其之三
なんだか、たくさん読んでいる方がいるみたいで、とっても嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!
そして、その日一日の授業と部活が終わり、きいは睦月寮へと帰っていく。
「ただいま。」
「おー、お疲れー、きい。」
ダイニングには、寮に住む六人がちょうど揃っていた。
きいは、荷物を自分の部屋に置いてくると、再び一階に降りてきて、寮員達とくつろぎはじめる。
すると。
「みんな~、ちょっといい?」
寮長の奈濟さんが現れて、きい達の前に立つ。後ろには、なんだか見覚えのある金髪の少女が。
そう。巴樹である。
きょろきょろと視線をさまよわせる巴樹の姿を見て、きいが驚きの表情を走らせる。
「今日からこの寮に来ることになった、七橋巴樹さんよ。きいくんと同じクラスなの。仲良くしてあげてね。」
「よろしくお願いします。」
朝と同じように、ぺこりと頭を下げる巴樹。
「巴樹ちゃんの部屋は後で案内するわね。っていうわけで、よろしく~。」
ひらひらーと手を振って、奈濟さんは、荷物と巴樹を連れてどこかに行ってしまった。
あっという間に起こったことに、全員言葉を発する時間もなかった。
しばしの沈黙の後。
「ねぇねぇ。あの子、外人さんみたいだね。」
と言いながら、一人の少女がきいに近づいてくる。
同じ寮員で、中学二年生の御津葉だ。
いつものように少し距離を置くと、きいは言った。
「まあ、かもな。」
それだけ言うと、他の寮員のところへ向かう。
だいたいいつものパターンなので、御津葉は苦笑いしてつぶやく。
「まったく、相変わらずねぇ。」
御津葉はそう呟いて、きいの後を追った。
ピリリリリリ
きいはスマホの着信音で目を覚ました。
「~もしもしー。」
寝ぼけ眼で電話に出ると、佐久の声がきいの耳を直撃した。
「きい!早く来い!」
「!?」
その言葉に、バサリと布団をはがして起き上がる。
「どこ?」
「稲美の方だ。急げ!」
プチッと通話を切ると、きいは光の速さで服を着替えて、窓の上から隣の家の屋根へ飛び移る。
本当はダメなことだが、緊急事態だけ通っている裏道だ。
トンッ
トンッ
トンッ
リズミカルに次々と屋根を飛び越えていくきい。
先ほど佐久が言っていた稲美とは、きい達の住む伏見町の南側に位置する地域のことである。
「あれか……。デカいな。」
きいが稲美に着くと、その橋近くの河原に巨大な真っ黒い怪物が。
「佐久兄!」
急いで近づいていくと、刀を手に怪物と戦う一人の男性の姿が。佐久である。
「きい!こいつなかなか厄介だぞ。」
「了解。」
シュッときいも、腰に差していたきいの愛刀、「空霊」と「天命」を手にして飛び上がる。
「それにしても、なんでこんな朝っぱらから。」
「さあな。だけど、こいつはどうやら『悲しみ』の感情で出来ているみてーだ。」
佐久は「春花」を構え直すと、きいに言った。
「きい、そろそろ人が増え始める。終わらせるぞ!」
「OK!」
二人がほぼ同時に飛び上がると、まず最初に佐久が叫ぶ。
「【花桜吹雪】!」
すると、その瞬間、大きな黒い化け物の周りでものすごい花吹雪が巻き起こる。
化け物達が、花吹雪によって視界を奪われる。
その瞬間を待っていたかのように、どこからかきいが叫んだ。
「【空天霊命】!」
高く上空まで飛び上がっていたきいが、突如ものすごい速さで急降下して降りてくる。いや……
落ちてくる
「はあっ、はあっ…。」
さすがに疲れ切り、大きく深呼吸するきいの肩に、ポンッと佐久が手をのせる。
「おつかー、きい。」
「ったく、毎回毎回強力なクラが出てきたら呼びつけて……。」
『クラ』とは、龍精達と敵対している「黒亜」が、人の負の感情…例えば、「悲しみ」・「憎しみ」・「怒り」・「恨み」・「嫉み」…。
そう言った感情を使って、黒亜が造りだすのがクラ。操る人物の力量によって、大きさや形が異なる。
「まあ~、そのたびにすぐに駆けつけてくれるし。」
「うっ………。」
どきりとした表情になって、きいはぷいっとそっぽを向いた。
「うるせ。」
だが、おかまいなく小悪魔佐久が攻める。
「きいって、たまにツンデレな所もあるよなぁ。」
「っ……。」
「しっかり者だし、頼まれたら断れないし、女子を極端に避けるし。」
「……。」
「辛い物が、人にドン引かれるレベルに好きだし。」
「それはまったくカンケーねーだろっ!」
「女の子っぽい名前を、ちょっと気にしてるし。」
「……何が言いたい。」
「つまり、きいはいい子だってこと☆」
じゃあっ、と言って、佐久は来た道をひきかえしていった。
「なんなんだよ……?」
頬を赤く染め、あきれかえりながらきいも寮へと帰っていった。
きいが寮に着くと、いつの間にか仲良くなったようで、巴樹と御津葉が話していた。
「あれ?お帰りー、きい。」
よく見ると、横には奈濟さんの姿もあった。
「何やってるの?」
そう聞くと、巴樹が笑って言った。
「今、御津葉さんの好きな人のこと聞いてたんですよ!」
「ええ。私は途中から参戦させてもらったの。」
奈濟さんと巴樹が揃って「ねー♪」と御津葉を見る。
「な、ななな、なによ、その目は!!」
慌てふためく御津葉を横目で見ながら、きいは自分の部屋へ戻っていく。
(恋バナの続きは、女同士でやってよね。)
【ドラすく登場人物紹介コーナー】
七橋巴樹
十六歳。A型・身長162,1cm。
五行龍、風龍精
武器 扇「風華」
天然で鈍感、だが明るい性格。
体が少々弱く、激しい運動は避けている。
虫が大の苦手だが、理科の成績は良い方。
前世からの受け継ぎか、封じこめの力を持つ封じの姫。
だが、敬われるのが苦手なので、自分のことを知っている龍精には、必ず自己紹介の時に「巴樹と呼んでください。」と言っている。