其之二
少し長めです。
佐久から話を聞いた後、きいが目を見開いて、ありえない、という口調で言った。
「え?マジで?」
パチパチときいが目をしばたかせる。
「ああ。マジで。」
しゅるしゅると器用におそばを食べる佐久。
「ここの地域にいるの?あの子が?!」
思わず大きな声を出してしまうきい。
話の内容は、二十七族生の龍精にはとても重要なことであった。
二十七族生の龍精に課せられる仕事。
その中の一つが、"捜索"なのだが。
佐久が言っているのは、後者の仕事のことである。
「ごちそうさまでした。」
ガタリと音を立てて、佐久は立ち上がった。
「きい、ちょっとおいで。」
「?」
なんとか食べきったきいも、椅子から立ち上がって佐久の後を追いかけた。
きいの言っていた「あの子」とは、龍精として生まれてきた少女の中の一億分の一以下の確立で、この世にやってくる。
その名を、
「封じの姫」
という。
その封じの姫は、『封じ込めの力』という不思議な力を持っている。
"封じ込めの力"とは、何かを封印したり、逆に解いたり。
また、結界を張ったり、別の次元に一つの空間を造りだすことができる。
力の強い封印でも、封じの姫には関係ない。どのような封印でも解くことができるのだ。
その力をなぜ龍精が求めているのかは、後々分かってくる。
「それで。封じの姫がここにいるってなんで分かったの?」
そば屋から出てくると、住宅街の中をゆっくりと進む。
きいは、いまだ疑いの視線を変えない。
「どうやら、あの占いで出たんだと。」
ははは…と苦笑いをして、佐久が言う。
「へーぇ。」
特に気にならない様子で、きいは返事をする。
そのあとも、睦月寮に着くまで話した二人だが、(佐久がそのほとんどであったが)近くなってから佐久が唐突に言った。
「そういえば、きい。今日学校じゃなかったか?」
コロンコロン、とどこかで八時を知らせる鐘がなる。
「あ!」
真っ青な顔をして、きいが走り出す。
「き、きい?!」
「佐久兄、じゃあな!」
大急ぎで寮の中へ入っていくきいを見ながら、佐久はつぶやいた。
「きいって、たまにおっちょこちょいな所があるよなぁ…まあ、そこもイジリがいがあるけど。」
そして、そのまま料の前を通り過ぎて、どこかへ去っていった。
水色チェックのネクタイに黒のジャケット。そのジャケットには緑色のタータンチェックの袖。水色のズボン。
まるで警察官の制服を学生用に直したような制服に身を包み、きいは皐月学園へと向かう。
「あれ?きい。おっはよー!」
教室に滑り込んできたきいを見て、同級生で右隣の席の鳴海が言う。
「ん。」
まだ先生は来ていなかったようで、静かに自分の席に着く。
「どうしたのよ、珍しいじゃん。」
「今朝は用事があったから。」
佐久のようににやにや笑う鳴海に、きいはいやそうな顔をする。
きい達の通う、私立皐月学園には、普通の人間も龍精もいる。確率といえば普通の人9:龍精1、ぐらいだ。
ちなみに鳴海は普通の人間である。
少しすると先生が入ってきた。後ろには、なぜか一人の少女。
「おー、お前ら。今日は新しい転校生を紹介するぞー。」
先生がそう声をかけると、その少女が少し顔をあげて言った。
「七橋巴樹です。よろしくお願いします。」
新緑色の瞳にさらりとした長い金髪。小顔で、少し小さめの身長。
はっきり言って、可愛い系の美少女だった。
ぺこりとその少女が頭を下げると、教室に「よろしくお願いしまーす」という声が響く。
その後、クラス全員が自己紹介している時、きいは思った。
(この子…もしかして…)
巴樹は、きいの左隣の席になった。
「よろしくお願いします、信重くん。」
小さく微笑む巴樹に、きいは小声で気になっていたことを聞いてみた。
「あのさ、七橋。」
「巴樹でいいですよ?」
「それなら、巴樹。あんたって、龍精、だよね。」
あの時感じた不思議な雰囲気。
なんとなく、巴樹の周りで龍の力を感じているのをきいは見逃さなかった。
「あ、え?」
ポカーンと口を開ける巴樹を見て、きいは確信する。
(あ、これ当たったわ。)
図星のようで、慌てふためく巴樹は、きょろきょろと視線をさまよわせる。
「ななな、なんで知ってるんですか?!」
あわわわわ…とあからさまに動揺する巴樹。
「だって、俺もだもん。」
机に肘をついて巴樹を射すくめるように見るきいに、ますます動揺を隠せずにいる。
しばらく脳内がパニックになっていたようだが、しばらくして落ち着いてきたのか、巴樹はたどたどしく自己紹介を始めた。
「えええええ、えっと……わ、私、は、二十七族生の龍精の一人…風龍精です。これから、よろしくです。」
ぺこんとお辞儀する巴樹に、きいは姿勢を正して言った。
「俺も、二十七族生の空天龍、飛龍精だよ。それと、巴樹。敬語はいいから。」
ふっと小さく笑って、きいは立ちあがった。
「んじゃ、よろしく。」
そう言い残すと、男友達の席に向かうきい。
その様子を見ながら、巴樹は思った。
(な、なんだか、大変なことになりそ…)
すると、きいの席を一つ挟んだ右隣の席のから、巴樹に声がかかった。
「ねえねえ、七橋さん!」
「うわぁ!」
そう。鳴海である。
「さっそくきいと仲良くなったね~。」
「え?えと…仲良くなったというか……」
弾けたような笑顔に、たじたじする巴樹。鳴海はきいの方を見て、つぶやくように言った。
「きいね、滅多に女の子と話すことがないんだよ~。女子が嫌いというかさ…。しっかり者のくせに。でも、女子から大人気でさ。いとこの人もかっこいいし。だから珍しいんだぁ、あいつが自分から話しかけるなんて。……七橋さん、きいのこと、よろしくね!」
「ええ?なにがですか?」
くすくすと笑う鳴海に、巴樹はきょとんとして首をかしげる。
(この子、天然かな?それとも鈍感?!)
またもやあわあわとなっている巴樹を見て、鳴海は内心苦笑いしていた。
【ドラすく登場人物紹介こーなー!】
神霊佐久
二十歳。AB型。身長175、4cm。
四季龍、春龍精。
武器 刀「春花」
きいのいとこ。
温和な性格ではあるが、たまにドS並の小悪魔を発揮。
甘党で、辛い物好きのきいとは反発することもある。
佳穂には少し甘い。