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勿忘草

「そうでしたの。優香さんが……」


久しぶりに訪れたアベルトゥラで、僕から優香の死を知らされたエステルが悲しそうに目を伏せる。


優香の葬儀が終わり、彼女の身辺整理も一段落した。世間もあの事故から興味を失いつつある。


「でも、【追憶の花】のおかげで僕と優香はもう一度、話すことができました。本当に感謝しています。優香の分もお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」


頭を下げる僕にエステルが寂しそうに微笑む。


「【追憶の花】はヨーロッパに伝わる(わす)(れな)(ぐさ)の伝説をモチーフにしたものですの。その伝説はご存知ですか?」


「いや。知らないです」


「これはドイツに伝わる悲話ですの。


騎士のルドルフは恋人のベルタにせがまれてドナウ川の河畔に咲いていた花を取ろうとして川に落ちてしまいます。流れに没しようとしていたルドルフは、最後の力を振り絞って手折った花を岸のベルダに投げて「僕を忘れないで」と言ったというのがこの花の名前の由来ですの。

 

大切な人に最期のメッセージを伝えるためのアイテム、それがあの【追憶の花】でした。……でもあたしは、【追憶の花】には、その用途をまっとうして消えるよりも、ただのストラップとして優香さんのケータイの飾りであり続けてほしかったですわ」


エステルがそっとハンカチで目元を拭う。


「彼女は勿忘草が大好きだったそうですが、結局、本物の勿忘草を彼女と一緒に見る機会はありませんでした。それがちょっと心残りです」


エステルが悲しそうな表情のまま顔を上げる。


「……勿忘草でしたら、ちょうど今庭に咲いていますわ。ご覧になりますか?」


「ええ。ぜひ!」




エステルにつれられてアベルトゥラの庭に出ると、そこには色とりどりの様々な花が咲き乱れ、春を実感させてくれた。


そして、エステルが立ち止まったその視線の先に勿忘草が咲いていた。


小さな青い花をいくつもつけた勿忘草が元気に咲き誇っていた。


特別目立つ花ではない。それでも誇らしげに花を咲かせている姿に、ああ、確かに優香が好きそうな花だな、と納得してしまった。



これから先、きっと春が来るたび、勿忘草を見るたびに、僕は優香と過ごした日々を思い返すのだろう。


『わたしを忘れないで』


優香の声が脳裏に蘇る。


「忘れないよ」


僕は口の中でつぶやいた。




Fin.




『わたしを忘れないで』


This is “Mobius no tobira” True ending.




メビウスの扉、追憶の花編のトゥルーエンドです。追憶の花のお陰で主人公は恋人の死から立ち直り、前に進んでいく力を得ることができました。……とはいえ、決してハッピーエンドとは言えませんので、やはりTrue(ある意味正しい)に相応しいといえるでしょう。

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