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賢者の石とおっさん


あー。やってしまった。

頑張って潰したんだけどな(ハート)。

ガックリ膝から崩れ落ちてしまう。

もうだめだ。おしまいだあ。


「お、おじ様?」

「うぅ……私はダメなおっさんです……」

「そんなことないよ? シェリちゃんおじ様のことすっごく尊敬してるよ!」


シェリルさんが励ましてくれるけど元気は湧いてこない。申し訳ない。

ああ、いったいどうすればいいのやら。


「んー! ちょっと来ておじ様!」


ぐいっと腕を持ち上げられる。

小柄なシェリルさんでは私を立たせることなどできないのだが、力が入らないながらも立ち上がる。

「こっちこっち」と連れられたのは、薄暗い路地裏だ。

特に変わった物はない。


「ここらへんでいいかな? かな?」

「なんですかシェリルさん」

「おじ様、よお~く見ててね? てね?」


なにを?

と聞く前に、シェリルさんの手が動いた。

フリルの付いたワンピースのスカートの裾を摘まむと、ゆっくりと持ち上げて行く。

見るからに柔らかなふとももが露わになり、パンツが――って見てる場合か!?


「ちょ、ちょっと待って、なにをやってるんですか!?」


パンツが見えそうなギリギリのところで手の動きが止まった。ホッ。


「おじ様に見て欲しい物があるんだ~。目を逸らしちゃだめだよ? だよ?」


ホッとしたのも束の間、シェリルさんはそう言って持ち上げるのを再開した。

逸らすなと言われても。

パンツなのか。パンツを見て欲しいのか。暗に私に死ねと言っているのか。

なんて混乱している内に目に入ってしまう。


黒。 面積ちっちゃ。 エッ。 無駄に隙間空いて。 エッッッッ。 エッッッッ!!!


あ、やば。







































 










私は、胸に手を当てたところで、止めた。

握り潰そうとした心臓の代わりに、シャツを握る。


なにを考えているんだ。

また自分を殺す気か。

さっきまで落ち込んでいたくせに。バカじゃないのか。

耐えろ。耐えるんだ。

煩悩を切り離せ。隔絶しろ。

あれはただの布だ。繊維だ。糸だ。

私だってあそこからおぎゃあと生まれてきたのだ。

宇宙の誕生に比べれば些細な事なんだ(哲学)。

そうだ。なんてことはない。私は――


シェリルさんの下着を乗り越え、鼠蹊部を乗り越え、下腹部に入ったころ、それは見えた。


「……それはなんですか?」


それ・・とは、シェリルさんの下腹部に埋め込まれている、少し青白い、宝石の様な物体。

薄暗いこの路地裏でもほのかに光っている様に見える。


「んふふ~。これはね~? わからないっかな~?」


意味深な物言い。

つまり、私なら考え付く様な物ということだろう。

とすると。


「もしかして、『賢者の石』……ですか?」

「当ったり~♪ どうどう? めちゃくちゃ似合ってると思わないっかな? かな?」

「似合ってるかどうかと言うか、大丈夫なんですかこれ」


石自体もそうだが、シェリルさんの劣情を爆発させるような肉体と相まって、神秘的にすら見える。

十分似合っていると言えるだろう。

ただ、肉体に埋め込まれているのになにも影響がないとは思えない。


「もう~。そこは先に似合ってる、カワイイよって言ってくれないかな~」

「す、すみません」

「体調なんかは全然問題ないよ? むしろ絶好調?」

「そうですか、それならいいんですが。賢者の石ってこういう物なんですね」

「使い方は色々あるんだけどね~。ちょっと触ってみる? みる?」

「え、いいんですか」

「いいよいいよ♪」


ただの興味本位かもしれないが、なんだか触れてみたくなる様な魅力が石にはあった。

ここはお言葉に甘えて。


「じゃあ、失礼します」

「ひゃんっ」


指先でそっと突くと、シェリルさんが変な声を上げる。でも気にならない。

今度はなぞってみる。


「ひゃううぅ」


柔らかい。それに生温かい。ほんとに石なのか?

まるで生き物のようだ。

なんだかずっと触っていられる心地よさがある。

興味深い。


「お、おじ様? なんだかいやらしいよ~」


返事をする気も起きず、黙々と触れる。

夢中になるとはこういうことなのかもしれない。

などと思いつつも、石を撫でまわす手が止まらない。

そしていつの間にか、自然と屈み込んだ私は、その柔らかな石に舌を這わせた。


「え、ええうそ!?」


味は……別にしない筈。

筈なのに、止まらない。吸ってみる。


「ひゃっ、ちょっと、待っておじ様っ。シェリちゃんなんだかっ、おかしくなっちゃうっ」


そこでやっとシェリルさんの顔に目を向けた。

紅潮した顔。瞑った目の端に涙の粒ができていた。



だからどうした。



今はもっとこの石を愛でる方が大切だ。

もっと愛でなければ。そうもっと。


「あどっこいしょー」


聞いたことのある抑揚のない声と共に、右の顔がひしゃげる。

視界の端に映ったのは、メイド服を着た女性の前蹴りだった。

視界が数度回転し、路地裏を賑わした。


「あ、あれ? 私はなにを」


思考がまとまらない。

どうも蹴られたからというだけではないようだ。


「まったく。ルミエール様達を放っておくばかりか、少女を路地裏に連れ込んで駄犬の真似事ですか。気持ち悪いですね」

「イ、イブキさん?」

「口を開かないで下さい。あなたの様なクソムシ、存在するだけでも不快なのに、話しかけてくるなんて何様ですか」


し、辛辣ぅ!

イブキさんとの間には変な空気を感じてたけど、嫌われすぎとちゃいますか。恐すぎる。


――でも、イブキさんの言うことは最もだ。私はとんでもないことをした。

ルミさん達を放って、うら若き乙女の下腹部をななな舐めるなんて、なんと大それた事を。

こんなの一発逮捕だ。現行犯だ。


「べ、弁明しようもありません。申し訳ありませんでした!」


頭を地に着ける。

こんなことで許されるとは思わないが、謝らずにはいられない。

精一杯の謝罪の気持ち。


「あ、うん。シェリちゃんはいいよ?」

「いいんですか!?」

「だってちょっと気持ちよかったし? きゃっ恥ずかち!」

「そ、そういう問題でしょうか」

「よかったですね。クシムシの人生でも終わらなくて」

「クソムシ……」

「ちょっとちょっと、おじ様を変な名前で呼ばないでよ?」

「クソムシはクソムシです。というか貴女、あんなもの見せつけてどういうつもりですか」

「パンツのこと?」

「アホですか貴女は。石のことに決まっています」

「ありゃ? その言い方だとお姉さん、これ・・が何か知っているのかな? かな?」


お腹を抑えるシェリルさん。

それに対し、イブキさんは呆れたように返した。


「それは元々旦那様が――はあ……面倒ですね。とにかくそれは貴女のような脳内お花畑ビッチが持っていていい代物じゃありません」



「『賢者の石』、回収させて貰います」



イブキさん。今まで会った女性で一番恐い。

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