テストとおっさん
「あいわかった」
あれから、眠りから覚めた私達はイブキさんが用意してくれた食事を頂いた。
その頃には、ルミさんは調子を取り戻していた様だった。
流石ルミさん。
1つ気になるのは、サクヤさんがいつもよりルミさんに近い気がする事。
というか明らかに近かった。
食事も「ルミさんこれ食べます? あーんしてください♪」「こっちもおいしいですよ? あーん♪」「あ、ほっぺにご飯粒付いてます。ぱく!」と、結構なお手前だった。眼福。
終始ルミさんが恥ずかしがっていたのがまたGOODだった。
私の知らない間に何があったのか気になるところではあるが、食事を終えると本題に入った。
それは女神エリンと戦うか否か、ということ。
それぞれが答えを述べた。その結果は。
「わたくしの覇道を邪魔したあげく、こけにしてくれたことを後悔させてやりますわ!」
「拙者は姫様についていくだけでゴザル」
ユウリシアさんとディアノックさん。
「同族の犯した過ちは、正さなければならないと思います」
エーリンさん。
「チル様の為にも、殺されたヤマトの人達の為にも、今を生きる人達の為にも、私、戦います」
サクヤさん。
そして。
「あたしは……今の日常を、ママとパパが守ろうとしたこの世界を、好き勝手されたくない。だから」
ルミさん。
「私も、同じ気持ちです」
私。
全員がタケルヒコ様へ協力の意を示した。
「……よく決断してくれた。お主らの助力に感謝する」
タケルヒコ様が、静かに頭を下げた。
そして顔を上げる、と。
「3ヶ月」
「……え?」
「3ヶ月じゃ」
「それは、どういう」
「決まっておるじゃろう」
「修行じゃよ」
岩影に隠れる私。
両腕を失い、うまく呼吸もできない。
満身創痍というやつだ。
「どうした、もう終わりか」
タケルヒコ様の声。
ここに至るまでの流れはこうだ。
3ヶ月。というのは、3ヶ月で私達を鍛え上げるという意味だったらしい。
「サクヤ。儂はこの事態を想定しておらんかった。じゃからお主には巫術の中でも防衛術ばかりを教えてきた。じゃが、それだけでは勝てぬ。巫術の本領は相手を封殺すること、儂がそのいろはを叩き込む」
「は、はい! お願いしましゅ!」
「ルミエール。4代目は剣の腕に於いては歴代勇者の中でも最も優れておった。じゃが、お主の剣はまだ遠く及ばない。その高見に到達するには、お主の力を制御できるようにならねばならぬ」
「うん、わかったよ☆」
「魔王よ。超級魔術も使えるお主は、魔術に関しては魔力量共に申し分ない」
「当然ですわ!」
「じゃがいかんせん肉弾戦が弱すぎる。そんなでは格下にも勝てんぞ」
「んな!?」
「正直言って3ヶ月で通用する腕になるのは無理じゃ」
「」
「じゃから肉弾戦は前衛に任せ、お主は後衛で砲台となるオーソドックスなスタイルで伸ばす。前衛はディアノック、お主じゃ」
「デュフフww拙者の出番でゴザルなwww任せるでゴザルよwww」
「エーリン」
「はい!」
「お主は! ……まあ適当にの」
「私だけ雑う!?」
「いや、分身であるその体は成長せんじゃろ」
「たしかにそうですけど!?」
各々の課題。タケルヒコ様の協力を得て取り組むこととなった。
そして私と言えば。
「ヨシオ。お主の力は儂自身まだ測りかねておる。じゃから見極めさせてもらうぞ。さっそくな」
そう言って連れられたのは、ちらほらと岩場のある拓けた土地。
ルミさん達はアジトにお留守番だ。
「結解を張ってある。儂を殺す気でこい」
殺す気。というのは物騒な話だが。
私が全力を出しても死なないという安心感が、この人にはある。
タケルヒコ様曰く、タケルヒコ様と、最強の敵である2代目勇者はほぼ互角だそうだ。
であれば、これはいい機会だ。
仮想2代目として、私がどれだけやれるのか試してみたい。
そんな思いで向かっていった――
――結果がこの有様だ。
困ったな。想像以上だ。まるで歯が立たないぞ。
もうちょっと戦えると思ったのだけど。
腕は飛ばされるわ風穴は空けられるわ、ボコボコのボコにされている。
仕方なく、少なくなってきた魔力を使い、『ヴェノムヒール』で両腕を復元した。
腕の感覚が戻ったのを確認し、考える。
残りの魔力量から考えて、次のアタックが最後のチャンスだろう。
ふう。……いくか。
岩場の両サイドから飛び出す私――は、前にディアノックさんが見せた様な分身だ。
まだ2人しか出せないので、両サイドからだ。
それに対し、タケルヒコ様は動く気配がない、ので、岩陰に残っていた私はそこから雷撃を繰り出す。
岩を貫通し、タケルヒコ様に到達する。がタケルヒコ様の前に魔法陣が出現し、到達した雷撃が私の下へ戻ってくる。
特級の雷魔術が易々と跳ね返された。
このままでは岩場と共に私も吹っ飛ぶので逃げる。
その間に、私の分身がタケルヒコ様に迫った。
『蟲王葬大槍』を持つ私が【雷神槍】を。
『飛燕』『飛虎』を持つ私が【天武流・雷】を繰り出す。
が、何をされたのかもわからず霧散した。まじかYO。
私の分身が訳もわからず瞬殺されたことに驚きつつも、次の行動に出る。
タケルヒコ様の後方への転移。
そして溜めておいた【世界を分かつ青き閃光】をノータイムで放つ。
そう。分身は『飛燕』の片割れを放っておいたのだ。
『飛虎』の片割れを持つ私はそれ目掛けて転移を行い、タケルヒコ様への接近に成功した。
これが私のラストアタック。
最大火力の技だ。いくらタケルヒコ様でもただではすまないはず――
――などと考えていた私の視界は、突如、逆さまになる。
魔術や呪いの類によるものか、はたまた未知の技によるものか、瞬時に様々な思考が駆け巡るが、なんのことはない。
ただ私の首から上だけが逆さまになっていただけのことだ。
それに気付いた時、意識が遠のくのを感じた。
(凄まじい。予想以上だ。歴代勇者の力とはこれ程のものか。そして此奴の持つ力。いや、持たざる力か。これならば――)
空。赤みのある雲がゆっくりと漂っている。
「起きたか?」
その言葉で、自分が目を覚ました事を理解する。
上体を起こし、手で頬に触れる。
どうやら元に戻っているようだ。
隣。と言っても少し離れた所に岩に腰掛けているタケルヒコ様。
遠くの夕日を眺めているのか、はたまた何も見ていないのか。
ただなんというか、絵になる(・・・・)とはこういうことを言うのだろうか。
「すまぬ。加減を忘れた」
感心していると、長髪をなびかせたまま、こちらを見ることなく声だけがやってきた。
「いえ、私が弱いせいですから」
「そうではない。儂の予想以上じゃった。あの転移などは儂が知っておったから対応できたにすぎん」
「あ、そうだったんですか」
「うむ。それにお主の使った技に天武流の技があったじゃろ」
「はい」
「あれは何代目の技じゃ?」
何代目? 気にしたことがなかったな。
天武流……テンムリュウ……テンム……あ。
「そうじゃ。天武流とは2代目。勇者テンムの技じゃよ。そして『飛燕』『飛虎』も2代目が使っておった武器じゃ」
うわー。まぢですか。
タケルヒコ様の仇敵の技を見せびらかしてたとか。ウケる。
私はなんちゅう失礼なことを。
「……そう気にするな。力を見ると言いながら、つい仮想2代目として相手をしてしまったのは儂の方だ。有意義な時間じゃった」
そ、そうか。よかった怒ってはいないようだ。
「じゃが、お主の2代目の技は封印せねばならんの。当然じゃが、それらの技は奴には通用せん」
そりゃそうか。
使いやすい技も豊富だったのだが、通じないのでは仕方ない。
これからのスタイルは、タケルヒコ様に指導してもらえばいい。
「さて、そろそろ日が暮れる。戻るかの」
「あの、ちょっといいですか」
「なんじゃ?」
「私は、守れるでしょうか」
「しらぬ」
素っ気ない返事。
つい今しがたボコにされた私は、その不安を拭いたかったのだが、でもまあ、予想していた答えが返ってくる。
「自信がないか」
「はい」
「かっかっかっ!」
タケルヒコ様が笑う。
私はなぜ笑われたのか、理解できないでいた。
「すまんのう。お主の様な者からそんなこと言われるとのう」
笑わずにいられないとばかりに笑われた。
いったいなんだと言うのだ。
ひとしきり笑うと、タケルヒコ様はこう言った。
「安心しろ。お主は化け物じゃ」
「は?」
私が化け物。
見た目に自信はないが、ぎり人間だとは思っている。
であれば、力のことだろう。
勇者の力は化け物と言われても仕方ない。
……見た目という可能性もあるから、一応聞いておこう。
「それは、勇者の力が、ですか?」
「それもある、が、儂が言っとるのはお主の感情の事じゃ」
「それは、どういう」
「……まさか、気付いておらんのか」
何の話をしているのか、さっぱりわけわかめだ。
タケルヒコ様は少し悩んだような。呆れたような素振りを見せ、こう言い放った。
「お主、『恐怖』がないじゃろ」
おっさん。言われてもよくわからない。




