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混沌の代理戦争  作者: mhk
1章
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1-9

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加藤 恭弥


スライムの壁を突き破って乱入してきたのは、クリスタルドラゴン。体表を結晶化させることによって、硬さを追求した竜だ。しかし、当然弱点もあり、動きが極めて鈍重なのである。また、結晶化が完了するまでの幼体の時期はとても弱く、鉱石が取れることで乱獲される傾向にある。しかし、それでも絶滅しないのは偏にこの竜が、比較的多産で、また生息地域が秘境と呼ばれるような奥地に限られているからだ。さて、このクリスタルドラゴンは、完全に結晶化が完了しており、俺の攻撃など受けても痛くも痒くもないだろう。ゆかりの攻撃も、当たり所によっては当然はじくだろう。

「キョーヤ、そいつどうやって倒すのです?ナターシャにはキョーヤに倒せるとは思わないのです」

ナターシャが心配してくる。しかし、この竜はやりようによっては、スライムのみで倒すことができる。



<スライム、クリスタルドラゴンの肺を溶かしつくせ>

恭弥がそう命令を下すと、スライムがクリスタルドラゴンの口の中に入ろうと襲い掛かる。最初に数匹飲み込んだところで、クリスタルドラゴンも体内の違和感に気が付いたのだろう、ブレスを吐くことで体内のスライムを押し出し同時に顔に群がってるスライムを一掃しようとしたのだ。

それは、確かに思惑通りに進んだ。しかし、1つだけクリスタルドラゴンに不幸だったのは、スライムがオーバーディバイドアシッドスライムだったことだ。過分裂によって今も増え続けるスライムの大量の強酸を顔に浴びてしまったのだ。クリスタルは半分以上が解け、一部素肌が露出した個所もある。そして、なにより、眼の中に酸が入ってしまったのだ。これによって、失明し眼球は溶けそこに隙間が出来てしまったのだ。

<スライム、脳を溶かせ>

恭弥の命令を忠実に実行するスライムは、眼球のあった隙間から頭蓋内部に侵入し脳を溶かし始める。

しばらくは暴れていたクリスタルドラゴンではあったが、ついに運動神経を持つ部位を破壊されたのだろう、バランスを崩し倒れこんでしまう。最後の足掻きで恭弥に向けて撃ったブレスも、せりあがってできたスライムの壁によって阻まれてしまう。

そして、脳が完全に破壊されたのだろう、クリスタルドラゴンは完全に沈黙した。



「こうやって倒せば俺でも倒せる」

そう言って後ろにいるゆかりと、ホシミ族の奴らの方を向く。ホシミ族の4人は唖然としている。どうやら、失禁幼女も途中からみていたのだろう、唖然としている。

「脳破壊なんてえげつないことするね!」

「ゆかりは、どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」

ゆかりがいつになくニコニコしている。あいつは流血の方がいいんじゃなかったのか?

「いやー、こんなスマートな殺し方があったなんてね。恭弥君、あたしにもおーばー……ななんとかスライムちょうだいよ」

名前長いよな……。恭一こういうの好きだから、俺だって時々忘れそうになる。

「オーバーディバイドアシッドスライムを作ったのは恭一だ。あいつに聞いてくれ」

「うん、そうする」

「さて、ホシミ族の方々、先ほどのようにここは少々危ない。どうだろうか?場所を変えないか?」

ここで提案をする。これで、土壇場で帰るなんてことはなくなりそうだ。

「そうだな、そうしよう」

ナヴィアも納得してくれたようでよかった。


会議室に対面するような形でホシミ族と、俺たちが座る。


「では、改めて、混沌の使徒加藤恭弥だ」

「加藤……未来……です」

「小鳥遊ゆかりだよ」

自己紹介という形で切り出す。こうやって主導権を握るべきだって、誰かが言っていた気がするが誰だったろうか……。一応、未来にも出てきてもらった。相当嫌がっていたがしょうがない、誠意を見せる必要のある場だからだ。それに、対人恐怖症を克服してほしいという気持ちも少なからずある。それでも、お兄ちゃん離れはしてほしくない……。でも、対人恐怖症を克服して普通に友達作ってほしいし、いやでも兄離れしてほしくないし……。

「恭弥殿、聞いてますか?」

おっと、思考の渦に呑まれていたな……。お爺さんに怪しまれた。

「失礼、大丈夫です」

「では、ホシミ族も……。ホシミ族長老のハジャじゃ」

「ホシミ族、族長が長男ナヴィアだ」

「ホシミ族、族長の娘でナヴィア兄ちゃんの妹のナターシャなのです」

「ナターシャ様の付き人をしています……。名前は、成人前なのでまだありません……」

一人全然名前呼ばれないから気になっていたが、まだ名前がなかったのか。面白い風習だな。しかし、どう切り出したもんか……?直ぐに本題に入っていいのだろうか?それとも、何か雑談から入った方がいいのだろうか?

迷っていたら、ナヴィアの方から切り出してきた。

「ところで、ゆかりといったか。貴様の持っている剣は、ブラッドオーガの持っていた剣ではないか?」

「そうだよ、なんで知ってるの?」

ふむ、確かに気になるな。もしかして、何かここにいることと関係があるのだろうか……?

「それはだな、ここにはブラッドオーガに生贄を捧げにきたのだ」

「そのとおりじゃ、しかし倒してくれたのであればとてもありがたいことじゃ」

「その生贄は、ナターシャか?それとも2人ともか?」

「2人ともだ。本当にありがとう」

よほどうれしかったのだろう、2人とも涙を流している。

「ナターシャもにも言わせてください、ありがとうなのです」

「あの……ありがとうございました」

ゆかりが照れて頭の後ろを掻いている。


「さて、それでは、交渉を始めていいだろうか?」

「あぁ、すまない。かまわない」

「ところで、そちらの代表はナヴィア殿で大丈夫か?ハジャ殿は長老だが、どっちを代表と捉えればいいのだろうか?」

これは、聞いておかなければいけない。交渉が終わって、いざ、こいつは代表じゃないなんて言われたら困るのだ。

「代表はナヴィアと思ってくれて構わん。儂は、時々助言するくらいに思ってくれてて構わん」

「そうか、ありがたい。では、こちらの要求を言っていってもいいだろうか?」

「あぁ、頼む。こちらは、その要求に釣り合う対価を求めるという事でいこう」

まあ、妥当なところだな。さて、何を要求されるか……。

「こちらは、ナヴィア殿が持っているナイフの材料となる鉱石、とその情報。次にハジャ殿が使っている薬に関する情報と、その材料。最後に、先方との継続的な取引。つまり、鉱石、薬の材料の交易をしたいという事だ。こちらは、そちらに対して、ダンジョン内のモンスターの素材を売ろうと思う」

情報は命だ。あいてが情報をどれだけの価値と捉えているのだろうか……?

「なるほど。取引に関しては、ことらも望むところだ。ならばいっそのこと、協力関係を築くのはどうだろうか?こちらからは、ナターシャをそちらに送ろう。妹ならば、情報に関しては十分だろう。こちらは、ゆかり殿をいただきたい」

考えないようにしていたが、そう来たか……。ゆかりは現時点でこちらの最高戦力だ。それを失うのはとても痛い……。何としても避けたいな。

「協力関係はとてもありがたい。しかし、ゆかりを送るのはこちらとしても痛いものがある。ダンジョンに逃げ込んだホシミ族を保護できるようにしよう。また、ゆかりと同じタイプのモンスターを送ることで代用できないだろうか」

「保護していただけるのはとてもありがたい。しかし、こちらは狩猟民族。そちらに用意して頂かずとも、隠れ家は多く存在する。それに、モンスターはいつ暴走するかなど不安が残る」

うん?隠れ家……?

「すまない。少し確認させてくれ。狩猟民族はホシミ族だけか?」

「そうだが、それがどうかしたのか?」

だとしたら……。確証はないが……。

「何故族長の娘と、成人前の子供を生贄にやっているのだ?」

ナヴィアの眉毛がかすかに動く。

「もしやとは思うが、沿岸部のハンターに女子供を連れ去られたのではないのか?」

いつぞや、箱から聞いた情報だ。沿岸部に他勢力の連中が町を作っているらしい。ハンターと呼ばれる、モンスター退治を生業としている連中が多く暮らしているらしい。モンスターが強すぎて倒せず金に困っているハンターがホシミ族をさらって、人身売買をしているらしい。今のホシミ族はまさにそういった状況なのだろう。

「確かに……恭弥殿の言う通りだ……。しかし、貴様らに言ってもしょうがないだろう!いくら貴様らが強いと言っても、相手は強大だ。どうにもならないだろう!」

なるほど、人数の多い相手に無力感を感じてるわけか。だとしたら、これは取引材料につかえるのではなかろうか。多分、やりようによれば街の2つか3つは落とせるだろう。

「いいだろう。囚われたホシミ族を助けよう。それが完了した段階で、協力関係を築くというのはどうだ?」

「それは、本当か!?できるのであれば是非にも!」

「では、ナターシャについてきてもらってもいいか?確認する者は必要だろう。未来をここに置いていく。それでどうだ?」

未来がこっちを驚いた様子で見てくる。

「お兄様……。お兄様の強さは信頼していますが、その……私は……心配です。私が、残らなければいけないのもわかります。ですが、どうしても……」

泣きそうである。俺の迷惑になりたくないということだろうが、同時に一緒にいたいという事もあるのだろう。

「ナヴィア、ナターシャ」

「あぁ」

「ナターシャは大丈夫なのです」

なにか、話しているがなんだろうか?

「未来、貴様は残らずともいい。貴様らを信用することにしよう。まあ、ブラッドオーガを倒してくれら礼だと思ってくれ」

「いい、のか?」

だとしたら、本当にありがたい。正直言うと、回復職が一人いるだけで随分と変わるから、来てくれた方がいいのだ。

「ああ、我らに2言はない」

「ありがとう、本当にありがとう。必ず助け出す」


ホシミ族奪還作戦の会議が始まった、ここで躓くわけにはいかない。



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