。
「……………別に。」
最近、巴樹はきいの「別に」発言には、二つの種類があることに気が付いていた。
まず一つが、詮索されたくない時。または、隠し事をしている時。
こういう時は、迷惑そうに、すぐに目をそらしてしまう。
もう一つが、照れている時。
そういう時は、さっきのように、ちょっとだけそっぽを向いてぼそぼそとしゃべる。
かなり見分けがつきにくいが、よくよく見ていると分かるようになる。
だから巴樹は、さっきの「別に」が、照れているということに気が付き、思わずにんまりと笑ってしまう。
「………なに笑ってんの。」
いかにも不満気な顔をするきい。
「ふふっ……何でもないよ~」
真逆の楽しそうな表情の巴樹。
すると突然、二人の間に現れる影が。
「なにいちゃいちゃしてんのよ、まったく。」
その鋭い声に、ビクゥッと二人の体が震えあがった。
(げ、幻聴か?!)
(こここここ、この声っ!?)
恐る恐る後ろを振り向くと、にっこりと笑っていない笑顔を浮かべた佳穂が立っていた。
その表情の奥に、黒い部分を感じ取った二人は、一斉に叫んだ。
「「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」」
その叫びに、佳穂はあきれ声で負けじと言った。
「私はクラかーーーーー!!!」
計三人の声は、いまだ闇の中にある伏見町に響き渡っていった。
そして、同じ屋根の上から、もう一つの声も静かに聞こえてきた。
「お前ら、うるさい。」
黒天を持った悠が、ため息をつきつつ、つぶやいた。
「それにしても、どうして佳穂さんは……?」
落ち着いた巴樹が、光輝を持つ佳穂にたずねる。
佳穂は、にっこりと笑って答えた。
「利人さんのおかげだよ。」
佳穂さんの話によると、きいに会いに行った後、佳穂の気龍を応急処置で治してくれたらしい。
あまり時間はなく、もって一時間しか続かないそうだ。
この処置は、副作用がまあまあ大きく、この後の気龍の回復が通常より遅くなる。
「でもね、人手があった方はいいでしょ?だから、術を受けたの。」
その話に、巴樹は心配そうに言った。
「でも……大丈夫なんですか?」
「うん。心配ないよ。」
すると、悠が佳穂にゆっくりと言った。
「………無理はしないほうがいいぞ。」
その言葉に、佳穂は小さく悠の方を見て笑う。
「大丈夫だから。」
「………そう。」
そうつぶやくと、悠は黒天を杖代わりにして立ち上がった。
「それじゃ、開幕始めで一発いっとく?」
にやり、と不敵に佳穂は笑い、光輝を構える。
「そーね。」
そう言うと、佳穂は巴樹の方を向いて言った。
「巴樹ちゃん。心配ないから。」
その言葉には妙に説得力があった。
巴樹は静かにこくんとうなずく。
それを見てから、佳穂は悠と目を合わせて、屋根から下へ飛び降りた。
ちなみにきいは、しばらく寝てたから、気龍が復活しました。




