ポポリ村のウザフカ(中編)
あけましておめでとうございます。
本作品を今年中に終わらせられたらと思っているおっさんです。
などと言いながら、ウザフカ編は後編に入ります。
今年もよろしくお願いします。
「おじちゃん! ご本読んで!」
耳が痛くなるような声に、ウザフカを目を渋らせた。
ご所望の本を手に、窓際に腰掛ける。
「ドコカラダ」
「さ・い・しょ・か・ら!」
「……ムカ~シムカ~シアルトコロニ、レッドオークガイマシタ……」
「……レッドオークハタクサンタクサンナキマシタ。オシマイ。……オモシロカッタカ?」
「ぜんぜん!」
「……」
ウザフカは棚に本を戻し、窓を見る。
「……ナンドヨンデモケツマツハカワラン」
「……ぐう」
「ネルナ」
「だっておもしろくないのはおもしろくないんだもん」
「ナラモウヨマナクテイイナ」
「だめー!!」
顔を渋らせるウザフカ。
「ナンデダ。オモシロクナイナライイダロウ」
「おもしろくないけど、つまんなくはない」
「フッ、ナンダソレハ」
「おじちゃんは?」
「オレハマア――」
「メルといてもつまんない?」
「――ア?」
メルルの無垢な目に、ウザフカは戸惑いを覚えた。
そして、逃げるように顔を背ける。
「モウカエレ」
「えーなんで!?」
「テツダイガアルダロ」
「今日はもういいんだって!」
「イイカラカエレ」
「ぶー! おうぼうだー! たちのきをきょひします!」
「ドコデオボエタンダ」
「ぶーぶー!」
「アーモウ、ウルサイ」
「ぶー! ……あ!」
「コンドハナンダ」
メルの見せる笑みに、ウザフカは嫌な汗をかく。
メルの笑顔は、例えるなら小悪魔のそれだったからだ。
「ナニヲカンガエテル」
「ん~? あのね~?」
「ナンダ」
「教えて欲しい?」
「アア」
「教えてくださいは?」
「……」
「ごめんなさい」
ウザフカの眉間のしわが増えると、メルルはすぐに謝った。
ウザフカはしわを減らし、鼻を鳴らした。
「ソレデ?」
「ふっふーん。メルね、おじちゃんにいい物取って来てあげる!」
「イイモノ?」
「そう! 絶対気に入るよ!」
「ゼッタイ?」
「ぜったいぜったい!」
「イラン」
「そうだよね! ……なんで!?」
「オマエ、森ニハイルキダロウ」
「ドギューン!?」
「ソコハ『ドキ』トカ『ギク』ジャナイノカ。ナンダ『ドギューン』ッテ」
「ハイラナイヨ?」
「カタコトダゾ」
「ひゅ、ぷひゅ、ひゅーぴぃー」
「フケテナイゾ」
目を泳がせ、吹けもしない口笛をそれでも吹こうとうするメルルに、ウザフカは呆れて言った。
「ナニヲトッテクルキナンダ」
「聞きたい!? すっごく綺麗なお花だよ!」
「花カ」
「おじちゃんお花好きでしょ? よくお花の本読んでるもんね!」
確かに、ウザフカの本棚には花に関する本がある。
だが、ウザフカにとっては知識を蓄える一環であり、別段花が好きということはなかった。
ただ、すごい花と言われれば多少の興味は湧く。
しかし。
「ヒトリデ森ニハイルノハダメダ」
ウザフカは知っている。花に限らず、自然は様々な恩恵をもたらしてくれるが、それを得るにはリスクを伴うと言う事を。
ウルフ達が村の仲間になってからそのリスクは格段に減ったが、それでもウルフ以外の魔獣や、危険な場所と言うのが存在する。
子供が気軽に行ける場所ではない。
ウザフカはメルルの様子から、これまでも1人で森に入っていたと察して、口調と共に顔を強張らせた。
「でも」
「デモジャナイ。森ニハイルノニハルールガアルダロ。マモレ」
「……はーい」
「……キョウハモウカエレ」
「うん……」
そう言って、メルルは村の方へ歩いて行った。
その背中が小さくなるのを確認して、ウザフカは窓を閉めた。
メルルは振り返る。
先程まで自分のいた窓が閉じられているのを確認する。
と、道を外れる。
「日が暮れるまでに帰れば大丈夫……かな!」
そのまま、緑の中に溶けて行った。
日が沈む頃、ウザフカの家の扉が鳴った。
ベッドでうたた寝をしていたウザフカは、その音で目覚め、玄関に向かう。
村人とあまり付き合いのないこの家に、訪ねてくる者は限られている。
村長のマモンか、ウルフ達の長になり、実質的なリーダーとして頼られているルメールだ。
尚、メルルと比べれば2人の訪問頻度はたかがしれているが、メルルは玄関から訪ねてこないので除外される。
ウザフカが玄関扉の覗き板をずらして確認すると、案の定ルメールが立っていた。
だが、いつもと様子が違う。
ルメールの後ろには数人の村人が立っていて、武器――ではないが、鋤や鍬などの農具を手にしている。
ウザフカは覗き板を閉めると、ゆっくり扉を開けた。
家からは出ないように注意したウザフカだったが、それでもルメール以外の村人には少なからず緊張が走った。
それを理解できるウザフカは、体が小さく見えるように背を丸め、少し膝を曲げた。
「ドウシタ」
そして先頭のルメールに問い掛ける。
ルメールとは仲が良い――とまでは言わないが、ルメールはウザフカを恐れるような素振りはなかった。
勇者に言われた手前なのか、ルメールはウザフカを気に掛け、よく声を掛けてくれていた。
ウザフカもそれを無下にせず、それなりに話しをしていた為お互いの事は多少はわかっている。
だからウザフカを恐れていた訳ではない。ないが、ルメールの言葉は不安でできていた。
「あ、あの、妹が、メルルがお邪魔していませんか?」
その言葉は、ウザフカが事情を察するに十分だった。
「イナイノカ」
「は、はい。もう日が暮れるのにどこにもいなくて、村のみんなにも探してもらってるんですけど……」
「ヒルマニイチドキタガ、ソレッキリダ」
「そんな……あの子ったらいったいどこに行ったの」
「……モシカシタラ、森ニハイッタノカモシレナイ」
「森に!?」
「アア……キレイナ花ガアルカラ、ソレヲミセタイト。ヒトリデハイルナトトメタ」
「メルのバカ……森を探してみます!」
ルメールが頭を下げ、すぐに動こうとする。
「マテ、モウ日ガオチル。ヤミクモニサガシテモミツカラナイ。ウルフニニオイヲタドラセタホウガイイ……オ――」
「はい! わかりました!」
「ルメール、俺たちはどうすれば」
「松明を持って、ウルフと一緒に森の浅瀬から探して下さい。あまり深入りしないように、もしメルが戻ってきたら遠吠えで知らせて下さい!」
「わ、わかった」
「ありがとうございます! 行きましょうウルちゃん!」
「ガウ!」
ファスの森。
この森に住む魔獣のランクはさほど高くない。
が、例えウルフがいても、迂闊に入れば怪我では済まないこともある。夜ならば尚更だ。
その危険に対抗できるのは、ポポリ村ではシルバーバックウルフ以外にいない。
小さな村では皆が家族の様なものだ。でも、自分の妹の為に大勢を危険に晒せない。
ルメールはすぐに判断し、村人に指示を飛ばした。
そしてウルちゃんの背に跨ると、すぐさま森の中へ入っていった。
ウザフカは、「オレモ」と言いかけた口をつぐみ、村人達が去るのを確認して、扉を閉めると粗暴にベッドに横たわった。
大きく鼻息を出し、目を瞑る。
が、どうにも胸のざわめきが治まらない。
どころか、鼓動が大きくなるように、だんだんと増していく。
比例する様に、怒りがこみ上げた。
「――チッ! クソガ!」
ドスドスと玄関に向かう。
覗き板を開けると、いつもいる監視のウルフの姿はない。
メルルの捜索に駆り出されただろうと判断する。
ウザフカはまたも苛立ちを覚える。
(オレガニゲルトオモッテナイノカ。マタオソワレルトオモワナイノカ)
乱暴にドアを開けるが、当然の様に誰もいない。
(ドイツモコイツモ!)
ウザフカは舌打ちをすると、暗闇の中に駆けて行った。
その頃おっさんは鬼畜メイドと修行中。




