表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/108

飲み会とおっさん


「はぁい、久しぶり」


そう声を掛けてきたのは、キスカのギルドマスターと、センタのギルドマスター。

ラファロさんとウェンディさんだ。

2人共この国で迷惑かけてしまったというか。

ともかくお世話になった2人だ。

センタに訪れた時はウェンディさんは不在で、この町にいるとのことだった。

どのみちキスカに寄るつもりだったので、この町で2人に会い、食事に誘っておいたのだ。


「いやはや、かの英雄であるスズキ殿に食事に誘って頂けるとは光栄ですな」

「おっさんだけどね」

「おい、口が過ぎるぞウェンディ」

「この人勇者だってこと黙ってたのよ。いいのよこれぐらい」

「スズキ殿にも事情があるだろう」

「いいんですよ。事実ですし」

「ルミちゃんサクヤちゃんも久しぶりね」

「ウェンディさんチャッス☆」

「お久しぶりです~」

「エーリンちゃんは……」


盛り上がっている卓に目を移すウェンディさん。


「アレは気にしないで下さい」

「ふふっ。そうね」

「ラファロさん達もとりあえず注文しましょうか。何にします?」

「もちろんガガ焼きをもらおう。この店の名物だからね。あとは酒と他のつまみを――」


しばし歓談する。

大っぴらに事情は説明していないが、ギルドの情報網はなかなかのものらしい。

魔王軍の動きから、魔王国との戦争が停戦に向かっていることを知っていた。

いずれ正式に発表があると思う旨を伝えると、多くは問われなかった。


「しかし、流石はスズキ殿ですな。一目見た時から只者ではないと思っておりましたぞ」

「嘘おっしゃい。怪しいおっさんだと思ってたでしょ」

「ははは。ギルドではご迷惑お掛けしました」

「それってあたしらが暴れたことだよね?」

「あ、あの時はごめんなさい~……」

「なになに、ギルドでは実力がものを言いますからな。口ばかりの奴らにはいい薬でしたよ」

「そうよ~。サクヤちゃんが謝る必要なんてないからね」


邪神――元エリンの使徒がどこに紛れているかわからないが、冒険者ギルド程の組織であれば潜んでいる可能性は高い。

が、大きな組織だけに探し当てるのは容易ではない。

冒険者ギルドは各国にあるし、ギルドも冒険者の所在を全て把握しているわけではない。

それこそ、ギルドの職員。

ラファロさんやウェンディさんが使徒の可能性だってある。

こうやって話して何かわかるかもと思ったが、そう甘くはない。

使徒でなければそれでいいのだけど。

申し訳ないが、やはりロッテ様達に任せるしかなさそうだ。

なんて、深く考えるのをやめた。

後は他愛ない話をして、ゴングさんの料理を楽しんだ。


「うん? もうこんな時間か」


食堂の時計を眺め、ラファロさんが言う。

《北の風亭》は、ガガ焼き人気のおかげで食堂の営業時間を延長したらしい。

が、閉店時間となればお客さんはまばらだった。


「そろそろ出ましょうか」

「そうするとしよう。スズキ殿、大変楽しい時間でした」

「いえ、こちらこそ」

「しばらくはこの町にいらっしゃるので?」

「できればそうしたいのです」

「そうですか。またいつでも訪ねて来て下さいよ」

「ありがとうございます」

「ルミちゃん達を泣かせないようにしてね」

「もちろんです」

「それではこれで」


飲み代はカシアさんが割引いてくれて、支払いはラファロさんがしてくれた。

一応私が1番年上だし払わせてくれと言ったが、さらっと断られた。

なかなかかっこつけさせてはくれないもんだ。

お言葉に甘えて2人を見送る。

2人の背中を眺め、改めて敵にならなければいいなと思う。


「ねえおっさん」

「はい?」

「……湯屋いく?」

「湯屋? ……ぶふっ!?」


記憶が甦る。思いだし吐血。

そうだ。私はこの町でルミさん達とお風呂を一緒したんだ。

羨ましいかって? 危うく死にかけましたよこっちは。

この世界の人は混浴文化を何とも思っていない様だが、私には刺激が強すぎる。

マイハウスを作ったのは、はっきり言って個室のお風呂が欲しかったからだ。

確かに今日はマイハウスを出していないが……。


「わ、私はゴングさんに用があるので、よければルミさん達だけで行ってきて下さい」


自ら死地に赴くほど私は愚かではない。

もちろん一緒に入りたくないのかと言われれば入りたいに決まっているが、おこがましいにも程があると自覚している。


「ふーん。わかったよ。……い……なし」


なんだか素っ気ない返事。最後になにか言っていた様だが、聞き取れなかった。

ま、まあ付き合いが悪いと思われても、無理なものは無理だ。

お風呂は後でマイハウスを出して頂くとしよう。

今度は湯屋に行くルミさん、サクヤさん、エーリンさん、イブキさん、カイルくん、カシアさんを見送る。

私は食堂に戻り、片付けなどをしているゴングさんの下へ。


「お疲れ様でしたゴングさん」

「ああ、スズキさん。俺のガガ焼きはどうだった?」

「おいしく頂きました。あれ、何か隠し味が入っていましたよね? 多分柑橘系の」

「流石だなスズキさん。オレンの実の果肉をちょっとばかしタレに混ぜてあるんだ」


『オレン』とは、私の世界で言うオレンジに似た果物だ。

ゴングさんのガガ焼きは後味がさわやかで、私は気に入った。


「すごくおいしかったです。お肉の厚さを選べるのもいいですよね」

「スズキさんにそう言ってもらえるとは嬉しいねえ」

「カシアさんも、お元気そうですね」

「もうすっかりだよ。寝たきりだったのが嘘みたいにな。ほんと、スズキさんには頭が上がらねえ」

「おいしい料理を楽しませてもらいましたし、十分ですよ」

「なら、もっと腕を磨かねえとな」

「ところで、まだ結婚はされないんです?」

「ぶふぉっ!?」


吹き出すゴングさん。

いや、カシアさんも元気になったし、お店も順調そうだと思って。


「カ、カシアは親友の嫁だし、俺は別にカイルとカシアが幸せならそういうのは――」


顔を真っ赤にするゴングさん。

ムキムキマッチョなのにまるで少年の様だ。ウケル。


「別にカシアさんととは言ってないんですけどね」

「っ……あんたって案外いじわるだな」

「ゴングさんこそ、子供みたいなところあるんですね」

「……俺でいいと思うか?」

「私は貴方以外にいないと思いますけど」


聞けばゴングさんの親友、つまりカシアさんの旦那さんが亡くなったのは6年程前らしい。

つまりその間、ゴングさんが2人を支え続けてきたのだ。

私としてはいい頃合いだと思うのだが。亡くなった旦那さんも怒りはしないだろう。


「もしよければ……」


小さな箱を取り出し、渡す。

ゴングさんは訝しげに箱を開けた。


「指輪?」


渡したのは、所謂婚約指輪だ。

この世界にはプロポーズの時に指輪を渡す慣習はないようだけど。

私は結構好きだ。まあ、無縁の話だったのは言わずもがな。


「私の世界には、求婚する時に指輪を渡す慣習がありまして。女性はOKなら指輪を受け取るんです」

「ほう」

「よければ、使って下さい」

「ちょっと待て、これ絶対高いだろ。宝石の価値はわからんが曲がりなりにも冒険者だったんだ。それぐらいわかるぞ」


指輪には、大き目の白い宝石が中央を飾り、輪をなぞる様に小さ目の宝石が散りばめられている。


「値段はわかりません。私が作った物ですから」

「スズキさんが!?」


そう。私が作った。

お忘れかもしれないが、私は《錬金術士》《特級鍛冶士》のジョブを持っている。

その技術で作成した指輪だ。

輪はミスリル製。

宝石は『竜の涙ドラゴンズ・ナハト』と呼ばれる物だ。

竜の体内で長い年月をかけて生成される大変貴重な石。だそうだ。

インベントリにあって、綺麗だったから使わせてもらった。


「ん、何か書いてあるな」


ゴングさんが輪の内側を見た。


『FOREVER』


「読めないな。なんて書いてあるんだ?」

「私の世界の文字で、『永遠に』と書かれています」


どや? おっさんロマンチックでしょ? 

もし自分にいい人ができたらと妄想していただけのことはあるでしょ?

妄想するだけで終わったけどね?


「どうして俺に?」

「この町を出る時、そんな予感はしてましたので。それにこれも頂きましたから、お礼というか、お祝いです」


軽く腕を捲り、嵌めていた篭手を見せる。

ゴングさんから貰った『怪力の篭手』だ。

だがそれを見ても、ゴングさんは渋い顔をする。


「……あんたにはまだ恩を返せてないってのに、受け取れねえよ」

「……そうですか。それは残念です」


ゴングさんから返され箱を受け取る。

まあここまでは予想通り。

ゴングさんは真面目だからな。

そう簡単には受け取らないのはわかっていた。


「じゃあこれは、こうしますか」


近くの台に箱を置いた。

インベントリから手頃な金槌を取り出すと、分かりやすく振りかぶった。


「ちょ、ちょっと待った。なにするんだ!?」

「なにって、不要なので壊してしまおうかと」

「売るなり、誰かいい人に渡せばいいだろう!?」

「お金に困っていませんし、私にそんな人はいません」

「!――」


歯をくいしばり、声にならない声を出すゴングさん。

ふふ、こうすれば義理堅い貴方は逃げられない。

自分の為に作ってくれたものを無下にはできないからだ。

我ながらなかなかの策だ。


「――ふう。わかったよスズキさん。俺の負けだ」


ゴングさんは箱を取り上げた。


「誤魔化さず、正直になるよ。これはありがたく使わせてもらおう」

「それはよかった。無駄にならずに済みました」


多少強引だったが、うまくいった。


この先、この世界は大きく変化する。

戦いに関わる者として、それはひしひしと感じるんだ。

この戦いは、多分この世界の史上で最も大きなものとなる。

王国、帝国、魔王国に止まらず、あらゆる国が、そこに住まう人全てが、捲き込まれてもおかしくはない。

私にその全ての人達を守る力なんてないのはわかっているし、守る気もない。

きっとタケルヒコ様も同じだ。

私は私がお世話なった人達が、幸せであればそれでいい。

私はこの世界の勇者じゃなくていい。

私の我が儘。おっさんの我が儘だ。


おっさんはキューピッド。尚童貞。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ