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加藤 未来
はぁ……ゆかりさんに、ご迷惑をかけてしまいました……。
足手まといになってしまってますね、もっと頑張らないと……。
今までは、お兄さんたちに守ってきてもらったんです、今回は私が守らないと……。
なんだか、思考が悪い方に行ってますね、お兄さんはこういう時いつもとりあえず笑えばいいよ!って言いますけど、あれはある意味才能なんでしょうか……。
「……いらいちゃん?未来ちゃん!」
「っはい!なんですか?」
「いや、さっきからずっと呼んでも何も反応ないしどうしちゃったのかなと思って?あ、もしかして呪い的なヤツ受けた?そんなのあるかも知らないけど」
「あ、いえ。すいません。ちょっと考え事を……。もっと、強くならないとなって思いまして」
「あ、さっきのこと?そのことならあんまり気にしなくていいと思うよ。強さなんてのは人それぞれだし?」
「そんなものでしょうか?」
「うんうん、そんなもんそんなもん。おっ、それよりあの寺院っぽいのそうじゃないかな?見たとこ、小さいし下に伸ばしてるのかな?」
「あ、この、東南アジアな感じお兄さん達が好きなやつですね」
東南アジア風の寺院の中に入ると、まず目につくのは仏像が本来あるべき台座の上です。仏像がなく、その代わりに下へと伸びる螺旋階段があります。ゆかりさんは、随分とあっさり入っていきますけど、大丈夫でしょうか……。それでも、おいて行かれるのは嫌ですし、ついていきましょう。
中に入ると、庭のようなところにでました。真ん中に池を配したその庭の池の中央の島の上に降り立ちます。4方向に通路が伸びていますし、おそらく迷路式なのでしょう。
「さて、未来ちゃんのお兄さんが見当たらないね。多分いるのは最奥だよね?未来ちゃん、どうやって行きますか?」
「多分、ここで待っていれば迎えに来てくれると思うのですが……」
「いやー、流石未来、我が妹!俺のことをよくわかっていらっしゃる!」
「お兄さん、ただいま戻りました」
ゆかりさんが何故か驚いていますが、お兄さんが突然出てくるのはいつものことですので私は驚きませんよ。
「え、ちょっと、恭一君?だよね?今、どっから出てきたの?」
「ふふふ、聞いて驚け!ダンジョンマスターの力で転移しました!」
「へー、それって、ダンジョン外でも使えるの?例えば、ダンジョンに緊急転移みたいなこととか」
「それができたら、お兄さんダンジョンマスターを不遇職とか思わないよ……」
お兄さんが何やら落ち込んでいます。でも、逆にいえばダンジョン内ならどこでも転移できるってことですよね……
「あの……お兄さん、そういうことでしたら、あらかじめダンジョンをその場所に作っておけば良いのではないでしょうか?」
「うむ、流石妹。いいところに気付くじゃないか。お兄さん感心です。俺と恭弥で話し合った結果でも同じ結論が出ている。まだ魔力が圧倒的に足りないけどね」
えへへ、お兄さんに褒められました。
「それより、恭一君。ここにいるってことはあたし達迎えにきたんだよね」
「おっと、そうだった。それだよ。今から、マスタールームっていう、俺たちがこれから生活するだろう場所に転移するから、俺の肌に触れててくれない?」
肌ですか……。ここは無難に手でしょうか。本当は抱き着きたいですけど、ちょっと恥ずかしいいです……。
「よっし、じゃあ、ダンジョンクリエイト、転移-マスタールーム-」
あたりが、白い光で包まれて浮遊感を味わいます。
光が収まると、そこは殺風景な部屋でした。半透明のクリスタルがあるだけの部屋でした。
「まだ、何もないんだ、ごめんね。魔力を全部ダンジョンの方に使っちゃってねー。寝室はどうするか決めかねていてね。未来はどうする?いつもみたいに俺と寝る?小鳥遊さんの方行く?」
お兄さん、それは言わないでください……。やましいことがないとはいえ、恥ずかしいです。ゆかりさんが、苦笑いをしてます……。
「恭一君、未来ちゃんの要望は聞いてあたしの要望は聞いてくれないのかな?」
「おおっと、小鳥遊さんこれは失礼。でも、小鳥遊さんってあんまりこういうのにこだわらなさそうじゃん?」
「まあ、確かに、雑魚寝でもいいかなとは思ってるくらいにはね。恭一君は、襲わないでしょ?ヘタレだし……」
「ゆかりさん、お兄さんはヘタレではないですよ!いつも、私を守ってくれます!」
「未来!本当に優しいな!幸せ絶頂期って今みたいな時なんじゃないかな!」
「うん、未来ちゃん、ちょっと意味違うけどまあ、いいか……」
「おにいさん、私も雑魚寝でいいです。その代り、お兄さんも一緒に寝てくださいね?」
恥ずかしいけど、頑張っていいます。お兄さんとゆかりさんと寝れるなら、いい夢を見ることができる気がします。
と、お兄さんが何かを思い出したようで、ポンと手を打ちます。
「おっと、そうだった。2人にプレゼントがあります」
「プレゼントですか?お兄さん、ありがとうございます!」
「へー、で、何?」
お兄さんは不敵に微笑むと、背後の空間に向かって手招きをします。
すると、白銀と漆黒の2匹の小さな竜が出てきました。
「うわ、恭一君なにこの子たちかわいくない?え、もしかしてどっちか1匹くれるの?」
「おう、ありがたく受け取り給え!白い方が、ヘヴンズドラゴン。黒い方が、ヘルドラゴン。どっちも職業が結界師で、防御特化。最終ステータスに大した違いはないと思うけど、結界の性質に差が出てくるんじゃないかと思う。まあ、いわば、暗殺とかを想定した護衛兼ペット」
なんだかんだ言って、いつも私を守ってくれるお兄さんのありがたみを実感します。私もお兄さんを守れるくらい強くならないと!
「お兄さん、ありがとうございます。いつかは、私がお兄さんのことを守れるように頑張ります!」
「……うん、わかった。期待してるよ、未来。と、今は、目先のことだな。どっちか好きな方を選んで、名前を付けてくだされ」
この2匹の中から1匹ですか……。どうしましょう……。決まりません……。
2匹を交互に見つめていると、白銀の竜の方となんだか目が合う回数が多い気がします。
「あの……ゆかりさん。私は白銀の竜の方をいただいてもよろしいでしょうか……」
「私も、黒い方がいいかなって思ってたところなんだよ。ちょうどよかった!それで、未来ちゃん。ものは相談なんだけどさ、名前を2匹で関連性のあるものにしない?」
2匹の関係性を名前でも強めるってことでしょうか?なんか、いいですね!そうしたら、白ちゃんと黒ちゃんとかでしょうか……。ありきたりですね……。
「私も、それいいと思います!でも、なんかありきたりな名前しか出てこなくて……。ゆかりさんは、何かありますか?」
「うん、あたしの趣味前回なんだけどさ……。白銀の子はアルテナ、漆黒の子はベインってのはどうかな?」
趣味っていうからてっきり、血液関係で来ると思ってました。アルテナも喜んでるし良かった!いったい何から取ってるんでしょうか?
「小鳥遊さんやい、それはもしかしてarteryとveinかな?」
「もしかしなくとも、動脈と静脈だよ!」
……アルテナが気に入ってるからいいことにします……。
「あれ?未来ちゃん、やっぱり駄目だった?」
「いえ、カッコいいと思いますし、それにアルテナが気に入っているならそれで決めるには十分です」
これからよろしくね、アルテナ。